日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

脇差 兼法 Kanenori Wakizashi

2020-06-30 | 脇差
脇差 兼法


脇差 兼法

 兼法は美濃より越前に移住した刀工。江戸初期の越前刀工は、康継に代表されるように、相州伝の湾れ刃などを焼いている。これもゆったりとした湾れ出来で、湾れの所々にごく小さな小互の目や喰い違いが焼かれて変化のある刃文となっている。特徴は地鉄にある。これまで見てきたような大坂の刀工が求めた小板目鍛えとは異なり、時代も戦国期に近いのだが、肌目を意図的に起たせている。これを「ざんぐり」とした肌というのだが、強い筋を断ち斬るにはこのような強く起つ肌があった方がいい。鋒の刃文も湾れの調子を受けて湾れ込み、先小丸に掃き掛けて返る美濃風の帽子となる。ここに本国美濃の特徴が窺えるのである。
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信濃守信吉 刀 Nobuyoshi Katana

2020-06-25 | 
信濃守信吉 刀


信濃守信吉 刀

 信吉は江戸時代前期正保頃の京都の刀工。超の付く有名刀工ではないが、頗る上手で、大互の目出来の名品を遺している。本作は互の目に湾れを調合した刃文構成。沸深く刃中に流れる砂流しが美しい。特に互の目の谷から隣の谷へと流れ掛かる細かな沸の砂流しがいい。帽子も単に丸く返るだけでなく、先端に掃き掛けのように砂流しが広がって美しい。
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言之進照包 刀 Terukane Katana

2020-06-23 | 
日本刀買取専門サイト 銀座長州屋

言之進照包 刀


言之進照包 刀

 先に紹介したことのある越後國包貞同人。綺麗な濤瀾乱。刃中にすぎることのない沸筋とも砂流しとも言い得る綺麗な働きが流れ掛かる。沸の粒子が揃ってしかも明るく冴え、地鉄の均質さが一段と高まり、これらの調和美を成している。照包は助廣などに次ぐ濤瀾乱の上手な刀工だと評価されているが、時に助廣を凌駕する作品を遺している。濤瀾乱を創始したのが助廣でその功績を称えるのであれば、より深みのある作風へと広めていった多くの刀工の存在を忘れてはいけないし、ただの真似だと低い評価を下すべきではない。


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一平安在 脇差 Yasuari Wakizashi

2020-06-22 | 脇差
一平安在 脇差


一平安在 脇差

 薩摩刀工一平安代の一門。作風は安代を見るように沸が強く明るく、湾れ刃の中に沸筋が層を成して強く入る、薩摩相州伝の力強い出来である。この強弱変化しつつ長く掛かる沸筋を薩摩の特産であるサツマイモに擬えて薩摩の芋蔓と呼んでいる。強く意図して沸筋を出したわけでもなかろうが、相州伝を取り入れて焼刃を施す上で、多少は意識したのであろう。もちろん沸筋のない作品も存在する。大粒の沸、時に荒沸と呼ばれる強い沸があり、これも大きな見どころ。


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伊勢大掾綱廣 脇差 Tsunahiro Wakizashi

2020-06-20 | 脇差
伊勢大掾綱廣 脇差


伊勢大掾綱廣 脇差

 綱廣は相州の名工正宗の末流という。室町後期辺りから綱廣の作が遺されている。この脇差の作者は江戸時代前期万治頃に活躍した工。室町時代の相州鍛冶は多くが皆焼調の刃文を焼いているが、本作は古作への回帰であろうか湾れに互の目を交えて不定形な乱刃としている。地鉄は小板目の所々に板目を交え、地沸が付いて一部湯走り風に沸が強まる。刃文は沸本位で深く明るく、互の目の一部は鎬筋にかかるほどに深く、砂流しと細い沸筋が川の流れのように刃中を彩る。江戸時代も下ると、刃文に独特の形態を求める工が多い中で、本作は古作の再現を求めたようだ。


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筑前國福岡住是次 脇差 Koretsugu Wakizashi

2020-06-19 | その他
筑前國福岡住是次 脇差


筑前國福岡住是次 脇差

 この刀工は備前伝を得意としたはず。普通に見る作風は、烏賊の頭と呼ばれる尖りごころのある逆がかった互の目丁子で、時に地中に映りの起つ古風な焼刃と新鮮味のある地鉄が特徴のはず。だから、このような相州伝の作品があるとは知らなかった。湾れ刃の刃中の沸筋、砂流しが流れ掛かり、地にも沸がこぼれている。地鉄が特異。板目肌が小板目肌に交じって強く現れ、太い地沸が厚く付いて地景がうねるように入って迫力のある地相となっている。この刃文と地鉄の調和が面白い。


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肥前國住人貞吉 刀 Sadayoshi Katana

2020-06-17 | 
肥前國住人貞吉 刀


肥前國住人貞吉 刀

 貞吉は肥前國を代表する初代忠吉の一族。地鉄は均質に詰んだ小板目肌。大坂新刀とよく似ているところである。大坂新刀も、肥前刀も、小板目肌が緻密に、均質に詰むという大きな特徴がある。江戸時代の多くの刀工が目指した点でもある。それがゆえに地鉄に特徴が見出しにくくなっている。刀工は、おのずと刃文構成に特徴を出さねば個性が光らなくなることを認識している。吉貞は、相州伝を目指したようだ。湾れの所々に不定形の互の目を配しているところがその証し。小沸の帯による焼刃がゆったりと続き、互の目は頭が揺れるように配され、互の目の中に葉が組み込まれて目玉のように感じられる。この辺りに肥前刀工の互の目の特質が窺える。帽子も乱れ込んでいる。
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越後守包貞 刀

2020-06-16 | 
越後守包貞 刀

 
越後守包貞 刀

 包貞も濤瀾乱刃を焼いた一人。直刃も上手だし、このような、ゆったりとした湾れ刃も焼く。刀身全体を眺めると、地に湾れ込むところが五つ焼かれている(刃採りのために刃文は判りにくいが刃採りは刃文に沿っている)。意匠の主題は繰り返し寄せ来る波に他ならない。沸は深く明るい。沸の粒子も揃っている。湾れの中に断続する沸筋が、食い違いを成し、所々二重刃のように感じられる。層状の沸筋が帽子へと連続し、強く掃き掛けているのも見どころ。


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越前守助廣 刀 Sukehiro Katana

2020-06-15 | 
日本刀買取専門サイト 銀座長州屋


越前守助廣 刀


越前守助廣 刀

 寛文年間の作。かなり不定形に乱れた中に互の目と湾れがある。いろいろと工夫し研究していたころのものと考えられる。このように完成とはいえないであろう作品にも面白いものがあるという一例。刃中は沸が流れて層を成し、一部は地中にも沸筋が流れて丹波守吉道を見るようなところもある。沸が叢付いて激しい印象があり、帽子も大坂新刀らしからぬ掃き掛けで火炎状に乱れて返っている。
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近江守助直 脇差

2020-06-13 | その他
 助廣の初期の作風は初代の互の目丁子出来を専らとし、万治頃から互の目主調となり、寛文頃から互の目に変化を持たせた様々な刃文を焼いている。試行錯誤し、独自の刃文を生み出そうとしていた時代であろう。寛文四、五年頃の互の目乱刃に玉刃の焼かれた作がある。これも研究の一つであろう。以降、互の目を崩した刃文、湾れ刃、湾れと互の目の複合、などがあり、寛文八年頃から湾れに大小異なる互の目を配した濤瀾乱風の刃文が焼かれるようになった。寛文十年の作に濤瀾乱刃の完成ではないかとされる作があるのだが、玉刃は多くない。この時期は、ごくごく浅く湾れた直刃や、ゆったりとした湾れ刃も美しい。寛文十二年ころから盛んに濤瀾乱刃を焼くようになる。以上助廣大鑑より。助廣亡き後に大坂で活躍した助直や、國輝、照包、さらに時代の下った助隆、正秀、その門下の綱俊などなど、濤瀾乱刃を焼いた刀工は多く、ここに表記した刀工の作品は多くが助廣に負けていない出来となっている。
 濤瀾乱刃は良く知られているのだが、海原の大波をデザイン化したのが濤瀾乱刃であれば、大波にもさまざまあるわけで、濤瀾乱崩し、湾れ崩し、湾れ刃に互の目を構成した刃文、互の目を意識的に崩した刃文なども濤瀾乱刃と同じ考えの下で生み出された刃文ではなかろうか。綺麗に整った刃文も良いが、古作が持つ自然味と、江戸時代の綺麗に構成された刃文との調和美も見どころではないだろうか。どのように名付けてよいか分からない、結構面白い刃文がある。隙のないほどに整った造形からなる焼き物も美しいが、どこかに釉薬の垂れた痕跡や罅や皺のある、あるいは手捻りのゆがんだ焼き物にも言い知れぬ魅力があるように。



越前守助廣 脇差
 大互の目の時代。互の目の処々に玉が焼かれている。



近江守助直 脇差
 刃先近くまで深々とした沸の広がりが魅力。沸の中に湾れがあり、互の目があり、玉があり、沸筋があり、金線がある。物打辺りは不定形の刃文構成だが、下半は互の目湾れが顕著になっている。下半の刃中には沸筋が層を成している。
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丹波守吉道 初代 脇差 Yoshimichi Wakizashi

2020-06-12 | 脇差
丹波守吉道 初代 脇差


丹波守吉道 初代 脇差

三品一門は美濃の出身だが、相州伝において際立つ存在感を示した刀工集団である。沸強く沸深い刃文は、刃文構成に定まったところがなく、不定形に乱れ、沸が鍛え肌に沿って流れるように付き、これが景色を成している。地鉄鍛えに板目があり、その一部が流れて柾目肌や板目流れの肌となっており、これが働きの原因となっているのだ。砂流しもそうだ、ほつれもそうだ。
先に紹介した写真を見てほしい。初代丹波守吉道の変幻なる沸の働きを。刃文構成は大湾れ、不定形の湾れであることが基本で、刃文は物打辺りで大きく地に広がり、この中に層状の沸筋が幾重にも重なって流れ掛かる。普通に川の流れが思い浮かぶだろう。穏やかな湾れの中に層状の流れが見える。ただし、後の層の重なる刃文とはちょっと異なる。刃境の乱は水中の藻の揺れや、砂の流れを思い浮かべる。ヒケがあって見にくいところは容赦願いたい。造り込みも、江戸時代最初期に特徴的な寸法が短く身幅が広く先幅も広くがっしりとした姿格好。




丹波守吉道 二代 脇差

 川の流れを想わせる刃文の完成形である。先の作品と比較しながら鑑賞されたい。京人であれば桂川や鴨川は絵画の対象としてみることが多かったであろう。
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丹波守吉道 初代 脇差 Yoshimichi Wakizashi

2020-06-11 | 脇差
丹波守吉道 初代 脇差

 
丹波守吉道 初代 脇差

何度も説明していることだが、簾刃(すだれば)なる刃文がある。丹波守吉道が創始した、層状に焼かれた刃文構成のことである。なぜこれを簾刃と呼んだのだろうか。吉道はこのようには呼ばなかった。本人から聞いたわけではないので、遺されている作品からの判断だが、層状に連なる刃文を簾に見立てたのは、後の刀剣研究家ではないか。吉道本人は迷惑していると思う。簾ではないだろう、川の流れだろう、と。そもそも不定形の乱刃の中に現れた砂流し、沸筋が層状に働いているところからヒントを得、強調して刃文構成とした。さらに後代は匂出来の層状の刃文を焼いた。良く言われるのはこの頃の作品であり、二代目以降、大坂に移住した大坂丹波と呼ばれる刀工も得意であった。
 とある雑誌で「簾刃」の説明をしたいと協力を求められた。それは簾刃ではないよ、川の流れを刃文にしたと説明しなければおかしいよ、とアドバイスした。いや、昔からこのように呼ばれているから、との返事であったが、当方はもちろん譲るわけにはゆかない、どこまで説明されるであろうかと、仕上がってきた雑誌を見たところ。何ともおかしな説明になっている。さらに、そのうしろの資料に吉野川を焼いた刃文を示して、川の流れに桜を焼いたと説明している。全く同じ層状の刃文構成であるにもかかわらず、一方では川の流れであり、一方では簾。即ち簾ではないんだ。川の流れを刃文で表現したものなんだ。
 この刃文が創始されて何年か後に大坂の助廣が濤瀾乱刃を創始した。連続する大互の目を次第に大きくして波の寄せ来る様子に見立てたものが濤瀾乱刃だ。助広が突然にこの刃文を思いついたとは考えにくい。初代が焼いていた丁子出来刃文から大互の目へ、そしてさらに濤瀾乱へと向かう意識の変化だ。すでに吉道の独創的な川の流れを想わせる刃文があり、これを目にした助廣は自らも個性的刃文を焼きたいと考えて研究を重ねたに違いない。
 助廣の濤瀾乱刃を良く言う人が、吉道を悪しく言い捨てることがある。何を根拠に良し悪しの判断をしているのだろうか。助廣の意識改革に多大な影響を与えたのは間違いなく吉道である。地域の特質のみが評価の対象とされた古刀期の作から、刃文に芸術性を求め新時代の創造的刃文構成を生み出したのは間違いなく吉道である。しかも切れ味も抜群である。吉道は助廣と同様に高く評価されてよい刀工である。
 
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