こんばんは。
摩訶不思議百物語の9話をアップします。
当時は大学一年生で、初めて、興味本位に怪談話をするとよくないことや、離れていても呼ばれた気がするという話が本当にあるんだと思いました。
多分シリーズで最悪怖い話です。
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ある秋の日、友達が自分の下宿で飲み会をするよと電話をかけてきました。
ちょっと遠いのですが、近所のあっちゃんを誘って、行くことになりました。
男の子が3人、女の子が2人で、初対面の子もいて、挨拶しながら、だんだんと話は盛り上がって、みんな飲んでいました。
あるとき、男の子の一人が、
「俺の友人に霊感が強い奴がいるんだ。」
と話しはじめました。
「奴を呼んでみようか。」
「もうこんな時刻だよ、大丈夫?」
などと、彼の話題で盛り上がっていたときです。
・・・・・・・突然電話がなりました。そのくだんの彼からでした。
「おぉ、タイミングいいじゃん。」
と余計盛り上がった私たちは、彼を加えて騒ぐことにしました。
彼は程なくしてやってきました。彼は、「呼ばれた気」がして、電話をかけてきたそうです。
そんな彼を加えた途端、話の方向は、もちろん怪談の方になっていきました。「で、私が。」「俺も俺も。」とみんなが話が怪談ではずんでいました。
・・・・・・すると、だんだんと、部屋がピシピシと鳴ってきました。みんなは「なんだ、なんだ。」と言いながら、部屋が鳴るくらい、たいしたことがないと思って、話を続けていました。
しかし、だんだん、部屋だけではなく、外もにぎやかになってきました。下宿の階段を上り降りする音、下宿の庭のある芝生を何人も踏んで歩いている音、ドアの向こうに誰かがいる気配、しかも部屋がとても寒くなっている(暖房は27度まであげたのに)など、誰もがなんか状態が正常じゃないことに気がつきました。
「なんだ?外でなんか起きているのか?」
と、そこにすむ友人が、カーテンを開けようとしました。
「だめだ!開けちゃいけない!」
と、例の彼が叫びました。
「開けたら、入ってくる。それでもいいのか。」
と妙に静かな声で言いました。
しかし、時刻は、夜の12時くらいになっていました。もう、私は帰らなきゃいけない時刻でした。
「これじゃ、帰れないよ。」
と立ち上がりました。
「でも、帰るよ、あたし。親の方が恐いもん。」、
「tomoさん今、出れると思っているの?」
「それでも、親に怒られるほうが怖すぎる。」
と言った私に、その男の子は言いました。
「朋さん、どこがあぶないかくらいわかるよね。」
「うん。」
「じゃ、この塩を持って。それから、友達の彼女の手は絶対に絶対に放しちゃいけないよ。」
私は、その時信じられないほど、手に取るように外の状態が分かっていました。妙に冷えた冴え渡る感じが自分にしました。私は、その男の子は、玄関先をきれいにしている間に、友達の手を取って走り抜けて帰れと言ってくれました。
「いくよ。」「うん。なんかとんでもないことになったけど、よろしく。」
男の子は深呼吸して、玄関先に向かって何か叫びました。途端、玄関先がなんか少し明るく暖かくなりました。
「いまだ、いくよ、あっちゃん。」「わかった、朋。」
私は、友達の手を握って、走り出しました。あの角はだめだ、あそこならいける、とジグザグですが、なんとか大通りに出て行くことができました。
・・・・・・・・・しかし、終電は、行ってしまったあとでした。私は、あっちゃんの手を握りながら、タクシーに乗ることにしました。
ちょうど、大通りの右側の霧の影から、タクシーが来ました。私は、手を大きく振って、その車を停めました。
「あぁ、これで助かったよ。」
とあっちゃんに笑うと、さっそく乗り込みました。もう、二人とも興奮していて、行く先を言うことを忘れていました。車は、下宿先を離れていきます。
「恐かったねぇ。」
とあっちゃんと私は話していました。ふとその時、後ろからクラクションの音がしました。振り返ると、さっきの彼がものすごい顔でスクーターを飛ばしてやってきます。
「なんだ?なんだ?」と私とあっちゃんは、後ろの彼に手を振りました。なんで、彼は追ってくるんだろう。忘れ物でもしたかな。
まぁ、急いでいたからしょうがないや、と思って前を向いた私は、行き先を言っていないことに気づきました。もくもくと進んでいくタクシーの運転手は振り返りません。私は、タクシーの運転手に話し掛けました。
「高井戸までお願いしたいんですが。」
運転手は答えませんでしたが、まぁ、無口な人なんだろうと安心して、私は、あっちゃんの手を放しました。
・・・・・・・・・・・・すると、後ろからどなり声が聞こえてきます。
「止まれ!止まってくれ!」「頼む!止まれ!止まってくれ!」
あんまり、うるさく追ってくるので、私たちは、車を止めてもらうことにしました。
「あのー、友達が後ろから来るんで、ちょっと止まってもらえますか。」
「すみません、ちょっと止まってください。」
運転手はもくもくとハンドルを握って振り返りません。
私は運転手の肩に手をかけ、揺さぶりました。
すると、運転手の首だけが不自然な形で180度動き、緑色の顔をこっちに向けて言ったのです。
「・・・・・・高井戸ですね」
私たちは、完全にパニックになりました。
「いや、違います。止まってください!!」「すみませーん。行き先間違えました、止まってー。止まってください」
と半狂乱に叫び始めたあっちゃんと私は、慌てて、車のドアを開けようとしました。もうパニックでした。タクシーのドアは、安全のため、ふつーは開きません。
それでも、しつこくがんばっていると、突然、ガタっと音がして、私は外に放られました。まるで、止まった車から飛び出したような衝撃しかありませんでした。そうです。タクシーに乗ってずいぶんになっていたのに、タクシーを止めたところからちょっとのところに私は転がっていたのです。
・・・・・・・・・・・タクシーは、そのまま霧の向こうにあっちゃんを乗せたまま、行ってしまいました。
私は、あの時のことを今でも悔やんでいます。私はあっちゃんの手を放していたのです。絶対に放しちゃいけないと言われていたのに。
男友達は、後で、私に話してくれました。私たちが大通りに出てつかまえたタクシーは、みんなには見えていなかったこと、二人はただ霧につつまれて見えていたこと。
翌昼、あっちゃんは、その通りのずいぶん先の府中付近で、錯乱状態で発見されました。何があったのでしょうか。
あっちゃんは誰とも話せないいまま、病院にいます。
できすぎですが、某霊園の前で発見されたのでした。
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今も思います。このタクシーは霊界行きのタクシーだったんでしょう。あっちゃんは、その後何を見たのでしょうか。
それ以来、深夜のタクシーには、人一倍気を使います。
興味本位で怪談話をして、大勢の霊を呼んでしまった。
もう、あまりこういうことをそれからしたくなくなりました。
ではこの話はこの辺でよろしくお願いします。
tomo