MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<24-2>頭に血が上っちゃうんですが・・・(2)

2005-11-24 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
では、どうしてこうした「意外」な結果が出てきてしまうのでしょうか。

カギは、ヒトの認知プロセスにあります。
ヒトはある物事を経験するときに、何でもオープンにまっさらな頭で受け止めるのではなく、色々な解釈を自動的に付け加えて理解しています。
その無意識の解釈が、目の前の現実や相手の反応と矛盾するとき、自然ないわば防衛反応として、「こんなのはおかしい」と怒りが生じてくるのです。

具体的には、ヒトの理解の過程には4つのステップがあります。
一歩目の理解に基づいて次の一歩を進め、最終的な思い込みが成り立っていくので、ビジネススクールではこれをLadder of inference(解釈のハシゴ)と呼んでいました。
四つのステップとは、次のものを指します。

1. データの選択
2. データの解釈
3. 解釈に基づく評価
4. 評価に基づく前提

簡単に言えば、1.はまず、判断の上で何が大事なことなのか、何を元に物事を判断するか、判断の元となるデータ(現象)の選び方です。

さらに選んだデータ(現象)に対して、それがポジティブなのかネガティブなのか、どう取れるのか、解釈の仕方は人それぞれです(2.)。

さらにあるデータが仮にポジティブだとしても、「だから交渉に対してそれがどういう影響をもつのか」という評価はヒトによって違います(3.)。

最後に、交渉へのある影響がありそうだと分かったとしても、交渉の中でどこまでそれを「前提/所与」と考えるかは交渉者次第でしょう(4.)

このように、思い込みや前提の背後にはいくつもの判断の階層が存在します。
これらの階層のいずれかで、相手(や目の前の現実)とあなたの間にギャップが生じているからこそ、「こんなはずじゃなかった」という事態が生じてしまうのです。

例を挙げて考えてみましょう。

AさんがBさんに物を売る交渉をしているとします。
一回目の話し合いでは、Bさんは話し合いの間中しぶい表情をして、「そんなに予算がないから」と乗り気でない様子を見せていました。
しかし話し合いの最後になって表情を和らげ、「次回の話し合いまでにもう少し検討しておく」と話し、二回目の交渉を約束しました。
二回目の交渉に臨むにあたって、AさんとBさんは交渉にどんな期待をもっているでしょうか。

Aさんとしては「前回Bさんが最後に表情を和らげて前向きな発言をした」こと(データ)を重視したくなるでしょう(1.)。
Aさんから見れば、Bさんの表情はポジティブなもので、とても清々しそうなものに見えました。だとすると、Bさんも交渉戦術上しぶい顔を見せていただけで、ホンネの部分ではまだまだ交渉成立への意欲があるのかもしれません(2.)。
Aさんにとっては、Bさんの面子を立てつつその関心をうまく引き出してやれば、交渉成立に向け有利な進め方ができることでしょう(3.)。
ともかくAさんとしては提案をブラッシュアップして交渉に向かいます。と同時に、二回目の交渉では当然Bさんサイドから何らかの提案があったり、うまくすればこちらの前回の提案を了承してくれるかもしれないと考えます(4.)。

一方Bさんから見ると、「あまり乗り気がしないので前回こちらはずっとしぶい顔を見せていた」という印象の方が強かったりするでしょう。最後に表情が(無意識に)和らいだのは、トイレに行きたいのを我慢していて、やっと交渉が終わったからかもしれません(1.)。
Bさんの常識からすれば、あれだけ一生懸命説明する売り手にあれだけ鈍い反応をしていたのだから、当然ネガティブな反応であったことは相手に通じたと思うでしょう(2.)。
それだけネガティブなら、「基本的にこの交渉はまとまらなそうだ」と相手も評価しているはずです(3.)。
だとすると、(そもそもBさんは乗り気でないので)「あれだけいやな顔を見せておいたから、相手も分かってくれて、打ち切ればそれでOKだと考えます(4.)。

こうした二人が交渉に臨めば、お互い「こんなはずじゃなかった」とひと悶着あることは想像に難くありませんね。

このように同じ経験(この場合一回目の交渉)を共有していたとしても、その中で何が重要だったか、それをどう解釈できるか、それが交渉にどんな影響をもつか、ヒトによって考え方にバラつきが生じることは非常に多くあります。

交渉など生産的なコミュニケーションを円滑に進める一つのカギは、こうした理解の相違を「当然起こるもの」と受け止め、どこでどうお互いがずれているのかを明確にしていくことです。
その際相手を批判したり、どちらの解釈が「正しいか/優れているか」を競う姿勢をなくすことが重要です。
交渉は互いの利益のために行われるものであって、真理を探究する議論ではありません。

-どちらの意見が正しいのか?
-どちらの理解が本当の意味で優れているのか?普遍的なのか?

といったことが交渉の争点になってしまっているとしたら、そしてそのために話し合いが怒気を帯びてきているとしたら、こう考えるべきです。

-どちらも正しい。そんなことは問題じゃない。あるのは前提の違いだけ。

解釈・前提を自在に使ってものを考えられるようになると、よほどえげつない発言を受けない限り、交渉で腹が立つことはなくなるはずです。
基本的にはこれで十分に交渉の上級者なのですが、さらに話を深めていくと色々な技・コツがあります。
そこでこの議論を進めた応用として、相手の挑発的な発言にどう対処したよいか、を次回は考えてみたいと思います。

2 コメント

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初めまして。keiと申します。 (kei)
2005-12-19 12:14:20
僕も、交渉を研究しています。



このページを見て、非常に参考になりました。この場をお借りして、お礼を申し上げます。ありがとうございます。



それと、僕のページとこのページをリンクしたいのですが、いかがでしょうか?



お返事お待ちしております。



http://hello.ap.teacup.com/negotiation/
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Unknown (negoshieita)
2005-12-22 19:18:39
どうもありがとうございます。

交渉を勉強されているみたいですね。



もし参考になったようでしたら、そちらのお気に入りにでも、入れていただければと思います。
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