志情(しなさき)の海へ

琉球弧の潮風に吹かれこの地を掘ると世界と繋がるに違いない。世界は劇場、この島も心も劇場!貴方も私も劇場の主人公!

大城立裕作、新作組踊『真珠道』の張り出しステージでの上演、とても良かったですね!

2022-03-13 03:25:06 | 琉球・沖縄芸能:組踊・沖縄芝居、他
主演の倉田真刈の東江裕吉さんとコマツ役の新垣悟さんはもっと高く評価されていい舞踊家であり組踊の立役【立方】です。新垣さんは舞踊と組踊に邁進で、東江さんは舞踊と組踊だけではなく沖縄芝居(時代劇/史劇、歌劇)にも出演するなど、かなりの実力です。お二人の沖縄の伝統芸能の技能は安定しています。この作品は、東江さんと新垣さんの十八番の新作組踊ですね。

今回ハットして魅了されたのは、真刈の父親役嘉手苅林一さんとその母親役真境名律弘さんの場面でした。特に真境名さんの唱えの美しさに、まろやかな声音に驚きました。このような女吟(ヲゥンナジン) で真境名さんは若衆や母親役の組踊にこの間出演されていたのでしょうか。もっと聴きたくなります。真境名さんが唱える女吟の作品を観たいですね。『大城崩』の「をなぢゃら」の役を演じられたことはあるでしょうか。小柄だから若衆というわけではなく(以前「大城崩」の若按司を演じている)、唱え(台詞)の多い役柄の作品を是非観たい(聴きたい)と改めて思いました。次回からの組踊作品では真境名律弘さんが出演しているかどうか、見極めたいと思います。

村掟役の石川直也さんの声の良さは以前から惚れ惚れしていたので、今回も落ち着いた太い声音、良かったです。真刈とコマツも聴き応えがありました。コマツの声音は落ち着いたトーンです。どちらかというと高いピッチではないので若い時の声音と人生の荒波を経て「肝病みの果てに」巫女(ユタ)になったコアツの変化が声のトーンに感じられたら良かったと思うのですが、意外とそれはしっかり表出していたのかもしれません。録画映像を見たらはっきりわかるでしょう。

この作品は上演回数はそれほど数をこなしていないはずですが、演技がこなれていて間の者の雰囲気で、まさに村人の集団演舞や台詞、巧妙でした。地謡のみなさんも13曲の夫々の節をソロで謡ったり、数人で謡ったり、楽劇を堪能できました。

作品の中の物語の筋にそった、キャラクターの心情の変化に伴う節はよく構成されていますね。できたらどなたがどの節を謳っているのか、記載してほしいです。音曲(節)と舞台上の役者の所作や踊り、心情が見事にタイアップして物語が流れ、惹き込まれていきました。

作品の中身に関しては以前書いたことがあるのですが、人柱伝説を基にしています。「真玉橋由来記」【1935(昭和10)年ごろの初演で、平良良勝作の伝説劇。岡本綺堂作の「長良川」を沖縄風にし、真玉橋架橋工事の難工事であったことに巧みに重ね、「七色元結」の伝承を取り入れた作品】 という沖縄芝居があり、まさに国場川に人柱によって橋をかける物語です。

芝居との類似点と違いはいろいろあります。ここでは割愛します。身分制度の犠牲になった村娘コマツと彼女を心から愛しながらも、親と家(殿内)の義と掟に縛られてそこから逃れることができなかった士族の里之子真刈の恋愛が冒頭にあり、その後再会した時、コマツが絶望の淵から村の巫女になったことがわかります。流される橋を掛けるために、彼女は愛してやまなかった恋人(普請奉行)のために村人のために自ら人柱になるのです。神託を自ら告げて~。明瞭な意思で愛に殉死する女性の悲劇は、悲劇が悲劇ではないことを突きつけてきます。無情/無常な時の流れに見える浮世に一つの真実が灯っていました。悲劇的リズムが波打っています。

組踊はWell made 劇がほとんどですが、この作品は悲劇(詩劇)になっています。古典組踊で悲劇的リズムを持っているのは「執心鐘入」だけですが新作組踊は一味異なりますね。

ところで琉球に人柱が実際にあったかどうか、は疑問に思っています。調べてみたのですが、あったという歴史上の記録はないです。(琉球史研究者の皆さん、人柱があったでしょうか?)ということは、これはフィクションです。現代的感性の上で創造された物語です。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。