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狭いベランダで育てているバラのこと、一緒に暮らす猫のこと、トールペイントのことなどなんてことない毎日を書いていきます。

風邪をひいている間に少し本を読んだ、三島由紀夫の『レター教室』について

2017-01-14 20:39:49 | 読書
風邪をひくと長く布団の中にいることになるので、本が読みたくなる。

今回も、読みやすい佐藤愛子先生のエッセイ、江國香織さんの〈綿菓子〉、三島由紀夫の〈レター教室〉を読んだ(それぞれの呼称は気分で)


レター教室は、さすが天才作家三島由紀夫大先生のお作品だけあって、最初から最後まで非常に面白かったです。

氷ママ子(45歳 英語塾講師)、山トビ夫(45歳 服飾デザイナー)、空ミツ子(二十歳 OL)、炎タケル(23歳 芝居の演出の勉強中)、丸トラ一(25歳 今で言うフリーター)

この5人がお互いに手紙を出し合うという形をとっているこの小説は、手紙だけで成り立っているのですが

この手紙の文章が、すごいです、それぞれの特徴を踏まえその内容に合ったユーモアあふれる才気煥発な文章とでも言ったらいいのでしょうか、、?

女性週刊誌で連載されたらしいですが、読みやすいのに品格溢れ箴言がちりばめられており、何度も読み返したくなる小説です。


(中から抜き書き1)
純情な50歳の銀行員からラブレターをもらったけれど、どうしたらいいでしょう?と相談のふりをしながらそのことを山トビ夫に自慢する氷ママ子の手紙に対して

「50歳にもなれば、人生は、性欲とお金だけで、(純粋な心の問題)は、それが満たされたあとでなくては現れるはずもないのです。

それも五つも年下のあなたに向かって、(慈母のような)とは何たる失礼!この男はきっとエディプスコンプレックスの持ち主で

ワイシャツの下にこっそり、涎掛けをかけているに違いない。

そして、そこでは、母親へのあまったれが、もっと不純な、(母親の生活力への甘ったれ)に変形していることを、あなたたるもの一目で見抜かなくてはなりません。」

と、山トビ夫は返信します、それだけではなく

「それにしても筆が滑って、こうまで、その見ず知らずの男を罵倒したくなったのは、ひょっとすると私の嫉妬が隠れているのかもしれませんね。」

と、手紙の最後に書いてあるなんて心憎いではありませんか。

(2)
山トビ夫は、しょっちゅう恋をしているようですが、キュートな空ミツ子にも肉体的な愛の申し込みの手紙を書いています。

「あなたの唇は、まるで今朝作られた唇のように新鮮で、できたての奴をもぎとってきて、セロファンをむいたところと言う感じで

そこへアイスクリーがムまつわりつくありさまは、新しい靴をぬかるみで惜しげもなくよごすみたいで、およそもったいなかった。

あなたの唇は、今朝、おはようと言ったときに、どんなに柔らかく、どんなに美しかったでしょうね。

本当に(おはよう)というのにふさわしい唇を持った若い女性は、人の目を覚まさせます。

それからあなたの胸は、どうしてそんなに、打てば響くようないい格好をしているのでしょう。」

と、まぁえんえんと手紙は続くわけですが

空ミツ子は、それをまた嫉妬させるために炎タケルに見せ、炎タケルは彼女にこんな手紙を書きます。

「君は、(いやらしい手紙をもらったわよ。来週の木曜日に来いと言われたけれど誰が行ってやるもんですか)などと言いながら

僕が手紙を読み終わって引き破ろうとすると、慌てて取り返して、ハンドバッグへしまったね。

あんな汚らしい手紙をどうするつもりなのか。家に帰って神棚にでも上げておく気なのか。

僕には大体分かっているが、イヤラシイと眉をしかめながら、あの手紙があんなにきれいに大事に折りたたまれていたのはなぜなのか。

君は僕に見せる前に、少なくとも30回ぐらいは大切に大切に読み返した形跡がある。

それからどうしたかもよくわかっている。

君はそのたびに、鏡の前に飛んで行って、自分の形のいい唇をいろいろ動かしてみて観察したり、胸のふくらみを横から映して横目でのぞいてみたり、

いろいろ破廉恥なことをしたに決まっているのだ。」

三島先生は、なんて女心を分かっていらっしゃるんだろう、そして、そのいやらしさにちくりと針を刺したりして、、全く快感です。


(3)
赤ちゃんを出産しその喜びを伝えるために元生徒さんが氷ママ子先生に出した手紙

「かわいくて、かわいくて、かわいくて、(これを百ぺん繰り返し)、たまりません。

子供に乳を与えるときの哺乳動物のメスの満足感というのを、英語で表現したら、どんなことになるのでしょう。

少なくとも日本語では見つかりません。

先生、還流式の噴水と言うのがあるでしょう。吹き上げた水が落ちて、また元に戻って、吹き上げられる。丁度あれですわ。

今まで自分一人の生命と思っていたのが、その生命が、自分から、お乳を通して子供の中へ流れ込み、その子供の体から、今度は目に見えない光の流れになって

自分の中へ戻ってくる。その光の流れが、また、私の乳になって、子供の体へ流れ込んでゆく。生命は環になったのです。

『彼』は実によく眠ります。あんなに眠れるのは、この世界が落ち着いた場所と知って安心したからに違いありません。

そして、『彼』のおかげで、私にとっても、この世界が、落ち着いた幸福に満ち溢れて感じられます。」

三島先生は何でもご存知です。

男の心も女の心も子供の心も思春期の時の心も成長してからも中年になった時も老いてからの心も。



他、色々もっと書きたい文例多数ですが、後は、興味がおありであれば読んで楽しんでいただきたいと思います。

最後に作者から読者への手紙が書いてあり

「世の中の人間は、みんな自分勝手な目的へと向かって邁進しており、他人に関心を持つのはよほどの例外だ、とわかった時に

はじめてあなたの書く手紙にはいきいきとした力がそなわり、人の心をゆさぶる手紙が書けるようになるのです。」とあります。

確かに、ブログだって同じこと、重々分かってはいてもやっぱり自分の事ばかり書いてしまうのはどう言う事なんでしょうかねェ。








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