(○之内出版刊。)
「いま辞めるなら罰金だ」といういうようなバイト学生の引き留め方は暴力的で、むかしの「タコ部屋」と同じである。ブラックバイトになぜ学生がからめとられるのか、いまどき雇用者のは強圧的な態度だけからでは説明ができない。
学生側の要因を指摘する考え方もある。「まじめな学生ほど仕事に穴をあけたくなくて、無理なシフトを引き受けてしまう」、(社会経験が足りないから)「ひどい待遇でも、そういうものだと思ってしまう」といった意見である。
しかし、これまでのブラックバイトに関する考察で抜けていることがある。それは、学生が「この仕事もなかなかいいじゃないか」と感じてしまうことである。これは社会経験の少なさではなく、人間にはそういう傾向がもともとあるのだ。
アメリカの社会心理学者フェスティンガーは次のような実験を行った。
(1)対象者をA、B、C群にわけて、つまらない作業をやらせる。
(2)作業後、A群には20ドルの報酬を与えた。B群には1ドルの報酬、C群にはゼロ。
各群に作業の楽しさを訊いた。その結果、「楽しかった」、「またやりたい」と答えた者が有意に多かったのは1ドルしかもらえなかったB群だった。
報酬が不満足だと、人間には自分がやった仕事を無意識に「楽しかった。またやりたい」とかえってボジティブに位置づける傾向があることを、この実験は示している。自分がやった仕事が「つまらないことだった」とは考えたくない心性を人間はもっているのだ。
ブラックバイト学生に限らず、多くの勤労者がこの心性を働かせながら仕事をしているのだと思われる。
※今日、気にとまった短歌
食という普遍しずかに介護所の食事マナーに認知差の無く (杉並区)本間木丈