院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

医学部の伝統、「患者供覧」

2013-04-24 00:13:53 | 教育
 どんな写真や文章でも、情報量において実物にはかなわないと考える伝統が医学部にはある。

 だから医学部では学生に、言葉だけではなく本物を見せようとする。それが「患者供覧」である。

 印象的だった「患者供覧」が3つある。

 まずは精神医学の講義。失語症の男性老人が黒板の前に座った。教授が鉛筆を見せて「これはなんですか?」と老人に問うた。老人はしばらく考えて「ぱんぴつ」と答えた。

 学生はこの「供覧」で、失語症のある型をナマで理解した。あとは他のタイプの失語症や、脳の損傷部位の講義が続く。授業の前に教授から「どんな答えでも、絶対に笑わないように」と釘を刺されていた。

 もう一つは皮膚に色素がたまって皮膚が金属色になり、あたかもブロンズ像のようになった患者さんだった。その患者さんは医学教育のためにとボランティアを買って出てくれた。動かなければまるでブロンズ像に見える患者さんに学生たちは息を呑んだ。

 三つ目は「遺体供覧」だった。階段教室の底になる場所に解剖台があった。ご遺体は解剖台に全裸で安置されていた。ある病でお亡くなりになった患者さんだが、その病気特有の身体的変化があった。ご遺体を前にして講義が行われた。学生は荘厳な気持ちになる前に、極度の緊張感にさらされた。

 医学生はこのご遺体にあった身体的特徴を一生忘れない。

 「患者供覧」は現在でも行われているだろう。しかし、「遺体供覧」が現在でも行われているかは知らない。今度、医学生に訊いてみようと思っている。