ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

このたびの東日本大震災で被災された多くの皆様へ、謹んでお見舞い申し上げます。

大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。 また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。

リラクゼーション

2020年02月14日 | なごやか

「ストレスで口が開かなくなっていた僕が、たまたま入ったリラクゼーションのお店に、そのひとはいた。

お店と言っても、山深い日帰り温泉の休憩室の一角に、古びたついたてを二重にしてこしらえた怪しげな外観だったが、そんなものに頼る気になったほど、症状は悪かった。

入ってみると、意外にも施術者は若い女性だった。

施術台の簡易ベッドが二つ、くっつきそうにして並んでいる。

土日の人出がある時は二人で出勤しているが、今日はたまたま一人だと言う。

体を揉みほぐしたあとに顔をマッサージしてもらえないか、と思い切って尋ねると、お金をいただいて施術したことはないけれど、大丈夫です、できます、との答えが返って来た。

耳の脇の、あごの筋肉を円を描くようにマッサージしてもらうと、その日は格段に症状が改善された。

帰りは運転しながら久しぶりにコッペパンをほおばった。

 それからというもの、仕事の合間を縫って二週間に一度、予約の電話を入れた。

うつぶせで着衣のままだったが、彼女の施術を受けると、なんだか自分の骨格や内臓の位置が頭に浮かぶような気がした。

そう話すと、彼女はお褒めに預かり光栄です、と笑った。

私なりに、良くなれ良くなれ、と念じながら揉みほぐしているので。

 しばらくすると、売り上げの減少からベッドが一つになり、もともと狭かったスペースはさらに縮小された。

こんなところでも、床面積で家賃が決まっているのだそうだ。

ここがなくなると困るなあ。

僕が本音を漏らすと、私はこの仕事が好きなので、どこかで必ず施術していますから、と真顔で答えた。

 そうこうしているうちに彼女は結婚、妊娠・出産のため産休に入った。

その間、店は同じ仕事をしていた彼女の従妹が守った。

それからも僕は店に通い続けたのだが、やがて彼女は第二子を授かり、それを機に店を畳むことになった。

最初の施術から12年が過ぎていた。

井浦さんは本当にいいお客様でした、私がここまで続けられたのは、あなたのおかげです。

僕のこめかみを揉みながら、そう言って彼女は大粒の涙をタオルの上に落とした。」

コメント
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