seishiroめもらんど

流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

詩、のようなもの No.7

2020-08-09 | ノート
こっちに来ちゃいけないよ、危ないからね。
子どもが見てはいけない世界。
子どもが知ってはいけない世界。
子どもが知っているはずのない世界。

日盛りの太陽に首筋を焼かれながら、
少年が蟻んこの巣穴を見つめている。
鼻孔をひくひくとふくらませ、大粒の汗と涙に顔じゅうを濡らしながら。
偏愛と憎悪はうらはらで、被虐と嗜虐は紙一重。
少年の夏は残酷だ。
孤独と引きかえに、きみは何を手に入れる?

おかあさんがいなくなってしまったんだ。
おかあさんはどこに行ったのかな、ぼくを置いて。
おかあさんはもうすぐ帰ってくるよ、
きみの妹か弟を連れて。
もしかしたら、新しいおとうさんも一緒かな。

ぼくがほしいのはそんなんじゃないよ、ぼくがほしいのは。
握りしめた虫メガネは、逃げまどう蟻んこたちを焼きつくすためのもの。
ポケットの虫ピンは、眠る虫にとどめを刺すためのもの。
みすぼらしい標本箱のなかで虫の屍骸は光り輝く、きみの孤独と引きかえに。
少年の夏は残酷だ。
それはやがて、甘美な思い出になる。





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