seishiroめもらんど

流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

英国王給仕人に乾杯!

2009-01-04 | 映画
 チェコの映画作家イジー・メンツェル監督作品「英国王給仕人に乾杯!」(原題:私は英国王に給仕した)を観た。今年の映画初めは日比谷のシャンテ・シネで観たこの作品だ。
 原作は、ミラン・クンデラが「われらの今日の最高の書き手」と評したボフミル・フラバルが1971年に書いた小説。当時、地下出版でひそかに読まれ、外国で出版された後、チェコで公に出版されたのは1989年、欧米では重版を重ねる人気作でありながら、日本では未刊である、とパンフレットで紹介されている。
 簡単に言えばこの作品は、1930年代から63年頃のチェコを舞台に、小柄な主人公ヤンが、駅のホットドック売りからレストランのビール注ぎ、そしてホテルの給仕人となり、百万長者のホテル王に登りつめたのもつかの間、政治体制の変化に伴って収監され、15年の刑期を経て、ズデーテン地方の山中の廃村に住み着き、人生を回顧するというもの。
 その間、ナチスの台頭、共産主義への移行といった政治と歴史に翻弄されながらも、やたらと女性にもてるこの小男の艶笑譚的遍歴がビッグ・フィッシュな大ぼらと実に軽妙な語り口によって展開される。もちろん底には冷徹な視点と辛らつなユーモアを湛えながら。

 一言でいって、素晴らしい作品だ。こうした映画を観ると、芸術の持つ力を感じて心底から幸福を感じる。
 主人公ヤンは若いヤン、老ヤンと二人の俳優が演じていて、若いヤンを演じるのはブルガリア人のイヴァン・バルネフ。チャプリンを思わせる演技が絶賛されたとのことだが、映画そのものもチャプリンはじめ、ジャン・ルノワール、フェリーニ、無声映画など、先行する映画へのオマージュに満ちている。
 映画を観る楽しさと表現することへの愉悦を満喫した映画館での120分。


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2 コメント

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おめでとう (riki)
2009-01-04 14:41:07
seishiroさん、ブログ開設おめでとう。
読みごたえあるなあ。
また寄らせてもらいます。
よろしく。
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ありがとうございます (Unknown)
2009-01-07 01:00:06
rikiさん、ご無沙汰しています。
RIKI舎にはちょくちょくお邪魔しています。
素晴らしい写真にいつも感服。
私のほうはそうした彩りにとぼしいのですが、まあ、ぼちぼち考えてまいります。
今後ともよろしく。
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