seishiroめもらんど

流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

poetry note No.11

2020-08-27 | ノート


見慣れた光景が切り取られて非日常に変わる。
不穏な雲の間からぎらつく太陽が光を投げかけ、この街を見たことのない色に染めかえる。
青に灰色を混ぜたような空と建物の色のコントラストが物語を孕んで、私をけしかけるようだ。速く、はやく、逃げろ、逃げろと。
息を切らせ、よろめくように走りながら、
なぜか、ジャン・ギャバンが主人公の犯罪者を演じた映画「望郷」を思い出していた。
現代のぺぺ・ル・モコはこの街の何処にひそんでいるのか。

その男はこの街からの脱出を夢に見る。
それは叶わぬ夢だ。
この街のなかでだけ思いのままに振る舞うことを許された男。
かりそめの自由に絶望を感じ、
約束された死に希望を見出すかれは、
あらかじめ幽閉された犯罪者。
その女の香りはかれが捨ててきたはずの故郷の街を思い出させ、
そのまなざしはかれを死に導く。
差し伸べた両手に女をかき抱くことはできず、その影をつかもうと藻掻く手はいつまでも空をきるばかり。
条件つきの恋、不可能を宿命づけられた愛、
その成就のためにかれが選んだのは、一本のナイフ!

息を切らせ、よろめくように地べたを這いずり回りながら
私は夢に見るのだ。
現代のペペ・ル・モコはこの私なのだと。


poetry note No.10

2020-08-27 | ノート


水の底から見透かされているような、
雲の透き間から見下ろされているような。
不思議な時間だ。
たゆたう私は、その間を行ったり来たりしながら、
やがて蒸気となって消えていく。かげろうのように。
この川は遠い海につながっているし、
この空をたどれば地球の裏側にだって行けるはずなのに、
私はいつまでも橋のうえに佇んだまま。
何を見ていたのか。何が見えるというのか。