坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

今度の連休にはヨコハマトリエンナーレに行こう!

2011年09月12日 | 展覧会
現代アートの国際展として4回目を迎えた〈ヨコハマトリエンナーレ2011〉。今年のテーマは「OUR MAGIC HOUR-世界はどこまで知ることができるか?-」ということで、世界や日常の不思議、魔法や神話、伝説、アニミズムなどを基調とした作品に焦点をあてて、アートの原点回帰とも言える多様な動向を追っています。
主な会場は、横浜美術館と日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)。この地区は新たなアートの発信地として注目されてきました。その中心となっているのが、ヨコハマトリエンナーレで、今回も国内外の77名/組以上のアーティストらによる作品を中心に、総計300点以上の作品が一挙に展覧されています。
現代アートは、社会を映す鏡と言えます。大震災を受けて出品作家のジュン・グエン=ハツシバ(ホーチミン在住)、オノ・ヨーコ、安部泰輔、島袋道浩、岩崎貴宏らは、希望と復興をキーワードに作品を新たなプランに変更しました。
国際展で注目される一つが、参加型のアートです。掲載作品は、カールステン・ニコライ(ベルリン在住)の横浜美術館正面に建てられた白い囲いをカンヴァスに見立てた作品です。ニコライがデザインした8色のステッカーを観客が自由にそこに貼り付ける、参加型のインスタレーションで、日々そのカンヴァスの様相は変化し、増殖しダイナミックな色彩の譜が奏でられていきます。この写真は9月上旬に撮影され友人のアートサポーターの方から送ってもらいました。
そのアートの輪を広げている友人から楽しい企画のお知らせです。

★アートバードの開催
 トーキング&ウォーキング~ヨコハマトリエンナーレをしゃべろう~
 現代アート大好きの私たちといっしょにアート作品を見ておしゃべりしませんか。
 おしゃべりしているうちに、何か発見があるかもしれません。

・開催日程
 9月19日(月・祝)会場・横浜美術館
 9月24日(土)・日本郵船海岸通倉庫
 9月25日(日)・横浜美術館
 10月1日(土)・日本郵船海岸通倉庫
 同会場で1日に2回開催
 13:00~、15:30~

*作品の解説ではなく作品を紹介しながら会話を楽しみます
*1回60分、10人程度
*参加は無料、ヨコハマトリエンナーレ2011のチケットをご用意ください。
詳細、お申し込みは、以下、ブログをご参照ください。
http://artbird.exblog.jp/
申し込みは、2日前の24:00までにお願いします。
主催:アートバード
(横浜トリエンナーレ2008でボランティアを担当した仲間が中心です)
OPEN YOKOHAMA参加事業

このアートバードのチームの方々は、作家と直接会話したり、作品制作に参加したり
とトリエンナーレ通の方々ですので、ガイドブックには書いていないことも
聞ける楽しさがあります。ご都合のつく方はぜひご参加ください。

◆ヨコハマトリエンナーレ2011/開催中~11月6日/横浜美術館、日本郵船海岸通倉庫他
 www.yokohamatriennale.jp





トゥールーズ=ロートレック展

2011年09月10日 | 展覧会
19世紀パリ、モンマルトルの華やかなムーランルージュのスターなどを描いたポスターにおいて、革新的なリトグラフにより軽快な色彩美とデザインを創り出したトゥールーズ=ロートレック。
本展は、丸の内のアートの発信地の一つである三菱一号館美術館の目玉のコレクション展となります。
今回出品される作品の中には、版画制作の過程を示す希少な試し刷りや、美食家としても有名であったロートレックが友人を招いた晩さん会のメニューカードなどの珍しい作品が含まれ、ロートレックの制作の裏舞台や私的な生活を垣間見ることができます。
・掲載作品は、「ディバン・ジャポネ」1893年 リトグラフ、ポスター。
黒い衣装の女性のしゃれたセンスと大胆な構図で目を引きます。
ロートレック自身が生前アトリエに残し、今日まで伝えられた貴重なグラフィックのコレクション約180点とロートレック美術館より油彩や素描が併せて展覧されます。

◆三菱一号館美術館コレクション〈Ⅱ〉トゥールーズ=ロートレック展/10月13日~12月25日/三菱一号館美術館(丸の内)

視覚の実験室 モホイ=ナジ/イン・モーション

2011年09月09日 | 展覧会
マルチメディアアーティストというと現在では聞き慣れてきた感がありますが、アートとテクノロジーを融合した視覚の実験室を試みたハンガリー出身のモホイ=ナジ・ラースロー(1895-1946)は、ジャンルを超えた多彩な作品を発表した一人です。
本展は、その作品の全貌を伝える日本初の回顧展となります。代表作であるキネティック彫刻「ライト・スペース・モデュレータ」をはじめ、初期の人物デッサンから、構成主義絵画、バウハウス時代のフォトグラム、さらにドキュメンタリー映画、タイポグラフィなど商業デザインの仕事にいたるまで、約270点の作品が展覧されます。
・掲載作品は、「スペース・モデュレータCH 1」1943年 DIC川村記念美術館蔵
©2011 Hattula Moholy-Nagy
51年の短い人生の中で、母国のブタペスト、ウィーン。ベルリン、アムステルダム、ロンドン、シカゴ他に移り住んだモホイ=ナジですが、どこにいても、新しい素材に挑戦し新たな視覚に挑戦し、アートとテクノロジーを融合した「光と運動による造形」を目指しました。

◆〈モホイ=ナジ/イン・モーション〉/9月17日~12月11日/DIC川村記念美術館(千葉県・佐倉市)

20世紀美術 冒険と創造の時代

2011年09月08日 | 展覧会
地方自治体の県立美術館は、それぞれの特色をもったコレクションと研究がされていますので、それをうまく国内で巡回できれば大型の国際展に引けを取らない企画展に発展していきます。
本展は、富山県立近代美術館と新潟市美術館の共演により、20世紀美術の流れを、ピカソ、ミロそしてウォーホルら巨匠らの作品群でたどります。
1981年に開館した富山県立近代美術館は、20世紀美術を代表する作家の作品を蒐集してきました。その充実したコレクションから厳選した70点の作品に、新潟市美術館所蔵の作品を加えた100点の展覧により、20世紀美術の多様な展開が示されます。
富山県は日本にシュルレアリスム運動を紹介した滝口修造の出身地であり、エルンストやミロ、マグリット、デルヴォーといったシュルレアリスムたちの作品に加え、現代美術に影響を与えたマルセル・デュシャンの作品も多数所蔵しています。
この特質を生かし、ジャコメッティ「みつめる頭部」やヨセフ・コーネルのボックスアート(新潟市美術館蔵)が加わったシュルレアリスムのコーナーは見どころとなっています。
・掲載作品パウル・クレー「プルンのモザイク」1931年(新潟市美術館)。クレー52歳のときの作品で、バウハウスを退職後、デュッセルドルフ美術アカデミー教授に就任した年に描かれました。この時期幾何学的な線描と構成的な立体モデルを多数制作しました。ブルーモスクのモザイクの色に似た美しい色彩構成となっています。

ゴヤ 光と影 企画チケットなど販売開始

2011年09月07日 | 展覧会
今秋の目玉の展覧会の一つである〈プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影〉。ゴヤの代表作「着衣のマハ」が40年ぶりの来日ということで、この作品のモデルは誰だろう?と考察されるところですが、現在のところ実際のモデルや制作目的なども判明されていません。ゴヤを擁護した宰相ゴドイの私室に対となる「裸のマハ」とともに置かれていました。
ゴヤ(1746-1828)はヨーロッパの一大変革期に生き、翻弄される貴族社会の人間像を辛辣な眼で描写しました。
プラド美術館の油彩画、素描など72点に、国立西洋美術館などが所蔵する版画51点を加え、〈光と影〉をキーワードに彼の多面的な画業に迫ります。
・掲載作品「蝶の牡牛(素描帖G)1824-28年。国立プラド美術館蔵。若い頃に目撃した空中での闘牛を回想したデッサンです。
ボルドーに亡命したゴヤはこの時期奇抜なデッサンを数多く残しましたが、その中の1点です。
2006年のオークションで、なんと約3億3千万で落札されたということです。

ゴヤ展の企画チケットの販売やスペイン政府観光局オンラインキャンペーンが始まりました。
詳細は、以下のホームページでご覧下さい。
www.goya2011.com

◆プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影/10月22日~12年1月29日/国立西洋美術館(上野公園)
 

彫刻の時間ー継承と展開ー

2011年09月06日 | 展覧会
東京藝術大学美術学部彫刻科は、創立以来120年の歴史をもち、竹内久一、高村光雲の二人の教授による指導から始まった彫刻科の教育は幾多の改革を経て、数多くの彫刻家を輩出してきました。
本展は、彫刻科が企画して第4回目を迎え、時代とともに変わりゆく彫刻の過去から現代までを、本学の歴史を振り返りながら辿ります。
「継承と展開」が副題になっているように、本展は二つの要素が絡み合っています。ひとつは、本大学美術館所蔵の彫刻の中でも、鎌倉時代の快慶「大日如来坐像」など仏教彫刻から展開した木彫作品を選定することで、彫刻の歴史構造をひも解いていきます。もう一つの柱は、名誉教授、現職教員の展示です。空間を意識的に使い、現代の彫刻のあり様を提示していきます。
とくに橋本平八の作品17点と、平櫛田中の作品29点の展示は、近代ヨーロッパから導入された塑像彫刻と比較する上で、また日本の彫刻の独自性を考える上でもあらためて注目されている彫刻家です。
他に、「そりのあるかたち」のシリーズで知られる澄川喜一(敬称略、以下同)、大理石における新たな表現領域を開拓する原真一、木彫の森淳一、参加型のインスタレーションなどで活躍中の大巻伸嗣など多彩な顔ぶれが楽しみです。

◆彫刻の時間ー継承と展開ー/10月7日~11月6日/東京藝術大学大学美術館(上野公園)

愛知県美術館コレクション展 ふらんす物語

2011年09月05日 | 展覧会
土曜日にご紹介した「ルドン展」は、岐阜県美術館の改修工事を機に当館が誇るルドンのコレクションを中心にして、浜松、京都、東京において展覧会が実現しました。美術館の活性化においても貴重だと思います。
岐阜県美術館がルドンであれば、愛知県美術館は〈エコール・ド・パリ〉を中心に充実したコレクション展が、島根県立美術館で開催されます。本展は、震災復興支援特別企画として企画され、副題に〈ピカソ、マティス、ロダン⋯そしてフランスを愛した日本人画家たち〉とあり、もっともパリで芸術が高揚期を迎えた時代にフランスと日本の美術家たちの展開を追う内容となっています。
印象派以後、20世紀初頭、マティスを中心とするフォーヴィスム、ピカソらが創始したキュビスムなど、次々と前衛的な動向が巻き起こるパリは、多くの美術家たちを引き寄せ魅了していきました。明治以降、日本の画家たちもフランスに憧れ、その豊かな実りを吸収していきました。
ラファエル・コランに師事した黒田清輝は、外光派アカデミズムを日本に持ち帰り、セザンヌの作品に衝撃を受けた安井曾太郎、エコール・ド・パリを代表する一人である藤田嗣治、日本のフォーヴィスムの草分けとなった里見勝蔵ら、日本油彩画の発展に大いに寄与しました。
・本展出品作の目玉とも言える1点、パブロ・ピカソ「青い肩かけの女」1902年 愛知県美術館蔵
 ©2011 Succession Pablo Picasso SPDA(JAPAN)
ピカソは、20世紀の幕開けに故郷バルセロナからパリに渡り、その後両方の地を往復しながら、若き時代の心理的な不安定な自我を演出する「青の時代」(1901~04)に入っていきます。この作品はこの時代を象徴する作品であり、色彩の陰影方法などセザンヌ、ゴーギャンの影響が感じられます。
本展は、愛知県美術館のコレクション70点により、1880年代から1960年代までの展開をたどりながら、フランスと日本の美術家たちが織りなす豊かな旋律へと誘います。

◆愛知県美術館コレクション展 ふらんす物語/9月17日~11月7日/島根県立美術館(松江市)

ルドンとその周辺ー夢見る世紀末展

2011年09月03日 | 展覧会
日本でも人気の高い世紀末画家オディロン・ルドン(1840~1916)。国内でルドンの研究、コレクションで定評のある岐阜県美術館コレクションをもとに、本展は、その周辺の象徴主義関連の作家たちの作品で構成されます。
ルドンの有名な「眼を閉じて」。夢想的な色彩に心ひかれます。外界の再現を旨とする自然主義の全盛にあって、夢や幻想の世界に踏み込んだルドンと、モローやブレスダンなどのルドンの先行者、ファンタン・ラトゥールヤゴーギャンなどの同世代画家、ルドンの影響を受けたナビ派など後続の画家たち、さらにはフランス象徴主義と連動しているクリンガーやムンクの作品など併せて展示し、自我と自然の神秘的な交感を深めたルドンの世界とともに、19世紀末象徴主義に至る画家たちの系譜をたどる展示内容になっています。

◆岐阜県美術館所蔵 ルドンとその周辺ー夢見る世紀末展/9月6日~10月10日/浜松市美術館
 10月15日~11月13日・美術館「えき」KYOTO  12年1月17日~3月4日・三菱一号館美術館(丸の内)

八木貴史「Strangler fig」

2011年09月02日 | 展覧会
身近な日用品である色鉛筆を使って固有の表現を追求する八木貴史さん(1982年~)。掲載の作品「虹の燭台」(2011年)を最初に見たのは、2007年からモンブランジャパンが取り組んでいる〈モンブラン ヤングアーティスト パトロネージ イン ジャパン〉の今年度の案内のチラシでした。
この企画は7人の若手日本人アーティストによるモンブランのシンボルマークをユニークに表現した作品を毎年、ショーウィンドウなどで展示し、若手作家の発表の場を支援する内容となっています。この作品を実際に見たわけではないのですが、素材のユニークさと簡潔なフォルムの構築性に着目しました。
八木さんは、2011年に武蔵野美術大学大学院彫刻コースを卒業し、色鉛筆を樹脂で固めて「原木」に見立てた素材による彫刻作品を主に制作しています。2009年に「清水多嘉示賞」を受賞しました。
「色鉛筆は私にとって木と等価であり、削ると色が出てくる木です。色芯と、それを持つための木部というシンプルな構造が、集積され過剰になることで、その機能や構造自体が装飾になり、視覚的に色鮮やかで、幻惑的なものになる」と話されています。
今展のタイトルである”Strangler fig」は、日本語で「締め殺しの木」を意味します。他の木に絡みついては、朽ちさせ、中が空洞の状態で生息する木のように「そのもの自体は消失して目には見えないが、その周りのものが、そのものを形作る」というコンセプトのもとに、家具や身の回りのものを使って制作された新シリーズの発表となります。

◆八木貴史「Strangler fig」/9月13日~10月8日/MEGUMI OGITA GALLERY(銀座2丁目)

川端康成コレクションと東山魁夷

2011年09月01日 | 展覧会
川端康成(1899~1972)は、美術にも深い造詣を持ち、確かな審美眼で知られた文豪として芸術家との交流がありましたが、中でも日本画家、東山魁夷(1908~1999)との交流は深く、美の本質をみつめる心の在り方に共感の念を抱いていました。
コレクターとしての川端というと、中国と朝鮮の陶器などが思い起こされますが、本展では、土偶にはじまり、仏像、近代工芸などの日本美術、さらにロダン、ルノワールら西洋近代美術も華を添えています。
とくに、南画の池大雅と与謝蕪村による合作「十便十宜図」など後に国宝になった作品も含まれています。
一方、東山はガンダーラ仏像、ローマン・グラス、中国の陶磁器、旧家伝来の茶道具など、筆を休め、名品に生活の折々にふれる至福のときを味わい、創作の源としました。
・掲載作品は、東山魁夷「北山初雪」1968年 川端康成記念会蔵。京都の周山街道を描いたもので、雪に覆われた木立の林立する山肌を描いた作品ですが、寂寥とした中にも清らかな白の響きが奏でられています。
川端が蒐集した美術コレクションを中心に、東山のコレクションも併せて紹介されるという極めて特色のある企画内容に注目しました。

◆川端康成コレクションと東山魁夷/9月17日~11月6日/山梨県立美術館
 12年1月2日~2月12日/新潟市立美術館

☆7月29日~31日に開催されたアートフェア東京2011は、プレビューを含む4日間で延べ4万5千人を超える来場者を数えました。
京都市立芸術大学学長で数々の国際展のディレクターを行ってきた建畠氏は、「日本の新しい美術の方向とスタンダードを示唆する役割を果たした。⋯韓国や中国のアートフェアに対抗する国際性があってほしいし、今後も期待がもてる」と、今展の感想が入ってきました。