自由広場

穿った独楽は廻る
遠心力は 今日も誰かを惹きこむ

新・桃太郎 第五話

2006-02-15 02:28:17 | どーでもいいことつらつらと。
閑静な住宅街のど真ん中に、そのお屋敷はあります。

入り口には「鬼塚組」と書かれた大きな看板。絶えず強面の人達が見張りをしています。
周りの住民は、怖いから決してこのお屋敷の前を通りません。そこはまるで、海に隔てられた孤島のようです。人々はそこを、鬼が島、と呼びます。


おやおや?
そんな誰も近寄らないようなお屋敷に、一人の若い女性が入ろうとしています。高校生でしょうか、制服を着て、うっすら化粧もしています。

入り口には見張りのお兄さんがいます。2メートルはあろうかという巨体です。
お兄さんはその女性に気づくと、深々とお辞儀をします。

「お嬢ちゃん、お帰りなさいませ」

お嬢ちゃんは当たり前のようにお兄さんの横を通り過ぎ、大きな門をくぐります。
大理石の立派な門です。

お屋敷に入り、お嬢ちゃんは靴を放る様に脱ぎ捨てます。慌てて後についていたお兄さんがそれを直します。

「お嬢ちゃん、どちらへ?」

お嬢ちゃんは平然と答えます。

「んー。パパのとこ」

お兄さんはまた慌ててお嬢ちゃんの前に立ちふさがります。身長差は40センチ以上あります。

「いけません・・・。組長は今読書中です・・・・」

「うるさいなぁ!どいて!」

ドンと右肩をどつかれ、お兄さんはよろけました。その隙にお嬢ちゃんはスタスタと奥へ向かいました。

古風で上品なお庭を横目に、お嬢ちゃんは組長の部屋へと続く廊下を歩きます。この家にいるとどうも落ち着かない。お嬢ちゃんは思いました。


そしてノックもなく組長が読書をしている部屋に入りました。

「誰だ!ノックも無く勝手に入ってくる無礼者は!」

腹の底から響くような声です。そしてその顔は鬼と全く区別がつきません。

「あたしだよ、パーパ」

お嬢ちゃんは全く怯みません。

「ああん!ヤヨイちゃんじゃないでしゅか~」

甘えるような声です。態度は一変して、父親、いえ、赤ん坊のようです。
ヤヨイは呆れたように言い返します。

「・・・・もう!その言葉遣い止めてって言ってるでしょ!」

「ごめんなしゃ~い」

『面目にゃい☆』みたいな感じで組長は舌を出しながら軽く頭をこづきました。腹立ちます。

軽い殺意にさいなまれながら、ヤヨイは言いました。

「何読んでるのさ?」

本に目を戻しつつ組長は答えました。

「『ストップ!!ひばりくん!』の3巻ですよ。これが面白いんだにゃー」

すでに組長はマンガに夢中です。ヤヨイは呆れ果てました。
ヤヨイは組長の前まで寄り、マンガを取り上げ、ニヤニヤ笑いながら言いました

「パーパ!お小遣いちょうだい!」

それに応えるように、パパも笑いながら「いくらだい?」と尋ねました。

「500万」

破格です。しかし、

「うんいいよそこの金庫にあるから。番号はいつもの」

即答です。ヤヨイは「ありがと~!」とパパに抱きつき、マンガを返してさっさと金庫へ向かいました。

金庫を開けると、札束が1束2束3束・・・・・数え切れないほどあります。
ヤヨイは高校のカバンに次々とその札束を入れました。カバンが福沢諭吉で溢れかえりました。でもまだまだ金庫には札束があります。

(まぁ、これくらいで十分か)

金庫を閉め、部屋を出ます。パパはマンガに夢中です。
部屋を出ると、そこには先ほどのお兄さんが心配そうに立っていました。

「あら赤沢、まだいたの」

つまらなそうにヤヨイは言いました。

「お嬢ちゃん、まさかまた組長にお小遣いもらったんじゃ・・・?」

「そうだけどぉ」

ヤヨイは廊下を歩き出します。カバンの紐が肩に食い込んで痛いので、手持ちに替えました。

後を追いながら赤沢は言います。

「あの・・・うちの組もですね・・・最近経営難に追われてまして、なんと言いますか・・・お嬢ちゃんもそこら辺をご承知いただきたいのですが・・・・」

口をあんぐり開けてヤヨイは振り返りました。

「あ?文句あんの?親父に言いつけるぞ?」

赤沢は身の毛のよだつ思いがしました。これ以上何もいえません。




お屋敷を出るヤヨイ。ほっと一息つきます。大理石の門が夕日に映えて綺麗です。


門をくぐると、別の人が見張りに立っていました。

「お嬢ちゃん、いってらっしゃいませ・・・どちらへ?」

深々と礼をします。

「青田」

ヤヨイはダルそうに言いました。青田は顔だけ上げました。

「余計なことは聞かない」

「ははっ」

また深々と礼。


優越感に浸るように堂々と道の真ん中を歩き出すヤヨイ。ここは車すら通りません。


「ふふ、いっちょあがり。これで資金は調達できたわ」

そうつぶやくと、口笛を吹きながらヤヨイはカバンを持つ手を持ち替えるのでした。


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