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イーグルス「エデンからの道、遥か」(Eagles,Long Road Out of Eden)

2017-11-08 21:40:30 | 音楽批評
 

今回は、音楽批評記事です。

前回はハロウィンというヘヴィメタルのバンドを取り上げましたが、今回はまたイーグルスに戻ってきます。
順番に沿って、拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』第六章の章題となっている「エデンからの道、遥か」です。

原題は、Long Road Out of Eden。

同タイトルのアルバムのタイトルチューンです。

このアルバムは、純粋なオリジナルアルバムとしては、イーグルスにとっておよそ30年ぶりのニューアルバムで、CD2枚組の大作。イーグルスの最新作であり、そしておそらく最後の作品になるだろうと思われます。

そのタイトルチューンである「エデンからの道、遥か」は、かなり気合の入った作品です。
なにしろ、長さ10分を超える大作。おそらく、イーグルスのすべての楽曲の中でもっとも長いものでしょう。イーグルスの面々は、「21世紀のホテル・カリフォルニア」といった位置づけでこの曲を作ったのではないか……と、私は想像しています。

そのタイトルの意味するところは、キリスト教圏ではおなじみの楽園追放のストーリーです。

これまでこのブログでいろいろ書いてきた通り、21世紀のアメリカはかなり病的な傾向をみせてきました。

そんな時代に対して、この歌は歌われているんだと思います。

楽園から遠く離れたところにきてしまった、と……

曲は、まず砂漠を吹く風のような音からはじまります。
そこへ、角笛のような音色と、鐘の音。
このオープニングから、もう寒々とした空気が漂ってきます。イメージとしては、「ホテル・カリフォルニア」よりも、はるかに荒涼として感じられます。

砂漠のイメージは、どうやらモハーベ砂漠というよりも中東の砂漠のようです。

歌がはじまると、震える手にライフルを持つ兵士とおぼしき人物のことが歌われます。
彼は、旧約聖書の詩編23章をささやいています。

詩編23章……旧約聖書のなかでも、とりわけ引用・言及されることの多い箇所という印象がありますが、その第4節には、次のように書かれています。


  死の影の谷をゆくときも
  わたしは災いをおそれない
  あなたがわたしと共にいてくださる
  あなたの鞭 あなたの杖
  それがわたしを力づける

 大岡昇平が『野火』でその最初の一行を引用している有名な一節です。
 この一節も、寒々として響きます。
 『野火』はフィリピンの戦場を彷徨する兵士の物語ですが、そこで語られる絶望と、この歌の風景はなんと似ていることでしょう。もはや戦う意味もわからず、戦場にとりのこされ、ただ生き延びることだけが目的となっている兵士……そういうイメージでしょう。

 また、こんな歌詞も出てきます。


  俺たちはユートピアを目指している
  地図によれば、すぐにでもたどりつくはずだった
  老いた隊長は
  手綱をしっかりつかむようにいった
  内なる痛みは、育ちの痛みにすぎないと


 アメリカという物語の欺瞞がここでも告発されています。
 痛みは今だけのものであり、その先には幸福が待っているという……これは、果たされることのない約束です。なぜなら、ユートピアはどこにも存在しないからです。

曲の後半では、世界史的なモチーフも出てきます。


  アッピア街道でカエサルの亡霊にあった
  やつはいった
  一度味をしめたら この乱痴気騒ぎはやめられない
   だが 帝国への道は 血にまみれたばかげた徒労さ 


こんな内容の歌に、悲鳴のようなギターがからんできます。
そして、歌詞のなかに出てくる「亡霊のキャラバン」が砂漠をさすらうような後奏とともに、曲は終わります。
最初から最後まで、荒涼とした雰囲気がつきまといます。

アルバムでは、このタイトルチューンの後に I Dreamed There Was No War という曲が収録されています。「戦争などないという夢をみた」というこのインストゥルメンタルは、「エデンからの道、遥か」の後であるがゆえに、切なく美しく響きます。

このあたりが、『エデンからの道、遥か』というCD2枚組の大作アルバムにおけるハイライトでしょう。

中心メンバーの一人であるグレン・フライが昨年死去したことによって、イーグルスが今後新作を作る可能性はかぎりなくゼロ。おそらくこのアルバムがイーグルス最後の作品となるでしょう。
ソロであれバンドであれ、ミュージシャンの最後というのはなかなか思うにまかせないものですが、「エデンからの道、遥か」と、同タイトルのアルバムは、イーグルスのキャリアをしめくくるにふさわしい作品になっていると思います。


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