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Tom Waits, Ol'55

2023-12-06 20:56:02 | 音楽批評


今回は音楽記事です。

最近大物バンドのフェアウェルツアーという話がたくさんあって、そのなかで「爺さんたちのポンコツ道中」なんてことをいいましたが……そんなことを書いていて、トム・ウェイツのOl'55という曲を思い起こしました。

実はトム・ウェイツも今年でデビュー50周年であり、Ol'55が収録されているデビュー・アルバム『クロージング・タイム』は今年で50周年を迎える名盤ということになります。
そのシリーズの流れにも乗っているということで、今回はトム・ウェイツについて書こうと思います。


フェアウェルツアーをやっている、あるいはやっていたバンドというのがいくつかあるわけですが、なかでもとりわけ、イーグルスがかかわってきます。
というのも、このOl’55はイーグルスがカバーしていて、彼らの代表曲の一つともなっているのです。
そのイーグルスバージョンを載せておきましょう。

Ol' 55


トム・ウェイツは、アイルランド出身のシンガーソングライター。
その独特なしわがれ声と音楽世界は強烈な個性を持ち、“酔いどれ詩人”の異名をとっています。一般的な知名度はあまりないと思われますが、いわゆるミュージシャンズミュージシャン的な存在で、ミュージシャンの間では強くリスペクトされています。
このブログで今年登場してきたアーティストを中心に、それらの例をいくつか挙げてみましょう。


ラモーンズ。
ラモーンズがトム・ウェイツの I Don't Wanna Grow Up という曲をカバーし、トム・ウェイツもまたラモーンズのトリビュートアルバムに参加しているという話を書きました。その記事ではトム・ウェイツのオリジナルバージョンを載せていましたが、ここでラモーンズのカバーバージョンも載せておきましょう。

Ramones - "I Don't Wanna Grow Up" - Hey Ho Let's Go Anthology Disc 2

ブルース・スプリングスティーン。
今年デビュー50周年で“同期”にあたるスプリングスティーンも、トム・ウェイツへの強いリスペクトを表明しています。
ライブでトム・ウェイツのJersey Girl をカバーした音源がありました。

Jersey Girl (Live at Giants Stadium, E. Rutherford, NJ - 8/22/1985)

ロッド・スチュワート。
彼も、トム・ウェイツの曲をいくつかカバーしています。同じ“酔いどれ系”のよしみもあるかもしれません。
そのなかからDowntown Train の動画を。

Rod Stewart - Downtown Train (Official Video)  

スティーヴ・ヴァイ。
ヴァイは、トム・ウェイツとのコラボを熱望しているということです。
そのために、John the Revelator という曲をレコーディング。

Steve Vai : John The Revelator / Book Of The Seven Seals

トラディショナル的な曲ですが、このデモ音源をトム・ウェイツに送ってコラボを打診したそうです。
しかし、トム・ウェイツの返事はノー。
これはヴァイがどうこうというよりも、基本的にトム・ウェイツはほかのアーティストとのコラボといったことはしないようです。まあ、とはいえ、スティーヴ・ヴァイとトム・ウェイツというのはイメージとして結びつきがたいところはありますが……ただし、ヴァイへのアンサーという意味合いもあってか、トム・ウェイツも同じ曲のカバーを後に発表しています。

Tom Waits - "John The Revelator"


ここで、日本に関する話題を一つ。

今年の10月、新宿で「第一回トム・ウェイツさんと酔いどれる会」というものが行われたそうです。
本人が来たわけではありませんが、音楽評論家の萩原健太さんなどを迎えて、トム・ウェイツの曲を聴きながら酔いどれるという……遠い日本でそんなことが行われるぐらい、トム・ウェイツは世界的なアーティストなのです。

そんなわけで、もう少しトム・ウェイツのカバーを列挙してみましょう。

ロバート・プラントとアリソン・クラウスによる Trampled Rose。

Robert Plant & Alison Krauss - "Trampled Rose"

ジョーン・バエズによるDay After Tomorrow。
バエズは、世代的にはトム・ウェイツよりもちょっと前の人ですが、そういう人にもリスペクトされているのです。

Day After Tomorrow

エルヴィス・コステロによる「夢見る頃はいつも」。
トム・ウェイツの代表曲の一つです。

Innocent When You Dream

ウィリー・ネルソンによる Picture in a Frame。
ウィリー・ネルソンといえば、トム・ウェイツよりも数世代前の、もはや神話上の人物ともいえるブルースの巨匠。そんな人も、こうやってトム・ウェイツをカバーするのです。

Picture In A Frame

今年亡くなったジェーン・バーキンもトム・ウェイツの曲をカバーしていました。

Alice
 
女声でもう一曲、ノラ・ジョーンズによる The Long Way Home。
この雰囲気は、トム・ウェイツ本人に近いものがあるかもしれません。

Norah Jones-The Long Way Home


ここで、アルバム『クロージング・タイム』について。
『クロージング・タイム』は今年50周年ということで、その他の50周年名盤と同様、やはり再発盤が出ています。(それにくわえて、アルバムタイトルにひっかけて、アルバムジャケットを使った「閉店/開店お知らせボード」なんてものも売られているんだとか)。
このアルバムのときはまだデビュー当初で、後の時代ほど声がしわがれてはいませんが、独特の雰囲気はすでに醸し出されています。場末の酒場感というか……まさに、酔いどれ詩人の世界です。
で、アルバムの一曲目に収録されているのがOl'55です。
55年型の古い車に乗って、暁のハイウェイを走るという歌……そこに、時流に流されずに自分自身の道を行くというような姿勢を読み取ることもできるかもしれません。
ここで、本人バージョンの音源も載せておきましょう。
1999年のパフォーマンスということで、声はもうかなりしわがれています。

Tom Waits - Ol' 55 (Live on VH1 Story Tellers, 1999)


トム・ウェイツといえば、今年はアイランドレコード時代のアルバム5作品がデジタルリマスターで再発ということもありました。

そのなかには、名盤と名高い『Rain Dogs』も含まれています。
このアルバムには、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズが参加していました。このこともまたトム・ウェイツがミュージシャンの間でリスペクトされている証でしょうが、さらに本作は、後のUKロックにおける超大物にインスピレーションを与えてもいます。
その大物とは、レディオヘッドのトム・ヨーク。
当時17歳の少年だったトム・ヨークはこのアルバムにすっかり魅了され、「トム・ウェイツは、1985年に本物であろうとする何よりも、はるかに本物に感じられるダークさとユーモアを持ったキャラクターを演じていた 」と語っています。
ウィリー・ネルソンから、トム・ヨークまで……トム・ウェイツをリスペクトするアーティストは実に幅広く、それでいて、そこには通底する何かがたしかにあります。
そう……トム・ウェイツは、たしかに本物なのです。

最後にもう一曲、Tori Amos によるカバーで、Time。

Time

 マチルダは尋ねる
 “これは夢? それとも祈り?”

  俺が戻ってくるまで
  バイオリン弾きにはひまをやってくれ

  時がたてば、どんな夢にも聖者が宿るのさ……

この詩情に酔いどれてください。




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