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水原弘「黒い花びら」

2020-12-06 18:58:23 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

このカテゴリーでは、最近昭和歌謡を中心に取り上げていて、前回は守屋浩の「僕は泣いちっち」という歌を紹介しました。
その守屋浩は、当時“3ひろし”と呼ばれたアーティストの一人でした。
その3人は、守屋浩、井上博、そして、かまやつひろし。

しかし――ここにもう一人の“ひろし”がいます。

それが、水原弘。

ということで、今回はあこの水原弘のデビュー曲である「黒い花びら」という歌を紹介します。



“3ひろし”とは、守屋、井上、かまやつだと書きましたが――

実は、もともと“3ひろし”といえば、井上博、かまやつひろし、水原弘を指していたのです。

このなかで、水原だけ少し毛並みが違うということで、いつしか守屋浩がとって代わることになりました。
その違いは、実際に歌を聴いてみれば如実に感じられると思います。
井上博は一時ドリフターズにいた人(といっても、後のお笑い路線時代とは違いますが……)で、かまやつひろしの所属していたスパイダーズも、どちらかといえば軽妙な感じでしょう。少し影のある感じの水原よりも「僕は泣いちっち」と歌う守屋浩のほうがそちら寄りと認識されるのは自然の成り行きともいえます。

しかしながら、守屋と水原は同じ“ロカビリー系”と認知されていて、二人の経歴は微妙に交錯する部分もあります。

たとえば、デビューの経緯。
以前書いたように、守屋浩デビューの舞台となったのは日劇ウェスタン・カーニバルですが、そのウェスタン・カーニバル開催に関与し“マダム・ロカビリー”と呼ばれた渡辺美佐というプロモーターがいて、水原弘は、このマダム・ロカビリーにスカウトされて、世に出たのです。
こういう経緯があるので、守屋も水原もメジャーデビュー後の音楽はロカビリーとはいいがたいものであるにもかかわらず、“ロカビリー系”といわれているわけです。



「黒い花びら」は、水原弘のデビュー曲です。
また、その1959年に行われた第一回レコード大賞を受賞した曲でもあります。

ちなみにこのレコード大賞というのは、古賀政男と服部良一が創設した賞。
このブログで紹介してきたように、二人とも昭和前半を代表する作曲家です。彼らの手によってつくられたレコード大賞の、その一回目の大賞ということで、「黒い花びら」は記念されます。
また、デビュー曲でレコード大賞を受賞したアーティストは現在に至るまで水原弘ただ一人しかいないということで、そういう意味でも伝説を作りました。

作詞・永六輔、作曲・中村八大。
この組み合わせは、あの坂本九「上を向いて歩こう」と同じです。
しかしながら、雰囲気は「上を向いて歩こう」とはだいぶ違っているでしょう。
守屋浩「僕は泣いちっち」は同じ年の発表ですが、ちっち言葉のユーモアとは真反対に、どこかダークな雰囲気をたたえた曲になっています。
先述したとおり、そのダークな感じゆえに、ちょっとイメージが違うということで、“3ひろし”からはずれることにもなったわけです。



予断ながら、この1959年という年には、「黒い○○」というのがはやりました。
映画「黒い稲妻」がヒットし、松本清張「黒い画集」がベストセラーに……そして「黒い花びら」です。
偶然の符合ですが、これらは水原弘のその後を奇妙に暗示しているようでもあります。
デビュー曲は大ヒットしたわけですが、その後の水原は金銭的成功によって身を持ち崩し、ギャンブルとアルコールに溺れていきます。やがて反社会勢力とかかわりを持ち、芸能界から姿を消すという……その経歴を見ていると、「黒い花びら散った」という歌詞が思い起こされるのです。

実際には、黒い花というものは存在しません。
黒く見える花はありますが、それも藍色などが極端に濃くなったものなんだそうです。そういう意味では、黒い花びらというのはそもそも虚像なのです。
その虚像性もふくめて、水原弘という人は日本歌謡界におけるダークヒーローといえます。
第一回のレコード大賞は、その当時の音楽業界における保守層から強い抵抗を受けて開催が危ぶまれたともいいますが、そこで登場したのがこの水原弘だったということは、非常に示唆的にも思えるのです。それから時が流れるにつれて、賞レースの背後で大人の事情が強く作用しているという噂が絶えないことを思えばなおさら……




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