ロック探偵のMY GENERATION

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パトリシア・コーンウェル『死体農場』

2020-04-16 17:13:50 | 小説

 

パトリシア・コーンウェルの『死体農場』を読みました。

例によって、ミステリー・キャンペーンの一環です。
パトリシア・コーンウェルといえば、一時代を築いたサスペンス作家といっていいでしょう。これまでこのミステリーキャンペーンで名前が挙がってきた作家たちと比べると比較的時代が新しいですが、決してレジェンドたちに引けをとるものではありません。

タイトルになっている「死体農場」とは、法医学の実験施設。
いささかショッキングですが、人間の死体をさまざまな条件下において、損壊、腐敗がどのように進行するかを研究しています。たとえば、死体を平原に野ざらしにしておくと、どのような動物に食い荒らされ、どのくらいの時間をかけて白骨化していくかがわかる、というわけです。そういうものがアメリカに存在するというのは聞いたことがあったので、それに関する興味もあり、この作品をチョイスしてみました。

発表されたのは1994年。
読んでみると、いかにもその時代を映した作品だと思えました。

たとえば、小児性愛をはじめ、サイコパス的な要素。
あまり詳しく書くとネタバレになってしまうので書けませんが、犯人が犯行に至る動機にも、ある種の“心の闇”が作用しています。
その背景が、90年代という時代――『羊たちの沈黙』がヒットした時代――それは、以前書いた、人間が人間のなかにモンスターを見出す時代ということでしょう。アメリカでは70年代末ぐらいからそういう傾向があったと思いますが、それがじわじわと拡大してエンタメの世界を覆うようになっていったのが、90年代ぐらいなんじゃないでしょうか。

一応ストーリーをちょっと紹介しておきましょう。

メインとなるのは、ノースカロライナ州の田舎町ブラック・マウンテンで起きた殺人事件。
11歳の少女エミリー・スタイナーが何者かに殺害され、遺体は肉の一部を切り取られたうえで遺棄されるという事件が発生します。FBIの女性検屍官ケイ・スカーペッタがその謎を追いますが、その過程で捜査陣のなかからも死者が出て、さらに肉親の身にも危険が及び……といった話です。

ミステリー的な部分でいうと、指紋に関する推理がシンプルながらも斬新で感心させられました。
これも、指紋というミステリーではおなじみの素材がこんなふうに料理されうるのかと目からウロコです。
それも含めて、この小説では、警察の捜査にかんするディテールの書き込みがものすごい。主人公の専門である法医学の分野だけでなく、FBIが科学捜査を進めていくさまが詳しく描かれています。
これらの要素は、警察担当の新聞記者として働き、警察関連の機関で活動していたという経歴によって支えられているようです。シャープな文章もまた、ライターとしての仕事で培ったものでしょう。この検屍官シリーズは、現在に至るまでおよそ二十年にわたって書き続けられているということですが、それもうなずける一作でした。



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2 コメント

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Unknown (gorussa-megolly)
2020-04-17 00:57:19
昨年までテレビで放映していた『クレイジージャーニー』という番組でアメリカにある『死体農場』が特集されていました。
勿論、モザイクはかかっていましたが死体が腐敗する経過を観察する様子が放映されていました。
確かサンプルになる死体の多くは死刑囚だったと思いますが、中には研究のために自ら志願する人もいると聞きました。
この番組は好きで見ていたのですが終わってしまって残念です。
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Re:gorussa-megolly (村上暢)
2020-04-18 01:33:42
コメントありがとうございます。

小説によると、死体農場で実験に使われる死体は、本人の希望で提供されたものもあるそうです。医学生が解剖に使う死体と同じような感じで、生前に提供を申し出る人がいるということです。

死体農場は、『クレイジージャーニー』でも扱われていたみたいですね。私はその回は観てませんが、『クレイジージャーニー』自体はたまに観てました。たしかに、面白かったです。

“不適切な演出”があって打ち切りになったわけですが……そのあたりはちょっと考えさせられます。
そもそも、“ヤラセ”と“演出”とは紙一重であり、ドキュメント的な番組での事前の“仕込み”は演出の一環としてごく普通に行われているし、ある程度までは許容されるという意見もあるようです。
そんなふうに考えると、世間の目がちょっと変な方向に厳しくなりすぎてるんじゃないかという気も私はしてます。
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