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腸チフス パラチフス Enteric fever

2010-10-27 | Tropical Medicine 各論
Salmonella enterica のいくつかの血清型で生じる全身性発熱性疾患
1年間に推定2200万人が感染、20万人が死亡
東南アジアでの罹患率は100cases/100,000 population/year
旅行者の罹患率は3-30cases/100,000 travelers

Enteric fever = Typhoid fever (Salmonella. typhi) & Paratyphoid fever (S. paratyphi A, B and C)
頻度は約3 : 1
ワクチン接種歴のある旅行者の報告ではほぼ1 : 1
両者で症状に差はないが、S. paratyphi感染でやや重症度が低い
2160万人が罹患、21万7千人が死亡 (2000)
(持続的に便に菌を排出する)キャリアからの食物や水を通じた経口感染
菌量 10^5 発症率25%
菌量 10^7 発症率50%
菌量 10^9 発症率95%
細菌性赤痢や腸管出血性大腸菌感染症に比べて多い
無症状病原体保有者は便に10^6-9排菌する

感染者でも無症候性でキャリア化する場合あり(ex. Typhoid Mary)
潜伏期間は病原体の経口摂取後7-14日(3-60日)
回腸末端部のパイエル板に感染(下痢) ⇒ 腸間膜・リンパ節に波及 ⇒ 一次菌血症 ⇒ 肝臓・脾臓・骨髄のマクロファージに感染 ⇒ 二次菌血症(一部胆嚢で胆嚢炎・キャリア化) ⇒ 回腸末端部のパイエル板に感染 ⇒ そのうち出血・穿孔
インド、パキスタン、バングラディッシュ等の西アジア、オセアニアの一部に罹患率が高い
リスク: 41.7人 (インド) 対 5.91人(中東)/100,000旅行者 [Karl Ekdahl, 2005]


高頻度に認める症状(>80%):発熱、頭痛
中等度の頻度に認める症状(30-70%):便秘、下痢、比較的徐脈、バラ疹
低頻度に認める症状(<30%):咳嗽、難聴、ショック、下血、意識障害

白血球は正常範囲か軽度の上昇に留まることが多い
好酸球が0%となるのも特徴
多くの患者(82%)でALTは軽度上昇する

バラ疹
発熱から約1週間の間に出現頻度は5-30%
直径2-4mm淡い紅斑性丘疹(皮膚の色が濃いと見逃しやすい)
体幹(腹部・胸部)に多く、背部や四肢に出現することは稀

合併症として回腸末端部の潰瘍による消化管出血(0-20%), 穿孔(1-3%)
第3病週に発症することが多い

診断は菌の同定(血液培養、便培養)
抗菌薬が使用されている場合は48時間以上休薬して培養検体採取、骨髄液を培養

抗菌薬治療
抗菌薬がない時代の腸チフス致死率は10-20%
1948年からCP (2g4x)
再発率5.6%, キャリア率5.9%
で致死率は1%以下に改善
1970年代にクロラムフェニコール耐性菌がメキシコとベトナムに出現。
1980年頃からST(4T2x), AMPC(4g4x)
再発率それぞれ1.7%, 2.2%, キャリア率3.5%, 4.1%
1990年頃からCPFX(1gx2), OFLX(400mg2x)
再発率1.2%, キャリア率1.5%
2000年頃からCTRX, AZM
再発率それぞれ5.3%, 0.5%, キャリア率5.9%

多剤耐性菌(プラスミド):CP, ST, AMPC全てに耐性を示すもの
ナリジクス酸耐性(染色体点変異):FQに低感受性
多剤耐性菌は南アジア、ナイジェリアで報告が多い

実際の治療
血液培養陽性でGNR検出されればCTRX2-4g/day開始
NA耐性とLVFXのMICを測定(E-test)
NA耐性, LVFX MIC >0.5 ならCTRX継続 10-14day (解熱後5日以上)
NA耐性, LVFX MIC <0.5 ならLVFX 750mg/day 10-14day (解熱後5日以上)
NA感受性, LVFX <0.5 ならLVFX 500mg/day 7日関

再発
患者の約 5% に認められる(最初に選択した抗菌薬治療により異なる)
抗菌薬を終了後 2~3 週間してから発熱が見られる
初発時より、症状は軽い場合が多い
検出菌の抗菌薬感受性を見ながら、初回と同様に治療する

三類感染症の対応
2007年4月, 二類感染症から三類感染症に変更(勧告入院なし, 疑似症報告不要)
診断した医師は, 直ちに最寄りの保健所に届出
居住地保健所による聞き取り調査があることを患者に説明
病原体を保有しなくなるまで就業制限(調理従事者のみ)
(諸外国では医療従事者を含むことがある)
病原体を保有していないこと(除菌)の確認

保菌の評価
抗菌薬中止48時間以上かつ発症から1ヶ月以上経過後に24時間以上の間隔で連続3回、便培養検査陰性。
(Control of Communicable Diseases Manualでは、抗菌薬48時間以上経過後に1ヶ月以上の間隔で連続3回の便培養検査陰性)

ワクチン
国内では承認されていないが、以下のワクチンが海外で広く使用されている
- Vi 多糖体ワクチン (Typhim Vi)
1回接種、ブースター効果なし (3年毎)
S. Paratyphi A or Bに対しては予防効果なし
防御効果は61%、2-5歳では防御率80%
ワクチンを未接種でも接種者との同居で防御率44% [Dipika S. NEJM 2009;361:335-44]

- 経口弱毒生腸チフスワクチン (Vivotif Berna)
S. Paratyphi Aに対して効果はないが、S. Paratyphi Bに対しては交差防御で49%のワクチン効果 [Levine MM. CID 2007]
腸溶性カプセルを使用した3回のワクチン接種で7年後も62%のワクチン効果


References:
M K Bhan, Lancet 2005; 366: 749–62
CHRISTOPHER M. PARRY, N Engl J Med, Vol. 347, No. 22
Trupti A, Am. J. Trop. Med. Hyg, 2010

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