
稲は半身を沼に浸し、枯れていたが、美しかった。まるで神のようだ。これはカシワナ族の宝なのだ。カシワナカがくれた、極上のおいしい食べ物だ。これがあるからこそ、カシワナ族は豊かに太ることができる。みんないい暮らしをすることができる。だが、ここにある稲からとれる米だけでは、カシワナ族が食べるだけで精いっぱいなのだ。ヤルスベ族に分けられる分は少ない。だが、ヤルスベの要求はどんどん大きくなってくる。
どうすればいいのか。アシメックは顔をしかめて稲を見つめた。もっと、米がたくさん採れれば、このオロソ沼が、もっと広ければ。……広さ?
「クプダ(広さ)というんだ、場所が大きいことを、クプド(広い)というじゃないか」
その時、エルヅの言葉が頭にひらめいた。クプダ、広さ。
広くなれば、オロソ沼を広くすれば、なんとかなるのではないか?
イタカの野に細い川を描き
稲を歩かせ
豊の実りを太らせよ
夢で聴いた神の声がありありとよみがえった。たちまちのうちに、アシメックの頭の中にある情景が浮かんだ。川だ。川を掘ればいい。ここに川を掘って、沼をイタカに広げるんだ。そしてその沼に、稲を植えれば、沼が広がる、米がとれる量が増える!!
これか!!
アシメックは振り向き、イタカの野を眺め渡した。野も、オロソ沼に近い一帯には草が少なく、水たまりがあちこちにあった。野はオロソ沼に向かってわずかに傾斜しているのだ。地面も低く、ぬかるんでいるから、鹿もここまでは来ない。そうだ、この湿った辺りを、みんな沼にしてしまえばいい。川を掘って、水を流してしまえば、低いところはみんな沼になる。