
鷲の翼のある神カシワナカは、大きな風を引き起こしながら、アシメックの頭上すれすれを飛んで通り過ぎて行った。その時、アシメックはカシワナカの声を聴いた。
イタカの野に細い川を描き
稲を歩かせ
豊の実りを太らせよ
ケバルライ
その声を聴き終えたとき、アシメックはまた上空を見上げた。もうそこにカシワナカの姿はなかった。それはどういう意味だ、という問いを起こそうとしたとき、足元からケラド蛇の声がした。下を見ると、そこに細い蛇がいる。しかしそれは赤くない。むしろ青い。いや待て。よく見てみると、それは川だ。細い川だ。
アシメックは視線を導かれるように川の筋を追った。川の上流には、オロソ沼が見える。
そこで目が覚めた。
目を開けると、自分の家の天井の木組みが見える。アシメックは身を起こし、周りを見た。もう夜は明けたのか、家の中は幾分明るかった。少し離れたところの寝床で、ソミナとコルが一緒に眠っている。
アシメックは何かに操られるように、寝床から立ち、足を忍ばせて家の外に出た。まだ日は登りきっていなかったが、空は明るかった。彼は何かに掻き立てられるように、イタカの野に向かった。
そのときまだイタカは冬だった。冷たい風が山から吹いてきている。アシメックは肩掛けもつけてこなかったことに気付いたが、寒くはなかった。足はどんどん進み、イタカを横切っていった。この野を、南西の方にどんどん進んでいけば、オロソ沼につながっていくのだ。
東の空に太陽が全身を現す頃、足元がゆるくなってきた。ところどころに水たまりが見える。アシメックは足元に気を付けながら進んだ。やがて、行く手に静かなオロソ沼の水面が広がり、枯れた稲の群れが見えてきた。ここからが、オロソ沼だ。