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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

クプダ②

2018-06-16 04:12:38 | 風紋


アシメックは、イゴの木の下に転がっていたその骨をしばし見つめた。骨には何か汚いものがこびりついていた。嫌な臭いがする。暗い眼窩の奥ではケラド蛇がかすかに奇妙な声で鳴いていた。そう、ケラド蛇は鳴くのだ。蛇なのに、微かな声で鳴くのだ。

遺骸を見つけたら、砕いてやりたいと、誰かが言っていたが、アシメックはそんなことをする気にもならなかった。遺骸は朽ち果てて、獣のように山に転がり、蛇の巣になっている。それは放蕩者にふさわしいなれの果てのように思えた。もう人間とは思えない。その魂はおそらく、アルカラとは別の、誰も知らない魔の闇に吸い込まれていったのだろう。

おまえのおかげで村は大変なことになってるよ。

アシメックはオラブの頭蓋骨に向かって、心の中でささやいた。だがそれ以上のことは何もせず、踵を返して山を下り始めた。なんとかせねばならない。このままでは、カシワナ族が飢えてしまう。ヤルスベは味をしめて、カシワナの米をどんどんとっていくのだ。

境界の岩を超えると、突然山がなくなり、アシメックはいつの間にかイタカの野にいた。

季節は突然春になっていた。ミンダの花が咲き乱れている。

アシメックは村の方向に向かって歩いているつもりだったが、いつの間にか行く手にオロソ沼が見えてきた。どうしてだろう、と思っていると、頭の上から鳥の声がした。見上げると、大きな鷲が一羽、空を舞っている。いや待て、あれは鷲ではない。

驚いている暇もなく、その鷲は翼をはためかせ、見る間にアシメックに向かって降りてきた。アシメックは目を見開いた。それは背に大きな鷲の翼を生やした、実に立派な男であったのだ。自分よりも大きい。

アシメックは思わずひざまずいて頭を垂れた。カシワナカだ。間違いはない。




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