
だがあのオラブは、その神に逆らったまま、境界の向こうで、もう何年も生きているのだ。たびたび村人から物を盗み、何度も追いかけられているのにかかわらず、一度も捕まったことがない。
正しいものが常に勝つなら、すぐにでも捕まるはずなのに。
そのことに、アシメックは不安を感じていた。もしや、神カシワナカを脅かすような魔が、オラブを助けているのだろうか。
そんなはずはあるまい。すばらしい神カシワナカを脅かす魔など、いるはずはないのだ。
米の収穫が終わって数日後、例年のようにまたヤルスベ族が米を買い付けに来た。ゴリンゴと何人かのヤルスベ族の人間が来たが、その中にはアロンダの姿はなかった。
有名なヤルスベ族の美女を見られることを、内心期待していたやつは、少々がっかりしたらしい。今年の交渉が終わった後、ヤルスベ族の人間にアロンダのことを尋ねるやつがいた。それによると、アロンダは最近病気になって寝付いているらしい。だから来れなかったというのだ。
「ほう、病気か」
「胸が悪くなったんだとさ」
「そりゃいかんね。胸の病気は、心に重いものがあるっていうぞ」
「隠し事でもあるのかな」
アロンダが病気になったという話は、多少の尾ひれをつけながら、村に伝わっていった。アシメックもそれを耳にしたが、たいして気にはしていなかった。