世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

トカムの穴④

2018-07-02 04:13:09 | 風紋


次の日の朝早く、アシメックが広場に来てみると、もうトカムがそこに来ていた。まだ他のものは集まっていない。

「やあトカム、早いな」
アシメックが声をかけると、トカムは恥ずかしそうに、「うん」と言った。
「仕事が楽しいのか」とアシメックが言うと、トカムはくちびるをかみしめた。トカムは今、穴を掘りたいのだ。そんなことは、土器を作っている時も、ヤルスベで色塗りの仕事を習っている時も、感じたことはなかった。

だがトカムは、自分の気持ちを言うのが下手だった。だから何も言わずに、小さくうなずいただけだった。だがそれでも、アシメックは嬉しかった。トカムはいい目をしていた。エルヅに数を数える力があるのを発見した時と、同じ予感がした。

やがてみんなが広場に集まってきた。アシメックは昨日と同じように、みなをイタカの野に導いていった。

汗を流して、鍬を振り、土を打つ。そのとき、鍬が土に食い込んで、穴が空く。トカムはそれが面白かった。自分の思うように、穴が空くのがおもしろかった。鍬の重さもここちよい。腕を振り上げる時、鍬が一瞬後ろに飛びそうになるのを、自分の手で押さえる感覚が、ここちよい。

おれ、できる。

トカムは土を掘りながら思った。それが、涙が出るほどうれしかった。土器を作る時も、帯を編む時も、みんなのように器用に作れなかった。それが恥ずかしくて、家に閉じこもりがちだった。このまま、何もできずに、何もせずに、人生終わるのか。そう思ってたまらなくなる時もあった。




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