冬が去り、浅い春の気配がイタカの野に見えるころ、アシメックはひどく疲れを覚えるようになった。少し体を動かすだけで、しばし何もできなくなる。だるいのだ。体に流れてくる気力のようなものが、どこかで詰っているような感じだ。
その頃になると、ソミナも兄の様子がおかしいことに気付いた。
「体が悪いのかい? あにや」
「いや、だいじょうぶだ」
アシメックは笑いながら言った。だがその顔にも元気がない。
「米を食べたら、元気が出るよ。稲蔵に行ってもらって来よう。コル、いっしょにおいで」
そう言って、ソミナはコルをつれて外に出て行った。アシメックは笑った。明日の朝は、ソミナが作ってくれる、うまい粥が食えそうだ。
家の中で、ひとりで囲炉裏のそばに座りながら、アシメックは目をつぶる。そうするとまたあの声が聞こえる。
ケバルライ
わかっている。あれだ。あれが呼んでいるのだ。だが、あれとはなんだ。カシワナカのことか。夢で見たあの神のことか。
アシメックは前に見た夢のことを思い出した。鷲のように大きな翼をした立派な男の神。それは自分に大きな使命を言い渡したのだ。
イタカの野に細い川を描き
稲を歩かせ
豊の実りを太らせよ
ケバルライ
もうそれは終わった。アシメックは野に川を描き、稲を歩かせ、タモロ沼を作り、大きく稲の収穫を太らせたのだ。
おれはやったのだ。
アシメックは腹の奥に何かをずんと落とすように、自分にそう言った。