
「明日はヤルスベとの交渉だな。何を持ってくるだろう」
アシメックとダヴィルは、アシメックの家でしばらく相談をした。
「去年はナイフと木の皿だった。首飾りもあった」
「それで俺たちはどれだけ米を出した」
「エルヅによると、十八壺だ」
「かなりの量だな」
「ヤルスベも米は好きなんだ。米は一度食うと、もうあの味が忘れられないからな」
アシメックはソミナと何人かの女たちに、交渉場に使う家の掃除をしておくように頼んだ。そして村の役男たちを集め、稲蔵の米を見ながら相談した。
「今年はどれだけとられるかな」
「ナイフは欲しいが、米を全部とられてはかなわん。ヤルスベは欲深い」
「全部はとられんさ。そんなにたくさんはとられん」
「ヤルスベにはオロソ沼はないからなあ」
「とにかく、十八壺ほど、わけておいてくれ」
村がいきなりあわただしくなった。明日、異民族の使いが、米の買い付けのためにこの村にくるのだ。大人は交渉場をしつらえるのに忙しくなった。交渉に使う家に鹿皮を敷き、野花や羽を飾り、飲み物と器を用意した。ヤルスベ族には、野生の林檎の酒を薄めたものに甘菜の蜜をほんの少し混ぜた飲料がいつも出された。彼らがそれをよろこぶからだ。