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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ゆきしろばらべに・2

2012-04-27 11:52:20 | 薔薇のオルゴール

ゆきしろとばらべには、熊が怖くはないことがわかりましたので、こわごわと、熊の毛皮に触ったり、小さなその瞳をそっとのぞき込んだりしました。するとその目の中には、暖炉の明かりが映り込んで、それはあたたかな、星のようにきれいな心が見えていました。ゆきしろとばらべには、すっかり安心して、とうとう、熊の耳をひっぱったり、くすぐったりしてしまいました。それでも、熊が何も言わず、ただ笑っているので、しまいにいたずらっけを起こして、ちょっと蹴飛ばしてみたり、転がしたりしてしまいました。すると熊は困って、「おいおい、ゆきしろよ、ばらべによ、かんべんしておくれ。死んでしまったら、君たちと結婚できなくなってしまうよ」と言いました。
ゆきしろも、ばらべにも、このおどけたやさしい熊が、大好きになりました。そして熊は、冬じゅう、毎日のように、家にやってきては、ゆきしろとばらべにと、遊んだり、話をしたりしました。そして、一冬は、とても楽しく、幸せに過ぎていきました。

そうして、やがて雪が解け、春の風が森に吹きこみ始めたころ、熊はふたりに、言いました。
「ゆきしろ、ばらべに、ぼくはそろそろいかなくてはならない。春になると、冬の間は眠っていた悪い小人が目を覚まして、ぼくの宝物を盗みにくるんだよ。ぼくはその小人から、宝物を守らなくてはならないんだ」
ゆきしろとばらべには、熊が行ってしまうのを、さみしがりましたが、冬になったらまた来ると、熊が言ってくれたので、安心して、言いました。
「また来てね。暖炉の薪は、いっぱい集めておくわ」
「今度の冬には、栗の実で、おいしいお菓子をつくってあげる」
ふたりは手を振って、森の奥へと去ってゆく、熊を見送りました。

それからしばらくたった、ある春の日のことでした。おかあさんは、ふたりを、森へ芝を集めに行かせました。ふたりが森の中をゆく途中、大きな木が倒れているところがあって、その上で、何かが飛び跳ねているのを、ふたりは見つけました。近づいてよく見てみると、それはひとりの小人でした。小人は青っぽいおじいさんのような顔をしていて、しわくちゃの長い白い髭を、倒れた木の割れ目に挟まれて、それをどうしても抜くことができなくて、かんしゃくを起こして暴れていたのです。
小人はふたりを見つけると、いまいましそうに言いました。
「何をじろじろ見ているんだ。このうすのろの馬鹿め! このおれさまを助けることもできんのか!」
それを聞くと、ふたりは大急ぎで小人に走り寄り、言いました
「いったいどうして、こんなことになったの?」
「うるさい! とんまなちびっこめ! おれさまは薪をとろうとして、この馬鹿な木に髭をとられただけだ!」
ふたりはなんとかして、小人の髭を木の割れ目からとろうとしましたが、くしゃくしゃの髭が木の割れ目にからみついて、どうしてもとることができませんでした。そこで、ゆきしろは、ポケットから小さなハサミを取り出すと、小人の髭の先っちょを、ちょんと切ってしまいました。小人は、木の割れ目から解き放たれるや否や、耳に刺さるような甲高いぐちゃぐちゃした声で、わめきたてました。
「この馬鹿娘! おれさまの立派な髭をよくも切ったな! おまえなんぞ、カッコウのえさにでもなってしまえ!」
小人はそう言うと、あっという間に、森の奥に走って逃げていってしまいました。

ゆきしろは、ちょっと悲しい顔をしました。いつもお母さんに、困っている人は助けてあげなさいと言われていたので、なんとかしてあげたつもりだったのだけど、あまりに、ひどいことを言われてしまったので、かえっていけないことをしてしまったのかと思ってしまったのです。すると、ばらべには、すぐにゆきしろの心がわかって、言いました。
「気にすることはないわ。小鳥が言ってたもの。悲しいことがあっても、勉強なんだと思えば、なんでもいいことになるんだって」
するとゆきしろは少し微笑んで、ばらべにに、「ほんとうにそうね」と言いました。

それからまた、何日かが過ぎました。ふたりは今度は、夕御飯の魚をとるために、つりざおを持って、森の中の小さな池に出かけました。池のほとりにつくと、そこにはまた、あの小人がいました。小人は木にしがみついて、何かわけのわからないことを言いながらひいひいと悲鳴をあげていました。よく見ると、小人は、長い髭の先を、池の中の大きな魚にくわえられて、今にも池の中に引っ張り込まれてしまいそうになっているのです。
ふたりは、目を丸くしながら言いました。
「いったいぜんたい、どうしてそんなことになったの?」
すると小人は、ふたりをぎろりとにらんで、ぐしゃぐしゃな声で、またわめきました。
「うるさいうるさいうるさい! このうすらとんかちのでっかいだけの能無しの馬鹿な魚が、おれさまの髭をうらやんで気に入りよったんだ!」

ばらべには、小人の髭をひっぱって、どうにかして魚の口から髭を助けようとしましたが、魚はいよいよ強く引っ張るばかりで、小人の髭をどうしてもはなしてくれませんでした。そこでばらべには、ポケットから小さなハサミを取り出して、仕方なく、小人の髭をちょんと切ってしまいました。魚は、小人の髭の先を加えたまま、どぼんと池に沈んで見えなくなりました。小人は、何とか助かって、ほっと息をつきましたが、すぐに目をぎらつかせて、娘たちをにらみました。
「なんて頭の悪いやつらだ! またおれさまの髭を切りよって! ほかにもっとましなことはできんのか! 馬鹿でのろまな女のちびっこめ、魚に食われてくそにでもなってしまえ!」
小人は、そう言うと、池のほとりにおいてあった袋を大急ぎで担ぎ、すぐに森の向こうに走って消えていきました。

(つづく)



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ゆきしろばらべに・1

2012-04-27 07:06:55 | 薔薇のオルゴール

昔々、ある深い緑の森の奥に、一見の小さな家がありました。家の庭には、白い薔薇の木と、赤い薔薇の木が、こんもりと静かに植えられていました。白い薔薇と、赤い薔薇は、季節ともなると、それはきれいに咲いて、透き通った香りが、森の風の中を流れました。

その家には、ひとりのやさしい女の人が住んでいて、ゆきしろと、ばらべにという、ふたりのかわいい娘がいました。

長い黒髪に雪のように白い額をした娘が、ゆきしろ。亜麻色の髪に、薔薇色のほおをした娘が、ばらべにです。母親が、とてもやさしく、きちんとしつけをして、正しいことを教えましたので、ふたりの娘は、とてもやさしく、気立てのよい娘に育ちました。
「自分の心に、恥ずかしいことはしてはいけませんよ。いつも心はきれいにして、人には親切にしてあげなさい」
母親はいつも、娘たちに教えました。
「賢いことは、よいことです。森は、いろんなことを教えてくれるから、たくさん勉強しなさい。知りたいと思うことがあったら、遠慮なく、鳥や動物や木や花に、尋ねなさい。みんなきっと、いいことを教えてくれるから」

娘たちは、森が大好きでしたので、毎日のように、森の動物たちや小鳥たちと遊びました。花や木とも、いろんな話をしました。風も時々、声をかけてくれました。一度など、森と話をするのに夢中になって、家に帰るのを忘れてしまい、そのまま木の根元に抱かれて眠ってしまったことがありました。そのときは、木々が静かに子守唄を聞かせてくれて、小さな星明かりの秘密を、夢の中にささやいてくれたりしました。娘たちは、森の中で、まるで宝物のように、みんなに大切にされて、育てられていました。

娘たちは、いろいろなものにやさしくすると、とてもいいことがあるということを、森のみんなに教わりました。お母さんと、森に育てられて、娘たちは、どんどんかしこく、美しく成長していきました。そしてふたりは、とても仲良く、いつもいっしょで、お互いのことがとても好きで、何をするにも、助け合っていました。

それは、ある、とても寒い冬の日のことでした。外には、しんしんと白い雪が静かに降っていました。お母さんは、暖炉の前の揺り椅子に座り、娘たちに本を読んであげていました。娘たちは、それぞれに、糸車を回したり、小さな襟巻を編んだりしながら、おかあさんの読む、昔のお話に耳を傾けていました。物語は、不思議な古いきれいなことばで書かれてあって、お母さんがそれを読むと、まるで歌のように流れて、二人の胸に静かに沈み込んでいきました。ゆきしろとばらべには、ときどき、ほうっとため息をつきました。お母さんの読んでくれるお話には、昔の人のきれいな知恵が、宝物のように隠れていて、それは真珠のような雫になって、二人の胸に、深くしみ込んでくるのです。それはそれは美しくて、本当にうっとりするほど、心がうれしくなるのです。

ゆきしろは言いました。「なんてきれいなお話なのかしら。つらいことがあっても、知恵があって、努力をすれば、ちゃんと立派なことができるって意味なのね」ばらべには言いました。「うん、わたしもそう思うわ。賢くなるためには、時々つらいことがあっても、逃げたりないで、ちゃんと自分で考えて、自分で工夫して、それでがんばってみなさいってことなのよ」
ふたりは、顔を見合せながら、お互いに同じことを感じていることが嬉しくて、微笑みながら、うなずきあいました。

そのときでした。誰かが、戸口を、とんとんとたたく音がしました。
「おやおや、こんな時分に、どなたでしょう。きっと旅の人だよ。この寒さの上に、雪に降られて困っているのだわ。ゆきしろや、ばらべにや、戸を開けておあげ」
おかあさんが言いました。ゆきしろとばらべには、戸口の方にかけていって、かんぬきをあげて、静かに戸を開きました。するとそこには、なんとまあ、それはそれは大きくて真っ黒な、一匹の熊がいました。
「おお、寒い、寒い。ゆきしろよ、ばらべによ、どうか中に入れておくれ。この寒さで、ぼくは胸まで凍りついてしまいそうだ」
熊はぶるぶると震えながら、言いました。

ゆきしろとばらべには、驚いて、最初は怖くて、逃げようとしましたが、熊の声が、それは優しく、きれいな声でしたので、少しほっとして、家の中に入れてあげました。
おかあさんは、暖炉の火の前の場所を開け、熊をそこに座らせてあげました。そして娘たちに言いました。
「ばらべにや、布を持ってきて、雪でぬれた毛皮をふいておあげ。ゆきしろや、山羊のミルクを、少し温めておあげ」
二人は、おかあさんのいうとおり、熊のぬれた毛皮を布でふいてあげ、温かい山羊のミルクを飲ませてあげました。熊は、毛皮はごわごわで、山のように黒くて大きくて、牙や爪などもとがっていて、様子はたいそう恐ろしくもありましたが、温かい暖炉の火や山羊のミルクで一息入れると、それはきれいな声で、何かしらやさしいことを言ってくれるものですから、三人は最初はちょっと不安だったのですけれど、少しずつ安心して、熊に気を許すようになりました。熊は、たいそう気の良い、親切な熊で、二人の娘たちに、にっこりと笑って、おもしろい話をしてくれました。

(つづく)



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