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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 秋 秋の夕

2013年09月22日 | 日本古典文学-秋

秋は、夕ぐれ。夕日のさして、山のはいと近うなりたるに、烏の、寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ、三つなど、飛びいそぐさへ、あはれなり。まいて、雁などの列ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入りはてて、風のおと、虫の音など、はたいふべきにあらず。
(枕草子~新潮日本古典集成)

(略)暮れぬれば、夕つ方、寝殿へ渡りたまひぬ。
 風涼しく、おほかたの空をかしきころなるに、今めかしきにすすみたまへる御心なれば、いとどしく艶なるに、もの思はしき人の御心のうちは、よろづに忍びがたきことのみぞ多かりける。ひぐらしの鳴く声に、山の蔭のみ恋しくて、
 「おほかたに聞かましものをひぐらしの声恨めしき秋の暮かな」
(源氏物語・宿木~バージニア大学HPより)

秋の夕べのものあはれなるに、一条の宮を思ひやりきこえたまひて、渡りたまへり。うちとけ、しめやかに、御琴どもなど弾きたまふほどなるべし。深くもえ取りやらで、やがてその南の廂に入れたてまつりたまへり。(略)うち荒れたる心地すれど、あてに気高く住みなしたまひて、前栽の花ども、虫の音しげき野辺と乱れたる夕映えを、見わたしたまふ。
(源氏物語・横笛~バージニア大学HPより)

夕月夜心もしのに白露の置くこの庭にこほろぎ鳴くも
(万葉集~バージニア大学HPより)

しかのねもむしのうらみもきこえてしあきにあきそふこのゆふへかな
(為兼家歌合~日文研HPより)

千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成
あれわたる秋の庭こそあはれなれましてきえなん露の夕暮
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

あきはなほゆふまくれこそたたならねをきのうはかせはきのしたつゆ
(和漢朗詠集~日文研HPより)

いつも吹く軒はの松の風なれとわきて身にしむ秋の夕暮
(宝治百首~日文研HPより)

ふきしをりみにしむいろのかせよりもゆふへそつらきあきのおもひは
(建暦三年七月十三日・内裏歌合~日文研HPより)

おもひやれましはのとほそおしあけてひとりなかむるあきのゆふくれ
(後鳥羽院遠島百首~日文研HPより)

題しらす 良暹法師
さひしさに宿を立出てなかむれはいつくもおなし秋の夕暮
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

鹿のねになほ色さびしまさき立つ秋のみ山の夕暮の空
(紫禁和歌集)

かきりなき秋のあはれは白雲のゆふゐる山のさをしかの声
(建長三年九月十三日・影供歌合~日文研HPより)

はきにしかかやになくむしこころせよのてらのかねのあきのゆふくれ
(夫木抄~日文研HPより)

谷のとはこの葉みたるる秋かせに人もたつねぬ入合のかね
(宝治百首~日文研HPより)

五十首歌たてまつりし時 寂蓮法師
むら雨の露もまたひぬ槙の葉に霧立のほる秋の夕くれ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 寂蓮法師
さひしさはその色としもなかりけりまきたつ山の秋の夕暮
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 西行法師
何となく物かなしくそみえわたる鳥羽田の面の秋のゆふくれ
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

さきのゐるそとものこすゑいろつきてかとたさひしきあきのゆふくれ
(夫木抄~日文研HPより)

堀河院御時、御前にてをのをの題をさくりて歌つかうまつりけるに、すゝきをとりてつかうまつれる 源俊頼朝臣
うつらなくまのゝ入江のはま風にお花なみよるあきの夕暮
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

西行法師すゝめて百首歌よませ侍けるに 藤原定家朝臣
見わたせは花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕暮
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 西行法師
心なき身にもあはれはしられけり鴫たつ沢の秋の夕くれ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

さびしさは我が身ひとつにあらねども秋の夕べの袖ぞ露けき
(草庵集百首和歌)

なかむれは其事としもなけれとも夕身にしむ秋の空かな
(宝治百首~日文研HPより)

題しらす 西行法師
何事をいかに思ふとなけれともたもとかはかぬ秋の夕暮
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

嘉元百首歌たてまつりける時、露 昭慶門院一条
草も木もなへて露けき夕かな秋の哀や四方にみつらん
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

百首歌たてまつりし時 摂政太政大臣
をしなへて思ひしことのかすかすになを色まさる秋の夕暮
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

ものことにあきはあはれをわかねともなほかきりなきゆふくれのそら
(六百番歌合~日文研HPより)

百首歌奉ける時、秋歌とてよめる 皇太后宮大夫俊成
ゆふされは野辺の秋風身にしみて鶉なくなりふか草のさと
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

ゆふされはうらかせふきてうつらなくまののいりえのあきのあさふに
(夫木抄~日文研HPより)

たいしらす 源時綱
君なくてあれたる宿のあさちふにうつらなくなり秋の夕暮
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

右兵衛督俊実子にをくれてなけき侍けるころ、とふらひにつかはしける 右大臣北方
いかはかりさひしかるらんこからしの吹にしやとの秋のゆふくれ
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)


古典の季節表現 秋 秋の田

2013年09月20日 | 日本古典文学-秋

あきのたのほなみにむすふしらつゆのたまゆらみゆるよひのいなつま
(建保五年十月・四十番歌合~日文研HPより)

うへのをのことも、秋十首歌つかうまつりけるに 右衛門督為家
かたをかのもりのこの葉も色つきぬわさ田のをしね今やからまし
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

秋の田の五百代(いほしろ)小田よりいへゐして千束(ちづ か)やおしねつまむとすらむ
(文治六年女御入内和歌)

宝治百首歌奉りける時、秋田を 前内大臣
夕日さす門田の秋のいな莚わさほかりしき今やほすらん
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

崇徳院に、百首歌たてまつりける時 皇太后宮大夫俊成
みしふつきうへし山田にひたはへて又袖ぬらす秋はきにけり
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

百首歌奉りし時、田家 前摂政左大臣
を山田のひたのかけ縄引むすひかり庵つくる時そきにける
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

あきのよのつゆにそほつのみたやもりひたひきならせいなはそよめく
(雲居寺結縁経後宴歌合~日文研HPより)

あきのたのほなみにすたくむらすすめなるこのおとにたちさわくなり
(正治初度百首~日文研HPより)

ゆふまくれをちのやまたをもるひともいなおほせとりになるこひくなり
(林葉集~日文研HPより)

師賢朝臣梅津の山庄にて、田家秋風といふこゝろをよめる 源頼家朝臣
宿近き山田のひたにてもかけてふく秋風にまかせてそみる
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

秋田
とほ山田人なきよりも秋のよはかりほのひたの音そさひしき
(宝治百首~日文研HPより)

ひとそなきつきはかりすむをやまたのなるこはかせのふくにまかせて
(文保百首~日文研HPより)

百首歌奉りし時、秋田 中園入道前太政大臣
しら鳥のとは田のほなみ吹たてゝもる庵さむき秋の山風
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 前大納言為兼
山田もるかりほの庵に露散て稲葉吹こす秋の夕風
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

秋田刈る刈廬を作り我が居れば衣手寒く露ぞ置きにける
(万葉集~バージニア大学HPより)

たいしらす 天智天皇御製
秋の田のかりほのいほのとまをあらみわか衣ては露にぬれつゝ
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

崇徳院御時百首歌めしけるに 左京大夫顕輔
秋の田にいほさすしつのとまをあらみ月と友にや守あかすらん
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

田家月 後鳥羽院下野
秋の田の露しく床のいなむしろ月の宿とももるいほりかな
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

後冷泉院御時、后の宮の歌合によめる 伊勢大輔
秋の夜は山田のいほにいなつまのひかりのみこそもりあかしけれ
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

延喜御時、月次御屏風のうた 躬恒
かりてほす山田の稲をほしわひてまもるかりいほにいくよへぬらん
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

備中国湯川といふ寺にて 僧都玄賓
山田もるそうつの身こそ哀なれ秋はてぬれは問人もなし
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

百首歌奉りし時、田家 大納言顕実母
世の中は秋の山田のかりの庵住うしとてもよしやいつまて
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

思ひに侍ける年の秋、山てらへまかりける道にてよめる つらゆき
朝露のおくての山田かりそめにうき世中を思ひぬる哉
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)


古典の季節表現 秋 虫の音(ね)

2013年09月19日 | 日本古典文学-秋

 秋ごろ、西の渡殿の前、中の塀の東の際を、おしなべて野に作らせたまへり。閼伽の棚などして、そのかたにしなさせたまへる御しつらひなど、いとなまめきたり。(略)例の渡りたまひて、
 「虫の音いとしげう乱るる夕べかな」
 とて、われも忍びてうち誦じたまふ阿弥陀の大呪、いと尊くほのぼの聞こゆ。げに、声々聞こえたる中に、鈴虫のふり出でたるほど、はなやかにをかし。
 「秋の虫の声、いづれとなき中に、松虫なむすぐれたるとて、中宮の、はるけき野辺を分けて、いとわざと尋ね取りつつ放たせたまへる、しるく鳴き伝ふるこそ少なかなれ。名には違ひて、命のほどはかなき虫にぞあるべき。
 心にまかせて、人聞かぬ奥山、はるけき野の松原に、声惜しまぬも、いと隔て心ある虫になむありける。鈴虫は、心やすく、今めいたるこそらうたけれ」
 などのたまへば、宮、
 「おほかたの秋をば憂しと知りにしをふり捨てがたき鈴虫の声」
 と忍びやかにのたまふ。いとなまめいて、あてにおほどかなり。
 「いかにとかや。いで、思ひの外なる御ことにこそ」とて、
 「心もて草の宿りを厭へどもなほ鈴虫の声ぞふりせぬ」
 など聞こえたまひて、琴の御琴召して、珍しく弾きたまふ。宮の御数珠引き怠りたまひて、御琴になほ心入れたまへり。
 月さし出でて、いとはなやかなるほどもあはれなるに、空をうち眺めて、世の中さまざまにつけて、はかなく移り変はるありさまも思し続けられて、例よりもあはれなる音に掻き鳴らしたまふ。
 今宵は、例の御遊びにやあらむと推し量りて、兵部卿宮渡りたまへり。大将の君、殿上人のさるべきなど具して参りたまへれば、こなたにおはしますと、御琴の音を尋ねて、やがて参りたまふ。
 「いとつれづれにて、わざと遊びとはなくとも、久しく絶えにたるめづらしき物の音など、聞かまほしかりつる独り琴を、いとよう尋ねたまひける」
 とて、宮も、こなたに御座よそひて入れたてまつりたまふ。内裏の御前に、今宵は月の宴あるべかりつるを、とまりてさうざうしかりつるに、この院に人々参りたまふと聞き伝へて、これかれ上達部なども参りたまへり。虫の音の定めをしたまふ。
 御琴どもの声々掻き合はせて、おもしろきほどに、
 「月見る宵の、いつとてもものあはれならぬ折はなきなかに、今宵の新たなる月の色には、げになほ、わが世の外までこそ、よろづ思ひ流さるれ。故権大納言、何の折々にも、亡きにつけていとど偲ばるること多く、公、私、ものの折節のにほひ失せたる心地こそすれ。花鳥の色にも音にも、思ひわきまへ、いふかひあるかたの、いとうるさかりしものを」
 などのたまひ出でて、みづからも掻き合はせたまふ御琴の音にも、袖濡らしたまひつ。御簾の内にも、耳とどめてや聞きたまふらむと、片つ方の御心には思しながら、かかる御遊びのほどには、まづ恋しう、内裏などにも思し出でける。
 「今宵は鈴虫の宴にて明かしてむ」
 と思しのたまふ。
(源氏物語・鈴虫~バージニア大学HPより)

嘉保二年八月殿上人嵯峨野に虫を尋ぬる事
嘉保二年八月十二日、殿上のをのこども嵯峨野に向て、虫をとりたてまつるべきよし、みことのりありて、むらごの糸にてかけたる虫の籠(こ)をくだされたりければ、貫首以下、みな左右馬寮の御馬に乗てむかひけり。蔵人弁時範、馬のうへにて題をたてまつりけり。「野径尋虫」とぞ侍ける。野中にいたりて、僮僕をちらして虫をばとらせけり。十余町ばかりは、各(おのおの)馬よりおり、歩行せられけり。夕に及て、虫をとりて籠に入て、内裏へかへりまゐる。萩・女郎花などをぞ籠にはかざりたりける。中宮御方へまゐらせて後、殿上にて盃酌・朗詠などありけり。歌は、宮御方にてぞ講ぜられける。簾中よりもいだされたりける、やさしかりける事也。
(古今著聞集~岩波・日本古典文学大系)

撰虫 忠頼朝臣
色々にさか野のむしを宮人の花すり衣きてそとりぬる
 左撰虫といへる事は。あながち式有事にてはなけれども。殿上の逍遥とて。殿上人ども遊てさが野などへむかひて。虫籠にむしをえらび入て奉りけり。面白事にて侍ば。秋の題の中に加へ侍也。
(年中行事歌合~群書類従)

天禄三年八月野宮歌合のうた 規子内親王家但馬
浅茅生の露吹むすふ凩にみたれてもなくむしのこゑ哉
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

夕暮かたに、ちいさきこにすゝむしを入て、紫のうすやうにつゝみて萩の花にさして、さるへき所の名のりをせさせて、斉院にさしをかすとて、そのつゝみ紙に書付たりける よみ人しらす
しめのうちの花の匂ひを鈴虫のをとにのみやは聞ふるすへき
返し 選子内親王
いろいろの花はさかりに匂ふとも野原の風の音にのみきけ
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

 春より秋になるまて月日のゆくゑもしらぬに虫のこゑをほのかにきゝて
すきかはる程もしらぬにほのかにも秋とは虫の声にてそ聞
(赤染衛門集~群書類従15)

題知らず 袖ぬらすの准后
虫の音もあはれぞまさる浅茅原半ば過ぎ行く秋の夕暮
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

たいしらす そねのよしたゝ
なけやなけよもきか杣のきりきりす過行秋はけにそかなしき
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

夜虫を 前左大臣
宵のまはまれに聞つるむしのねも更てそしけき蓬生の庭
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

はつきの廿日比、月くまなかりける夜、むしのこゑいと哀なりけれは 赤染衛門
有明の月はたもとになかれつゝかなしき比のむしのこゑ哉
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

忠義公家にて人々歌よみ侍けるに 紀時文
秋ふかくなり行野辺の虫のねは聞人さへそ露けかりける
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

是貞のみこの家の歌合のうた としゆきの朝臣
秋のよのあくるもしらすなく虫はわかこと物や悲しかるらん
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

廉義公家にて、草むらのよるの虫といふ題をよみ侍ける 藤原為頼
おほつかないつこなるらむ虫のねをたつねは草の露やみたれん
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

たいしらす 曽祢好忠
秋の野の草むらことにをく露はよるなく虫の涙なるへし
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)

文保百首歌に 三条入道前太政大臣
をきあまる夜のまの露も浅ちふのをのか涙と虫や鳴らん
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

西山にすみ侍ける比、虫を聞て 前大僧正慈鎮
草ふかき宿のあるしと諸共に浮世をわふる虫の声哉
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 和泉式部
命あらはいかさまにせむ世をしらぬ虫たに秋はなきにこそなけ
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

山階入道左大臣家の十首歌に、夜虫といふことをよみてつかはしける 三条入道内大臣
夜もすから音をはなくとも蛬我よりまさる物は思はし
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

寝(い)をしねで夜ごとに聞けばあはれにも鳴きまさるかな鈴虫の声
(和泉式部集~岩波文庫)

虫声非一といふ心をよみ侍ける 左近中将良経
さまさまのあさちか原の虫の音を哀一つにきゝそなしつる
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

虫をよませ給うける 崇徳院御製
むしのこと声たてぬへき世中に思ひむせひて過る比かな
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

円融院御出家の後、八月はかり広沢にわたらせ給ける御ともに、左右大将つかうまつり、ひとつ車にて帰侍けるに 按察使朝光
秋の夜を今はとかへる夕くれはなく虫のねそかなしかりける
返し 左近大将済時
虫のねに我涙さへおちそはゝ野原の露や色まさるらん
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

あひしりて侍ける人の、伏見にすむと聞て尋ねまかりたりけるに、庭の草道も見えすしけりて虫の鳴けれは 西行法師
わけている袖に哀をかけよとて露けき庭に虫さへそなく
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

あれぬとてなくかまかきのきりきりすおのれさひしきよもきふのやと
(明日香井集~日文研HPより)

長月のつもこりかたに、わつらふことありてたのもしけなく覚けれは、久しくとはぬ人につかはしける 藤原基俊
秋はつるかれのゝ虫のこゑたえはありやなしやを人のとへかし
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

長恨歌のゑに玄宗もとの所にかへりて、むしともなきくさもかれわたりてみかとなけき給へるかたあるところをよめる 道命法師
ふる里はあさちかはらとあれはてゝ夜すから虫の音をのみそなく
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

早う住み侍りけるところの荒れにけるを、年ごろありて見てよめる 芹生の中納言
我が宿は鶉鳴く野と荒れはててあるじ顔なる虫の声々
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

天禄三年女四宮歌合によめる 橘正通朝臣
秋風に露を涙となく虫のおもふ心をたれにとはまし
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)

天暦の御門にたてまつらせ給ける 女御徽子女王
秋の野の萩のしたねに鳴虫の忍ひかねては色に出ぬへし
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

みかど、みこと申しける時、かれがれにならせ給へりければ、長月ばかりによめる 後悔ゆる大将の女御
風寒み人まつ虫の声立ててなきもしぬべき秋の暮かな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

一方ならず物思ひけるころ、虫の音を聞きて 親子の中の内大臣
思ふこと千ぐさにしげき虫の音に乱れまされる我が心かな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

かしかましくさはにかかるむしのねやわれたにものをいはてこそおもへ
(伊勢物語~日文研HPより)

いまこむとたれたのめけむあきのよをあかしかねつつまつむしのなく
(和漢朗詠集~日文研HPより)

こむといひしほともすきにしあきののにひとまつむしのこゑのかなしさ
(古今和歌六帖~日文研HPより)

百首歌奉し時、虫 従一位宣子
松虫のなくとも誰かきてとはんふかき蓬のもとのすみかを
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

秋御歌とて 朔平門院
鳴つくす野もせの虫のねのみして人はをとせぬ秋の故郷
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 接心院内大臣
野への色もかれのみまさる浅茅生に残るともなき松虫の声
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

月前虫といふ事をよめる 読人不知
長月の有明のかけにきこゆなり夜をへてよはる松虫のこゑ
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

叢虫といへる心を 太宰権帥為経
むしのねもかれかれになる長月の浅ちか末の露のさむけさ
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

なきよわるあさちかはらのむしのねをあきふけてきくよはそかなしき
(為兼家歌合~日文研HPより)

霜草欲枯虫思苦といへる心を 前中納言匡房
はつ霜にかれ行草のきりきりす秋は暮ぬは聞そ悲しき
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

題知らず 渡らぬ中の承香殿女御
我が如くなき弱りゆく虫の音は秋果つる身や悲しかるらん
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

題知らず 風につれなきの吉野の院御歌
虫の音も秋果てがたの草の原枯葉の露は我が涙かも
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

五日、暁、目を覚まして聞けば、かしがましきまでありし虫の、音もせぬに
ねをだにを今は泣くべき方もなしまぎれし虫の声絶えぬれば
(和泉式部続集~岩波文庫)

徳治二年の秋、遊義門院の御事おとろき申て西郊の仙洞よりまかりいてける時、嵯峨野にて虫の声を聞てよみ侍ける 前大僧正忠源
玉と見し露さへもろきならひにて世のさかにこそ虫も鳴なれ
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

郁芳門院かくれおはしまして又のとしの秋、知陰かりつかはしける 康資王母
うかりしに秋はつきぬとおもひしをことしも虫の音こそなかるれ
返し 藤原知陰
虫の音はこの秋しもそ鳴まさるわかれの遠く成心ちして
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

柏木の大納言かくれて後、右のおとどしばしばとぶらひものし給ひける贈り物に、とどめ置かれたる笛を奉りて、少し吹き鳴らし給へるを聞きて 一条御息所
露しげきむぐらの宿にいにしへの秋に変らぬ虫の声かな
(物語二百番歌合~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)


古典の季節表現 秋 雁

2013年09月18日 | 日本古典文学-秋

今朝鳴きて行きし雁が音寒みかもこの野の浅茅色づきにける
(万葉集~バージニア大学HPより)

みねこえていまそなくなるはつかりのはつせのやまのあききりのそら
(夫木抄~日文研HPより)

題しらす 院御製
秋風のさむくしなれは朝霧のやへ山こえて雁も来にけり
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

初雁を 平宗宣朝臣
山風のさむき朝けに嶺こえていくつら過ぬ秋の雁金
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

延喜十三年十月尚侍藤原朝臣満子四十賀の屏風歌、内よりの仰事にて読て奉りける中に、雁のなくをきく所 貫之
秋霧の立わたれともなく雁の声は空にもかくれさりけり
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

さきたちてたのもにおつるひとつらをたつねてそらにかりやなくらむ
(延文百首~日文研HPより)

やへきりのたつ山本のはるはると田面におつる秋の雁かね
(永福門院百番自歌合~日文研HPより)

沖より舟どもの歌ひののしりて漕ぎ行くなども聞こゆ。ほのかに、ただ小さき鳥の浮かべると見やらるるも、心細げなるに、雁の連ねて鳴く声、楫の音にまがへるを、うち眺めたまひて、(略)
(源氏物語・須磨~バージニア大学HPより)

百首御歌に 院御歌
雲遠き夕日の跡の山きはに行とも見えぬかりの一行
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 読人しらす
白雲にはねうちかはしとふ雁のかすさへみゆる秋の夜の月
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

さ夜中と夜は更けぬらし雁が音の聞こゆる空を月渡る見ゆ
(万葉集~バージニア大学HPより)

月さし出でて曇りなき空に、羽うち交はす雁がねも、列を離れぬ、うらやましく聞きたまふらむかし。
(源氏物語・横笛~バージニア大学HPより)

百首歌奉しに 徽安門院一条
窓白きねさめの月のいりかたに声もさやかに渡る雁かね
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

題知らず 親子の中の内大臣
掻き暗し我がごと物や思ふらん雁の寝覚の声聞こゆなり
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

秋の頃、目の覚めたるに、雁の鳴くを聞きて
まどろまで哀れ幾夜になりぬらんただ雁が音(ね)を聞くわざにして
(和泉式部続集~岩波文庫)

つとめて、端の方を眺むれば、空いとよく晴れて、雁の列(つら)ねて鳴き渡るを
問ふかとてみどりの紙にひまもなくかき列(つら)ねたる雁が音(ね)を聞く
(和泉式部続集~岩波文庫)

遊義門院かくれ給にける秋、雁の鳴をきかせ給て 伏見院御歌
をくれてもかついつまてと身をそ思ふつらにわかるゝ秋の雁金
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)


古典の季節表現 秋 鹿

2013年09月17日 | 日本古典文学-秋

詠鹿鳴
このころの秋の朝明に霧隠り妻呼ぶ鹿の声のさやけさ
君に恋ひうらぶれ居れば敷の野の秋萩しのぎさを鹿鳴くも
秋萩の散りゆく見ればおほほしみ妻恋すらしさを鹿鳴くも
秋萩の咲きたる野辺はさを鹿ぞ露を別けつつ妻どひしける
秋萩の咲たる野辺にさを鹿は散らまく惜しみ鳴き行くものを
(万葉集~バージニア大学HPより)

これさたのみこの家の歌合によめる 藤原としゆきの朝臣
秋萩の花さきにけり高砂のおのへの鹿はいまや鳴らん
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

あきふかきはなののつゆにつまこめてなれもたちぬれしかそなくなる
(延文百首~日文研HPより)

千五百番歌合に 従二位家隆
秋風にもとあらの小萩露落て山陰さむみ鹿そなくなる
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

石山にこもり給へるに、鹿のいとあはれに鳴きければ 風につれなきの女二の宮
かくばかり深くはいまだ知らざりき鹿の鳴くねに秋のあはれを
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

秋歌とて 儀子内親王
うす霧の山本とをく鹿鳴て夕日かけろふ岡の辺の松
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

文保三年、後宇多院よりめされける百首歌の中に 民部卿為藤
小山田の庵もる床も夜さむにて稲葉の風に鹿そなくなる
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

もののふもあはれとおもへあつさゆみひきののよはのさをしかのこゑ
(夫木抄~日文研HPより)

たいしらす よみ人しらす
たれきけと声高砂にさをしかのなかなかしよを独なくらん
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

九月ばかり、山へ登るとて、大岳といふ所にて休み侍りけるに、月影に鹿の声あはれに聞こえ侍りければ 風につれなきの関白
月のすむ峰をはるかに尋ぬれば憂き世を送る鹿の声かな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

秋歌に 寂然法師
木枯に月すむ峰の鹿の音を我のみきくはおしくも有かな
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

なくしかのこゑにめさめてしのふかなみはてぬゆめのあきのおもひを
(千五百番歌合~日文研HPより)

正安三年八月十五夜内裏十首歌に、暁月聞鹿 左大臣
よそにきく我さへかなしさを鹿の鳴ねを尽す有明の空
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 貫之
秋はきのみたるゝ玉はなく鹿の声よりおつる涙なりけり
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

朝鹿といふ事を 源持春
啼あかすをのか涙の時雨にやぬれて朝たつさをしかの声
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

このころはやまのあさけになくしかのきりかくれたるおとそさひしき
(建暦三年七月十三日・内裏歌合~日文研HPより)