monoろぐ

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有本芳水の詩「春の夜」

2015年03月03日 | 読書日記

春の夜

春の夜(よ)更(ふ)けぬ母上は
雛(ひいな)の灯(ともし)入れたまふ
笑ひさざめき袖つらね
少女(をとめ)はわが家(や)にあつまりぬ。

十二一重(ひとへ)のくれなゐに
夜(よる)のあいろは美(うつく)しう
玉蟲色のくちびるは
雛(ひいな)の宵にふさはしや。

櫻月(さくらづき)なりおぼろなり
衣桁(いかう)にかかる振袖の
金絲(きんし)の縫(ぬひ)に赤き灯(ひ)は
夢のごとくにてりはゆる。

袖に秘めたる香函(かうばこ)の
にほひは誰(たれ)のたはむれか
中(なか)の一人は内裏雛
雛(ひいな)の顔を眺めしが。

そのおもざしのなき母の
顔に似たりとささやきて
白粉(おしろい)つけし頬(ほ)の上(うへ)に
可愛(かあ)ゆき涙流しぬる。

(有本芳水「芳水詩集」より)


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