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心の傷の癒やし方ー『英国王のスピーチ』

2011-06-25 00:00:00 | 映画
 大分前になってしまったが、話題の「英国王のスピーチ」を、久し振りに歌舞伎町のミラノ座で見た。アカデミー賞の効果よりも、ロイヤルウエディング効果を感じる人気で、1000席を超える大劇場が半分以上埋まって賑やか。全席自由なので、ペアシート(アベックシート!?だがお友達同士もなかなかオツ!)を一人でゆったり座っている女子も!

 お話は、今年結婚したウィリアム王子様の曽祖父、現女王エリザベス2世のお父様で、緊張すると、吃音がでてしまう(言葉が詰まって、どもってしまう)スピーチの苦手な心優しいジョージ6世が、いかにして吃音を克服し、困難に直面する国民に向かって、国民を勇気付ける感動的なスピーチをする事が出来るようになったかを、描いている。

 登場するのは名優揃いで、「パイレーツ・オブ・カリビアン」「ハリー・ポッター、シリーズ」「マンマ・ミーア」で見た顔がずらり。それぞれが全く違う顔を見せて好演している。

 
 人は生まれ落ちた瞬間から、周りの人間への思いやりとともに、自意識、自負=プライドを持っている。生まれたての赤ん坊の沐浴をする仕事をしていて、本当に実感する。初めて身体を洗う自分の声に、じっと耳を澄まし、目を見つめ、一挙手一動を受け入れる様子は、『よろしくお願いします』と、礼義を心得ているように感じられるときがある。

 自分の思いを人に伝え、それが伝わり受け入れられる時、人は極上の喜びを感じる。だが生まれた瞬間から、その願いが叶えられる事は、とても難しいのが現実。言葉があっても無くても、自分の思いを伝えることは、とても難しく、伝わらなかった失望や、受け入れられなかった、拒否された、悲しみの方が多い。

 それでも、人は抱きしめられたり、手を握ってもらったり、見つめてもらったりする事で、心を癒してもらえる幸せを感じる事が出来る。それが、言葉に表せない幸福感だと言う事を、生まれた瞬間から(生まれる前から)知っている。

 ここからは、ネタバレがあるので要注意!!

 王族として生まれた人間は、周りの期待は大きく、それに伴うプレッシャーもまた並みの物ではない。厳しい躾、苦痛を伴う足の矯正などで、ジョージ6世の自尊心は、幼い頃から傷つけられ、スピーチで自分の声を聞き吃音が出てしまう情けなさに、さらにわが身を守る自尊心の心の鎧は、固く分厚くなっていた。それでも、心優しいジョージには、夫の吃音を克服する為諦めず治療法を探す美しい妻と、父親を慕う二人の愛らしい娘達の癒しがあった。

 妻が、何時もスピーチで傷ついている夫を思い、探し出したのが、スピーチ矯正の専門家ライオネル。彼は、本業の役者としては、何時もオーデションで厳しい現実を突きつけられ、家族相手に芝居ごっこをして年を重ねているが、家族は、俳優業の傍ら、戦地で傷ついた兵士の失語症などの治療もする父親を、温かく見守り続けていた。

 上下関係無しで一人の友人として対応するライオネルに、初めは動揺し殻を固くしめ潜り込んでいたジョージも、徐々に心を開き、禁句を連呼させられ、溜まった思いを吐き出し、表情も気持ちも軽くなり、プライドの鎖を解いていくが、突然の王の死で、王位敬称の自信を持てないジョージとライオネルは、衝突する。王としてのジョージの可能性を信じ、勇気付けるライオネルの言葉を、これ以上プライドを傷つけられたくないジョージの心が受け入れない。

 二人は、ジョージの戴冠式で、再会。前日から、ジョージに寄り添い、演出家よろしくジョージのスピーチまでの全てをアドバイスし見守るライオネル。ジョージは遂にスピーチと言う自分の苦手なものを克服した。感情を抑え静かに見守るライオネルの姿が、胸に沁みる。事情を初めて知り、仰天しつつ誇らしくも黙っていつもと変わらず、ライオネルを見守る家族も、素晴らしい。
 
 そして、クライマックス、王としての大仕事、国民を勇気付けるスピーチが始まる。二人きりの録音室、細かくライオネルがチェックした原稿を手に、緊張の面持ちでマイクに向かうジョージに、ライオネルは「私に向かって話して」と語りかける。話し始めるジョージと呼吸を合わせるように、手振りを添えながら、見つめ続けるライオネルの暖かな視線に、胸が熱くなって、涙がこぼれてしまった。

 人間は、人間の心は、とても傷つきやすい。傷つけるのも人間ならば、その傷口を癒してくれるのも人間。多くの言葉以上に、寄り添い、見守りつづける眼差しや思いが、どんなに人間を勇気付け、傷を癒し、支えてくれる力を持っているのかを、改めて実感させてもらった。
 
 この世に生まれたばかりの子供たちの相手をする自分にとって、改めて人間の心について考えさせてくれた。ライオネルのような、ライオネルの家族のような、心の広さを持ちたいと、ラストシーンのライオネルの眼差しを、心に刻みつけ、何度も思い出している。