Tik's little window 

スポーツ観戦&体験記、
映画&ドラマ鑑賞記、
日々の出来事などを、綴ってまいります

映画人、木下恵介の魅力ー「楢山節考」

2009-02-22 00:00:00 | movie
 先日、久し振りの新・文芸座に、脚本家・山田太一氏のトークショーを聞きたくて出かけた。

 「ありふれた奇跡」を見ていることもあったが、最近「夢に見た日々」を見直している事もあり、初めて山田太一氏の話を生で聞く機会見つけ、勇んで出かけた。

 トークショーの前に「喜びも悲しみも幾年月」の上映。テレビで切れ切れに見ていた作品を大スクリーンでじっくり見ました。厳しい環境を一歩づつ歩いていく姿を描いた、テレビドラマのようといったら、大ブーイングを受けるかもしれませんが、いつ見ても暖かくて優しい気持ちに包まれる作品。長女の旅立ちのシーンは、現実と重なりジーン。満たされた気持ちで見終わり、会場を見ると満席で、中高年を中心に立ち見も出るほど。なんとか三列目の端の席をキープできてラッキー。劇場の外には、名物?!男子トイレ行列が出来ていました。

 待ちかねたトークショーは、木下恵介監督の元でずっとお仕事をしていた山田太一さんと横堀幸司さん(木下恵介監督の下助監督をし、「高原へいらっしゃい」の脚本も手がける)のお二人で、木下監督の思い出を語るというもの。

 木下恵介監督作品での失敗談や監督の好きなもの、嫌いなもの、素晴らしい作品の数々を語り合っていらっしゃいました。暖かく優しい作品とは違った面を持つ監督の逸話などを紹介され観客からも笑いが。記念上映の話しや、船旅で、毎晩、木下作品を上映した話など、貴重な話を聞く事が出来ました。山田太一さんの若い頃の様子など、自分が知らなかった話が沢山聞けて、とても良かったです。木下作品の評価がもっともっと高くなってもいいはずだと、熱く語っておられました。
 
 続いて見たのは「楢山節考」。 木下作品の中でも、とても有名な作品だという事を何も知らぬまま見て、最初から最後まで、圧倒されました。オールセットで撮り上げた、スタッフの情熱がびんびん伝わってきて、幕をめくれば次の場面が出てくる仕掛けに息を呑む。スタッフに負けない、名女優・田中絹代をはじめとする役者達の熱演。まるで舞台を見ているような錯覚に捕らわれながら、義太夫・長唄をバックに、クライマックスへ。姥捨て山へ母親を背負い山奥に母親を置いて山を下りるシーンは、もの悲しさと生きる厳しさ、逞しさが胸を打つ。トークショーが終わったら帰ろうかと思っていたが、見逃さないでよかったと、感動しつつ帰宅した。

 山田太一作品「ありふれた奇跡」の紹介をトークショーの後にしていたが、久し振りに見ている連続ドラマの中の一つ。作品の展開が楽しみだ。
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姑が残した石ー『おくりびと』

2009-02-05 15:01:00 | movie
 柿久さんから、天草出身の小山薫堂さんが脚本を書いていて、とってもいい作品だから、是非見て!と言われていた作品『おくりびと』。ボロボロになりそう・・・と泣き過ぎるのが怖くて、劇場へなかなか出かけられずにいた。

 職場で荒々しい人付き合いに、心がぐったり疲れて、「笑える場面も沢山あるから、大丈夫!」と言う言葉に後押しされ、意を決し見に行った。見事に、後半ずっと涙が止まらなかった。完璧号泣。唯一見送った体験、姑を自宅から見送った時の思い出が蘇り、懐かしい思いがこみ上げてきて、映画館を出るときは、本当に参った。

 何とも久石譲の音楽がいい。チェロを弾くシーンの音楽に、とても癒される。クリスマスに食べながらチェロを聴くシーンが、心に残る。食べなくては人間生きていけないが、音楽は人が生きていく中で、やっぱり、必要なもの。前者が『身体』にとって欠かせないものなら、後者は『心』にとって必要なものだ。
 
 チェロを強引に習わせ、突然消えた父。小さなチェロと石が残った。顔は忘れても、身体に沁みついたチェロと手に残る石文の感触は、父親が残していったもの。彼は気が付かなくても、父親の面影は彼の中で息づいていた。その彼が、妻に言われ、無縁仏となっていた父と対面するシーンは、涙が止まらなかった。 
 チェロ奏者になった事、楽団が解散した事、産まれ故郷へ帰ってきた事、納棺師になってしまった事、会社で子を捨てた事務員の女性に出会った事、全てが昔別れた父親を見送る事へつながっていた。

 これはフィクションだが、現実的にも、自分は運命を信じている。どんな些細な出来事も、一瞬の出会いも、人生の中でちゃんと意味があり役割がある。だから、一瞬一瞬、一つ一つ、一人一人、大切に心に刻んで生きて生きたいと思っている。

 消えていた父の面影が蘇り、握りしめた掌から石が出てきたとき、頬に一筋の涙が伝うシーンは、とても好きなシーン。見送った姑も、石が好きだったことを、思い出してし、胸が熱くなり、堪え切れず号泣!神様の廻り合わせは、残酷なようで優しい。父親の死に立ち会える人間は、現実的にはなかなかいないとするなら、最後の最後に彼は幸せ者だと思う。

 笹野高史さんの役どころも、良い。気持ちがめいりそうな仕事だが、彼の仕事に対する姿勢、死者への思いがこもった言葉が、心に残る。

 広末涼子さんのかわいい奥様も、魅力的。セリフは多くないが、自然体で彼を見つめる視線が、独特な納遺師を扱った作品を、自然に受け入れられる手助けになっている。

 納棺師という仕事を、あくまでも当たり前にやってのける、山崎務さん演じる社長。彼の気質見抜いて、納棺師の世界へ引き込み、時に厳しく時に優しく彼を育てて行く姿を、山崎さんの持つ独特の存在感で見せてくれる。余貴美子さんとのコンビもバッチリでした。

 吉行和子さんの風呂屋の叔母ちゃんも、彼を小さい頃から知る、母親のような存在。
送るシーンは、妻へのメッセージのようなシーン。美しく愛情がこもった所作が、言葉のないセリフとなって、胸に迫ってきた。

 誰もが、いつかは”おくる”立場になる。観客は、映画の中の誰かと同じ思いを共有できる作品。そして、観客は胸にこみ上げてくる寂しさ悲しみを、『彼』演じる本木雅弘さんが見せる納官師の美しく愛がこもった所作とチェロの調べで、優しく癒してもらって映画館を後にする。エンディング、長回しで見せる美しい納官師の所作(本当に長く大変な訓練の日々があったことと思います)には、思わず拍手したくなった。

 納棺師という仕事人にスポットを当て、ずっと映画化の夢を持ち続けた本木雅弘さん、笑いと涙を誘う脚本を書き上げた小山薫堂さん、暖かく優しい気持ち溢れる作品に仕上げてくれた滝田洋二郎監督他スタッフ・そしてキャストの皆さんに拍手!!

 この先、日々の暮らしに疲れたら『おくりびと』を見たいと思う。
 
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