カネシゲタカシの野球と漫画☆夢日記

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さようなら、八木裕~全ては神様のために

2004年10月10日 21時27分14秒 | ☆阪神タイガース
「最後から数えて2番目」の打席を始球式にて微笑ましく終えた神様が…心なしか落ち着かない様子で。一人ベンチの奥に腰を下ろし、戦況を見守っている。

観客動員の少なさを杞憂した人間はあっさりと裏切られ、「神様だけが持つ引力」の強さをあらためて思い知らされた。
それぞれの溢れる感情を胸にした4万8千人の「信者」たちが、広い広い甲子園を熱気に包み込む。

この日甲子園で起こる全てのことは、「神様」が眠りにつくための盛大な「宗教儀式」である。

若トラ・三東投手は宿敵・読売巨人軍に堂々と立ち向かい、それを援護する打線は気持ちよくつながりを魅せる。
ジャイアンツの名手・ニ岡はなんでもないゴロをトンネルし、鳥谷は未来につなげる痛烈なヒットをライト前に放つ。
今岡がサードでファインプレーを魅せることも、久保の調子があがらないことも、アニキが確実に打点を重ねることも、桧山がタイムリーを放つことも。
なぜかカツノリが三塁側ベンチに居ることも。

全ては「儀式」のために。
全ては「八木裕」のために。

神様が見ている。
家政婦よりも見ている。
恐れる事は、何もない。

「しかし、八木選手もこんなけテレビ映ってんの大変ですよ。顔作るのが。選手は撮られてんの知ってます。カメラに赤いランプがつくから。…あ、この角度だと大丈夫。バレません。」

湯舟氏と吉田義男氏による、関西ならではの「ミもフタもない解説」が引退試合に華をそえる。

鳥谷が逆方向にヒットを放つことも。
仁志がダブルプレーに倒れることも。
ジャイアンツの真田が、昔からふてぶてしいことも。
桟原の口元が、いつ見ても開いていることも。
虎ファンの6割が“キンケード"というカタカナを見ると
後ろに“(笑)"とつけたい衝動に駆られることも…。


全ては「儀式」のために。
全ては「八木裕」のために。

滞りなくイニングが進み、神様は一度ベンチの奥に消える。
最後の打席を目前に控え、その神通力をバットに宿らせるために。

1987年5月、後楽園球場。
プロ初安打は怪物・江川投手から放った代打ホームラン。
1992年9月にはヤクルト岡林投手から「幻のサヨナラホームラン」。
1997年には代打で4割5厘という驚異的なアベレージを残し、彼は「代打の神様」となる。
時は流れて2003年。
阪神タイガース念願のリーグ優勝に大きく貢献。

そして…

2004年10月10日、八木裕は引退する。

ジャイアンツのルーキー・岩館が強風にあおられたファールフライを落球することも。
タイガースのルーキー・林(リン)がプロ初打席で痛烈なセンターライナーを放つことも。
野村克則が犠牲フライで打点をあげたことも。
藤川球児がピリっとしないことも。
その分、安藤のストレートが走っていたことも。
そう、すべては…

そして8回裏。
戦況を考えれば、タイガース最後の攻撃イニングになるであろうことはほぼ確実。

先頭の8番・藤本がショートゴロに倒れる。
ピッチャーに打席がまわる。
甲子園を包み込んだ観衆の誰もが固唾を呑んだ。

「9番・安藤にかわりまして…八木」

うぉおおおおおおおおおお!!!!
張り裂けんばかりにスタジアムが沸く!沸き上がる!

全てはこの瞬間のために。
全ては「八木裕」のために…!

一回・二回。
素振りをしながら、いつもと何一つ変わらない涼しげな表情で打席に向かう八木選手。
彼を「選手」と呼べるのも、今日が最後だ。
「八木選手」「八木選手」…いつまでも呼び続けたかった。

いざ行かんや 萌え立つ大地に
さぁ八木裕(やぎひろし)が 勝利をめざして


鳴り響くヒッティング・マーチ。
ノーストライク・ツーボールからの3球目。
ジャイアンツ・南投手の放ったアウトコースにバットは振りぬかれ、打球はライト前に…!
ヒット!八木のヒット!
代打の神様が代打でヒット…!


ちくしょう。
うれしくて、寂しくて、寂しくて…。
いつもと変わらない八木裕の勇姿。
ちくしょう。
ありがとう。
ちくしょう。ちくしょう…。

鳴り止まぬ声援にも、神様の表情は緩まない。
「まだ試合は終わってないよ」と言わんばかりに。
もはや誰も、何対何でどちらが勝っているかなんてどうでも良くなっているというのに…。

そして試合は最終回。
首脳陣の粋なはからいで、そのまま一塁守備についた八木選手。
そのファースト・ミットに3つ目のアウトを刻むウイニングボールが納まった瞬間…

八木裕が「選手」と呼ばれてしかるべき時間が、すべて終わりを告げた。

大歓声。ハイタッチ。勝利の余韻。神様の笑顔。大歓声。「ありがとう!」の大歓声。

両軍ナインがベンチ前で整列する。
そして、別れの儀式。ファンへの儀式。
八木裕が、マイクの前に立つ。

「あこがれの甲子園球場のバッターボックスに入ることは…もうありません。」

ここまで言った時、涙声になる八木。
神様の一語一句に、感謝と感傷の気持ちをいっぱいに込めて湧き上がる涙のスタンド。

「18年間、本当にありがとうございました!」

「六甲おろし」にのせて、広い広い甲子園球場を小走りに一周する背番号3。
そんな神様の軌跡を讃え、「ありがとう」の横断幕を所狭しと掲げる大観衆。

八木裕は、淡々と走る。
八木裕は、どこか照れくさそうに。
八木裕は、感傷を振り払いつつ。
八木裕は、去っていく。
そして神様は今夜、眠りにつく。

笑顔のチームメイトに迎えられ、マウンド上で胴上げをされる背番号3。
それは「神様」を「人間」に戻すための、最後の儀式であった。

涙・涙のスタンドに、何度も何度も手を振りつつ…
去り行く背中。
秋の夜。

鳴り止まぬヒッティングマーチ。

本当にありがとう。
そしてご苦労様でした。
さようなら。八木裕選手。

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30 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
背番号3 (サンタパパ)
2004-10-10 21:31:45
スカイAは映らないし地上波ではやらなかったので、見ることができませんでした。



八木選手、どうもありがとう。

感謝の気持ちでいっぱいです。

ありがとう、八木選手 (いけ)
2004-10-10 21:52:59
サンテレビでみていました。やっぱり感動しました。

湯舟と吉田の解説はよかったです。ホントにミもフタもなくてよかったです(湯舟の太り方はもっとミもフタもなかったっす)

岡田監督を恨む気持ちがなかったとは言えませんが、いい引退試合でした。

セレモニーには藪もいたのでびっくりしました。さすがです、藪。



神様、八木選手ありがとうございました。
【サンタパパ選手】 (マンガウルフ監督)
2004-10-10 21:53:42
いや、もうね。感動的でしたよ。

八木さんは、幸せでした。
プレーオフの裏の感動 (ちゃれんじ)
2004-10-10 21:53:48
なんで今日くらいこっちを中継してくれない…

でもしかたないか。



神は天に召されたのでしょうか。
【いけ選手】 (マンガウルフ監督)
2004-10-10 21:55:20
>セレモニーには藪もいたのでびっくりしました。さすがです、藪。



下柳もいましたね。笑顔で。

最後の守備についたのは予定外だったようで(笑)。

あわてて前にこぼしたファーストゴロを拾う八木選手が印象的でした。
【ちゃれんじ選手】 (マンガウルフ監督)
2004-10-10 21:57:07
そうですか。僕は関東ですが、CSのスカイAでみていました。映像その他は、サンテレビと同じだと思われます。



プレーオフも気になりましたが、途中からやっぱり「神様の儀式」に引き込まれてしまいました。





・・・(涙)・・・ (トラのシッポ)
2004-10-10 21:59:42
特に気のきいた言葉もかけられませんが、ひとこと言わせてください。



お疲れ様、そしてありがとう。





*1軍通算成績



 ・1367試合

 ・816安打

 ・126本塁打

 ・479打点





この成績を見る限り、野球史では単なる1選手扱いかもしれません。

でもタイガース史には燦然と輝く選手であったことはまぎれもない事実。

彼の偉大な功績は我々の記憶に永久に残ることでしょう。
【トラのシッポ選手】 (マンガウルフ監督)
2004-10-10 22:05:24
成績だけみると、たしかに単なる1選手。



しかしタテジマ一筋で18年間頑張り続けたという稀有な事実。

そして彼が紡いだ数々の感動の記憶がトラファンの胸にあるから…彼は非凡な選手としてプロ野球の歴史に名を刻んだのでしょう。
お疲れさまですた・・・ (ププリン)
2004-10-10 22:30:23
トラのシッポさんのコメントを読むと、

正に「記録に残るより『記憶に残る』選手だった

んだなぁと思います。



だって、トラファンじゃない私もヒッティングマーチ

を歌えるぐらいなんですから(^^;



何はともあれ、お疲れさまでした!!

全ては神様のために (ナグネ)
2004-10-10 22:33:52
ほんと、そんな感じの試合でしたね。



いつもなら完全中継のサンテレビが「さすがに延期が3度目になると無理」とギブアップして7時55分からの放送で、一体何がどう無理だったのかと思ったら、通販番組だったんですね。そりゃ無理だわ^^;



藪さんも下さんも、たしか福原さんもベンチにいて、最後八木さんとハイタッチされていて、やっぱり「全ては神様のために」だなって思いました。



「代打・野村」は驚きました。何気に彼のあの打席も「最後の打席」だったのでは?シーズン終了後に戦力外通告されるという記事がありましたよね。神様の引退試合で最後の打席・・・甲子園、ですね。



一瞬だけ、涙声になった八木さん。忘れません。

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