今回の多事奏論は、感染症をテーマにした文学作品から。
ポルトガルのジョゼ・サラマーゴの「白い闇」という本が25年前に発刊されているの。
視界が真っ白になる病気。原因不明のまま伝染病のように感染が広まって行く。直面しているコロナウイルス感染にも重複する部分はあるでしょうか。パニックを恐れる国家によって個人の自由や尊厳が失われる。そんな中で人はどう生き抜いて行くのか。
感染拡大防止のため、憲法が保障するいくつもの自由や権利が制限されている現実。
臨時休校で教育を受ける権利が無くなること、イベントや外出の自粛で営業や移動する自由が奪われてしまうこと。
人類と感染症の闘いは、国家による公衆衛生と個人の人権とのせめぎ合いの歴史でもあると。
なるほどね。
緊急事態宣言のもとでその折り合いをどう考えるのか。国家としての対応と個人としての振る舞い。
人類はその両方でウイルスに負けていると。
国家としての負けは、責任を個人に転嫁して来たこと。
政治が自粛要請ベースで対策を進めて行くのは、政治責任も経済的損失を補償するコストもかからない一番楽な方法だから。
責任を国民に押し付け、結果的に下からの総動員体制と言う相互監視システムを作り上げてしまうという。政治判断などと勇ましい言葉を使いながらも、その覚悟は発する側には無いのだから。
そして、個人側の負けは怒りや疑心暗鬼の矛先を互いに向け合い、総動員体制に無意識のうちに加担すること。休校中にマチを出歩く子どもらを責め、営業を続ける飲食店などを批判する。
最低限の収入を得るための事情にも容赦無く切り込まれ傷付けられる。人間性の在りようがウイルスで試される。
感染拡大を防ぐため、個人として出来ることをするのは当然。しかし、その鬱憤を他の個人に向けてはいけないのだと。
この本は、やがて国家が国民を守るという根本的な機能を失う中で、お互いを支え、励まし続ける人たちの物語だと。
返却日は24日。
じっくりと読んでみます。