雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

胸つぶるるもの

2014-09-23 11:00:05 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第百四十三段  胸つぶるるもの

胸つぶるるもの。
競馬(クラベムマ)見る。
元結縒る(モトユヒヨル)。
親などの、「心ちあし」とて、例ならぬ気色なる。まして、「夜の中など騒がし」ときこゆる頃は、万づのことおぼえず。
まだものいはぬ乳児の泣き入りて、乳ものまず、乳母の抱くにもやまで久しき。
     (以下割愛)


どきっとして胸がつぶれそうになるもの。
競馬を見るの。
元結を縒るの。
親などが「気分が悪い」ということで、いつもと違う顔いろをしている時。まして、「流行病などで世間が騒がしく」亡くなる人の噂が聞こえてくる時などは、心配で他のことは何も頭に浮かんでこない。
まだ物も言わない乳飲み子が泣きに泣いて、乳も飲まず、乳母が抱いてもなかなか泣きやまない時。

思いがけない場所で、まだはっきりと表ざたになっていない恋人の声を耳にした時は当然ですが、他人などが、その人の噂などする時も、たちまちどきどきしてしまいます。
たいそう憎らしい人が来たときにも、また、はらはらする。奇妙に、何かというとどきどきするのが、胸というものですよ。
昨夜初めて通ってきた男性の、今朝の手紙が遅いのは、他人事でさえはらはらします。



胸がつぶれる」という言葉は、現在でも使うことがありますが、少納言さまの時代とあまり変わらない感情のことのようです。
実際に、どきどきしたことで胸がつぶれた人を見たことがないのですが、実にうまい表現だと思います。

ところで、最後の部分ですが、「他人事でさえ・・・」などと言っていますが、少納言さま自身のことではないかと、少々気になってしまいます。

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