雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

地獄からの伝言 ・ 今昔物語 ( 17 - 27 )

2024-04-02 07:58:43 | 今昔物語拾い読み ・ その4

     『 地獄からの伝言 ・ 今昔物語 ( 17 - 27 ) 』


今は昔、
仏道を修行する僧がいた。名を延好(エンコウ・伝不詳)という。
越中国の立山という所に参って、お籠もりしたが、夜の丑
時(ウシノトキ・午前二時頃)頃に、人の影のような者が現れた。

延好が恐れおののいていると、この影のような者が泣き悲しんで、延好に「実はわたしは、京の七条の辺りに住んでいた女です。七条よりは[ 欠字。方角が入るが不詳。]、西の洞院よりは[ 欠字。方角が入るが不詳。]、向かって行くと西北の辺り一(イチ・一軒目という意味か?)という家です。わたしの父母や兄弟は、今もその所に住んでいます。ところが、わたしはこの世の果報(寿命)が尽き、たいへん若くして死んで、この山の地獄に堕ちてしまいました。ところで、わたしは生きていた時、祇陀林(ギダリン・京極西にあった寺。)の地蔵講に参ったことがありますが、一、二度に過ぎません。その外には全くほんの少しばかりの善根も積んだことがありません。ところが、今、地蔵菩薩様がこの地獄においでになって、毎日三時(サンジ・昼間の勤行の三時刻で、早朝・日中・日没を指す。)にわたしの責め苦を代わって受けてくれています。どうぞ、お聖人様、あのわたしの本の家に行って、父母兄弟にこの事を告げて、わたしの為に善根を積むようにおっしゃって下さって、わたしの苦しみをお救い下さい。そうしていただければ、わたしは世々(セゼ・生々世々のこと。六道世界を生まれ変わり死に変わること。)にわたってこのご恩を忘れません」と言うと、姿が消えた。

延好はこれを聞いて、恐れおののいてはいたが、哀れみの心が生れて、立山を出て、ただちにその七条の辺りに行き、試みにあの女が言った所を尋ねて問うと、まことに女が言ったことに違う事がなく、父母兄弟が住んでいた。
延好は彼らに会って、立山での事を告げた。父母兄弟はそれを聞いて、全員が涙を流して泣き感激し、そして喜んだ。
その後、すぐに仏師と相談して、三尺の地蔵菩薩の像一体を造り奉って、法華経三部を書写し、亭子の院(テイジノイン・宇多法皇の御所)のお堂において法会を営んで供養し奉った。その日の講師は、大原の浄源供奉(伝不詳)という人であった。その講師が仏法を説くと、聞く者は皆、涙を流さないと言うことがなかった。

地蔵菩薩のご利益は、何よりも勝っていらっしゃる。地蔵講に一、二度お参りしただけの女の責め苦を代わって下さることは、まさにこの通りである。いわんや、心を込めて念じ奉り、そのお姿を像に造ったり絵に描いたりし奉った人は当然お助け下さることを思いやって、世の人は皆、地蔵菩薩に帰依し奉るべきである、
となむ語り伝へたるとや。

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