雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

小さな地蔵菩薩像 ・ 今昔物語 ( 17 - 28 )

2024-04-05 08:00:18 | 今昔物語拾い読み ・ その4

      『 小さな地蔵菩薩像 ・ 今昔物語 ( 17 - 28 ) 』


今は昔、
京の大刀帯町(タチハキマチ・不詳。)の辺りに住んでいる女がいた。もとは東国の人である。何か事情があって、京に上り住むようになったのである。

その女人には、少々善心があり、月の二十四日に六波羅蜜寺の地蔵講にお参りして聴聞していたが、そこで、地蔵の誓願を説くのを聞いて、信仰心を起こしてたいそう感激して、泣く泣く家に返った。
その後、地蔵菩薩の像を造り奉らんと思う心が深く生じて、着ている着物を脱いで仏師に与え、一磔手半(イチヤクシュハン・仏像の寸法を測る尺度。約36cmで、持仏像や胎内仏の標準的な高さ。)の地蔵をお造りした。
ところが、まだ、その開眼供養をしないうちに、女は急に病にかかり、数日病床にあったが、遂に死んでしまった。子供たちが傍らにいて泣き悲しんでいると、三時(ミトキ・六時間ほど)ばかりして蘇(ヨミガエ)った。そして、目を見開いて、子供たちに語った。

「わたしは、たった一人で広い野原の中を歩いているうちに、道に迷って行く方向が分らなくなりました。すると、冠をつけた官人が一人現れて、わたしを捕らえて、どこかへ連れて行こうとしました。その時にまた、端正な小僧さんが現れて、『この女は、我が母上である。すぐさま放免すべし』と仰せになりました。官人はそれを聞くと、一巻の書を取り出して、わたしに向かって、『汝には二つの罪が有る。早くその罪を懺悔せよ。その二つの罪というのは、その一つは邪淫の罪である。泥塔(デイトウ・土製の塔。素焼きの小さな塔らしい。)を造って供養すべし。二つ目の罪は講に参って説法を聞いた時、聞き終わらないうちに出て行った罪である。その懺悔を行え』と言うと、わたしを許して放してくれました。
すると、小僧さんがわたしに、『汝は、我を知っているか否や』と仰せになりました。わたしは知らないと答えました。小僧さんは、『我は、実は汝が造った地蔵菩薩なのだ。汝は我が像を造った。それゆえに、我はやってきて汝を助けたのである。速やかに本の国に返るがよい』と仰せになり、道を教えて返して下さったのです」と。

その後、雲林院(ウリンイン・京都市北区にあった寺院。)の僧に依頼して、泥塔を造って供養し、懺悔を行ってもらった。また、地蔵菩薩像の開眼供養をし奉って、心を込めて礼拝恭敬し奉った、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


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