雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

蟻の一穴 ・ 小さな小さな物語 ( 1787 )

2024-08-31 08:50:30 | 小さな小さな物語 第三十部

トランプ前大統領に対する暗殺未遂事件は、各界に大きな波紋を広げているようです。
トランプ氏自身は、本当に危機一髪という状態でしたが、耳の負傷だけで済んだようなので不幸中の幸いとも言えますが、事件全体としては、一人が亡くなり二人が重症ということですから、まことに不幸な事件だったと言えます。
事件の背景などは、まだ詳しくは伝えられていないようですが、まだ若い青年の単独犯の可能性が高いようにも報じられています。大規模な組織や政治的な背景などの影は薄いようにも見えますが、それはそれで恐ろしさを感じます。

民主主義国家を代表するともいえる米国において、大統領選挙は大変大きな行事です。イベントと言ってもいいほど、国家を上げて、長期間にわたって、激しい選挙戦が行われますが、ほぼ完全な二大政党制だけに、互いの陣営同士の戦いは激しく、政策論争以上に相手をこき下ろすことに注力し合っているように見えます。そうした選挙戦は、国家の分断化を助長しているとも指摘されていますが、米国の社会不安の一因になっているように見えてしまいます。
そのような、互いに相手を激しく罵倒し合うような選挙戦の中で、この事件は発生しました。そのような選挙のあり方について反省の機会を与えられたような気もしないでもありませんが、この事件の映像を見て第一に感じましたのは、「蟻の一穴」という言葉でした。

「蟻の一穴」という言葉、わが国で誕生した言葉のようですが、古くから使われているようです。その多くは、「蟻の一穴、天下の破れ」とか、「千丈の堤も、蟻の一穴から崩れる」と言ったように、蟻がえぐる小さな穴が、天下や千丈の堤といった一見盤石な物を砕くとの教えとして使われるようです。
米国という強大な国家を建設した人々が、長い時間をかけて築き上げてきた民主主義政治の根幹をなす大統領選挙が、たった一発の銃弾において、たった一人の青年の行動によって大きく揺らぐという現実を見せつけられたような気がしました。
もしかすると、私たちが身を寄せ、命を託している国家や社会という物は、「砂上の楼閣」のような物で、日本列島が沈むほどの大地震でなくても、地球全体が歪められるほどの巨大隕石が衝突しなくても、私たちが拠り所としている場所は、少しでもバランスを崩せば倒壊してしまう「砂上の楼閣」であり、至る所に「蟻の一穴」が潜んでいる堤に過ぎないのも知れません。

米国の今回の事件に関しては、両陣営が、あまりにも下品すぎるような相手批判を控える方向に動きそうな気配がありますので、ぜひとも、民主主義政治の選挙のあり方を示してほしいものです。
そして、「砂上の楼閣」を心配する必要は、先日の都知事選挙一つ取って見ても、わが国こそ少なくないのだと思います。
おそらく、その様子が他国でも報道されて、それもお笑い番組のようなコーナーで紹介されたのでしょうね。わが国の選挙制度は、制度その物も、投票の管理についても、どこにも負けないすばらしいものだと思うのですが、残念ながら、一部の候補者の行動や言動は、世界でも例を見ないほど低俗な物であったように思うのです。
社会の制度や品格が砕かれるのは、他国からの侵略や大災害などにのみ起因するのではなく、「蟻の一穴」のような物により砕かれていくのではないでしょうか。
悲しいかな、わが日本列島には、数限りないほどの「蟻の一穴」が存在しているのでしょうが、一つ一つ、地道に埋め直していくことが必要なのでしょうねぇ。

( 2024 - 07 - 17 ) 


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