雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

よき家の中門あけて

2014-12-27 11:00:10 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第五十七段  よき家の中門あけて

よき家の、中門あけて、檳榔毛の車の白く清げなるに、蘇芳の下簾、にほひいときよらにて、榻にうちかけたるこそ、めでたけれ。
五位・六位などの、下襲の裾はさみて、笏のいと白きに、扇うち置きなどいきちがひ、また、装束し、壺胡籙負ひたる随身の、出で入りしたる、いとつきづきし。

厨女のきよげなるが、さし出でて、
「なにがし殿の人やさぶらふ」
などいふも、をかし。


立派なお屋敷の中門が開けてあって、檳榔毛(ビロウゲ・高級車に使われる)の車の真新しくてきれいなものに、蘇芳色(スオウイロ・暗紅色)の下簾が、あざやかな色合いも美しく、轅(ナガエ・牛と牛車をつなぐ長い柄)を榻(シジ・牛車の轅を置く台)に置いてあるのは、すばらしい光景です。
五位・六位の者などが、下襲の裾を石帯(セキタイ・革に黒漆を塗った帯)に挟んで、笏(サク・シャクともいい、正装の時などに手にする薄い板)の新しくてとても白いものに、扇を添えて持ったりして、あちらこちらと行き来しており、一方では、正装をして、壺胡籙(ツボヤナグイ・矢を入れて背に負う容器)を背負っている随身が出たり入ったりしているのは、いかにもこの場に似つかわしい様子です。

台所で働いている小ざっぱりとした女性が、家から出てきて、
「何々様のお供の人はお控えですか」
などと言っているのも、趣のある情景です。



おそらく大臣以上の上級貴族が参内に出立しようとしている光景ではないでしょうか。
少納言さまも、宮仕えされている間は、このような上流社会との交流も珍しくなかったのでしょうが、一般庶民から見れば、「よき家の中門」の向こうは雲の上のような所だったのでしょうね。

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