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『怪物』

2023年06月10日 | 映画(か行)
『怪物』
監督:是枝裕和
出演:安藤サクラ,永山瑛太,黒川想矢,柊木陽太,高畑充希,角田晃広,中村獅童,田中裕子他
 
109シネマズ箕面にて。
 
是枝裕和監督の作品は別に嫌いじゃないけれど、凄く好きなわけでもありません。
いや、むしろ鼻につくと思ってしまう場合のほうが多いかも(笑)。
だから、「どうせ私は好きじゃないし~」と思いながら観はじめたら、ええやんか。
今までの是枝作品の中でいちばん好き。『万引き家族』(2018)よりも私はずっと好きです。
是枝監督とタッグを組むには少し大衆的な気がして意外だった坂元裕二の脚本のおかげで、
私にとっての「鼻につく感」が中和されたのかもしれません。
 
夫を亡くしてシングルマザーとなった麦野早織(安藤サクラ)。
幸いにもひとり息子の湊(黒川想矢)は明るく優しい子に育ち、早織との関係も良好だったが、
このところ何か隠し事があるのか、不可解な言動が見受けられる。
 
誰かにいじめられているのではと考えた早織が湊を問い詰めると、
湊はなんと担任教師の保利道敏(永山瑛太)がら暴力暴言を受けていると答える。
早織は小学校に乗り込み、校長(田中裕子)をはじめとする教師たちに説明を求めるが、
当の保利は誤解だと言って信じがたい態度を取り、他の教師もただ詫びるのみで……。
 
ここから先はネタバレの嵐なので、ご覧になる予定の方は読むのをお控えください。
観る予定だけどネタバレOKだよという方はそのままお進みください(笑)。
 
テレビでも予告編が流れているかと思います。
予告編を観た人は、なんて酷い教師なんだ、お母さん頑張れ!と思いませんでしたか。
公開前に劇場で予告編を観た私もそう思っていましたし、
大きく分けて3章で構成されていると言ってよい本編の第1章を観たときもその思いは変わりませんでした。
 
第1章(というふうに分けられているわけではありませんが)は早織の話。
とにかく我が子を守りたくて、担任教師の保利を責め立てる。
保利を前面に出さずに事をおさめようとする学校にも不信感あらわ。
トップに立つ校長は孫を事故で亡くしたばかりらしく、教師たちは校長のことも気遣っていて、
我が子の話を早く終わらせようとしているかのようで早織は許せません。
こんな扱いを受けたら、親は誰でも怒るし、別にモンペなんかじゃないと思えます。
 
ところが第2章で保利の暮らしの一部始終を見せられるとイメージがまったく変わる。
暴力教師なんかじゃないし、児童のことを思う良い先生。
なのにまるでハメられてしまったかのように次々と災難が襲いかかる。
良い先生だったがゆえにこんな目に遭ってしまったとも言えます。
 
第3章は子どもたち、湊といじめられっ子の星川依里(柊木陽太)の日々。
保利は湊こそが依里をいじめている張本人だと思っていたけれど、そうではなかった。
湊が保利から言われたと話していた暴言は、依里が父親(中村獅童)から言われていたことでした。
作文に隠されたふたりの想い。
 
本作もそうで、あのとき見たもの、聞こえたものはこれだったのかと、物語が進むごとに明らかになります。
伏線がどんどん回収されていくのがお見事。
 
こんな作品を見ると、人を見た目で判断したり、噂を鵜呑みにしたりすることは駄目だと強く感じます。
雑居ビルで火事のあった晩にたまたま付近を恋人(高畑充希)と歩いていた保利が
ガールズバーにいたと噂されていたり、猫の死体を土に埋めてやった湊が猫を殺したと噂されたり。
自分で直接見たもの聞いたことからしっかり判断しなきゃいけないのだと思う。
一方で、いくら自分で見たり聞いたりしたことでも、想像力を膨らませすぎるのも問題。
悪い想像ばかりしてしまうのは、相手の良いところを見ようとしていないからなのでしょうか。
 
早織は亡くなった夫を美化していて、湊も父親を尊敬しているふうを装っているけれど、
実は父親が浮気相手とドライブ中に交通事故に遭って死んだことを湊は知っています。
依里にしても、父親に酷いことを言われているのに、父親に刃向かうようなことはしない。
大人に気を遣いながら生きている子どもたちをどうすれば救えるのか。
 
これほど良い教師の保利が最初に早織の前で取る態度は腑に落ちませんが、
その点を除けばとても好きな作品でした。好きだけど重たい。救いはない。
 
誰にも手に入らないものを幸せとは言わない。幸せは誰でも手に入れられるもののはずなのに。

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