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アロマな日々

一条の光に誘われて歩くうちに、この世とあの世を繋ぐ魔法の世界に紛れ込んでいました。夢のワンダーランド体験を綴ります。

県庁の星

2006年03月04日 | 映画
仕事と生活とのバランスを天秤に乗せた時の最近の私の気分は…仕事に自分の心情や生活を捧げるようなことは到底出来ないし、したくもない。すなわち、仕事にどっぷり浸かったりのめり込んだりは物理的にも精神的にもしたくはないし出来ない。仕事に従属したくはない…というものです。ひと頃の私は、仕事と生活を切り離して考えることなど無理な相談というほど、仕事をすることは即自分の人生を生き切ることでもあるという感覚で生活していました。天職とまではさすがに考えてはいませんでしたが、丁寧にその時々の自分の気持ちに忠実に仕事に向かうことが即自分の人生を誠実に真摯に生きることでもあったわけです。いつからこんな風に、私の仕事観が変化してしまったのかと言えば、やはり職場異動によって、仕事の中身がすっかり様変わりしてしまってからなのです。この変化が、私に仕事が自分にとってどういうものであったかを改めて考え直すきっかけを、くしくも与えてくれることになったのです。人には誰にでも得て不得手がありますので、どんな仕事に直面しても、目の前の職務を磐石にこなしていくことなど、なかなか出来るものではありません。それが出来れば優秀な職業人として評価されるのでしょうが、人は、スーパーマンではないのですから、すべてのことに精通していなくても別に構わないし、恥ずかしいことでもないと、最近の私は思うようになってしまいました。けれどそうは言っても、一日24時間のうち1/3は仕事をすることで費やしている以上、そこで自分のセンスを生かせるのでなければ、残り1/3の純粋な自分の時間もグレードアップのしようもありません。(最後の1/3は何物にも変えがたい睡眠時間です。) 「県庁の星」は、そんなごちゃごちゃな私の気分を整理するのには最適の映画でした。織田裕二演じる通称‘県庁さん’に象徴される行政と柴咲コウ演じるスーパーのパート職員に代表される民間との対比。それぞれの長所と短所。それぞれの悲哀ややりきれなさが圧倒的な説得力で描き出されていました。(少なくとも、私にとってはそうでした。)‘県庁さん’はスーパーに赴任した当初は、マニュアルがなければ動けないという融通のなさを露呈させます。県庁では生え抜きの若手係長も、スーパーという現場では、‘使えない’し‘固くて’実力を発揮できないのです。描かれ方が極端ではありますが、いかにもという感じがして思わず苦笑してしまいました。が、逆に、スーパーの曖昧な混沌さが含む問題点を文書にして整理し尽し、整然と改革に乗り出していく様もまた、これぞ組織で培われた行政マンならではの手腕と、胸のすく感動を覚えることが出来るのです。古くなった素材に少し手を加えてコストを下げ、もう一度売り物にするという、好ましいやり方ではないけれど、顧客には人気のある安いお弁当作りと、県庁さん提案の、良質な素材を使って、味も吟味した特選弁当との両者のお弁当の売り上げが実際にはどのような伸びを示すかを試してみるやり方を許す副店長(?)の懐の深さには感心しました。そして、その売上高をグラフにして毎月の推移を示していくのです。この結果を見れば、徒な観念論に走ることもないですし、‘今何が必要か!’という現実を誰もがまざまざと感じ取ることも出来ます。組織で緻密に働いてきた人間と民間で叩き上げで頑張ってきた人間とがタッグを組んだ時、本当に目を見張るような成果が結実するのです。それでも‘県庁さん’は出世コースからは外されてしまうという悲哀を背負う結末になります。それほどまでに、個人の適正な努力や頑張りというものも体制側からすれば、些細な一つの動きにしか過ぎないということを画面からまざまざと見せ付けられます。もうすでに計画案が完成してしまっている新プロジェクトのプレゼンの席で、コスト削減案を提出しても、幹部からは「前向きに善処する。」という言葉を貰っただけで、実質的には、見事に相手にされず、改善案はゴミ箱に丸められてしまうという情けない結果に終わってしまいます。(もし、こんなことが本当にあるとしたら、それは行政の怠慢というような問題では済まされな悪質な犯罪行為【予算を過剰に計上するという意味で】だと思うのですが…)けれど、結果がどうであれ、プロセスを見た時、それぞれのサイドの力(潜在能力が隈なく発揮される)を確認することが出来るので、成功物語や英雄物語ではないだけに、小品ながら、なかなか見応えのある映画になっているのです。ただ、織田裕二にはもっとのびのびと楽しそうにハチャメチャに演じて貰いたかったという、ちょっと残念な気持ちが残りました。‘県庁さん’らしく少しお行儀が良すぎたのではないでしょうか?
県庁の星