養老さん 2005年12月04日 | 日々の泡 養老孟司さんの「バカの壁」が新書の最多部数を記録して400万部を突破したそうです。この本は確か、平成15年に刊行されたと思いますが、ベストセラーになった当時のインタビューで、養老さんが次のように応えていたことが印象に残っています。「母から、お前の良さは年をとってからでないと発揮されないから、長生きをしないと損だよ!と言われたものだが、本当にその通りだった。長生きして本当に良かった!」というような内容でした。表現の細かい部分については多少のニュアンスの違いはあるかもしれませんが、要は、長生きをしたおかげで今になってこんなにいい思いを味わうことができている。長生きはするものだ…ということを強調されていたことが、私にとっては意外な感想に思えたので記憶に残っていたのだと思います。西洋では、ユングなども人生の午後(後半)を豊かな時間と捉えていますし、江戸時代の言葉には大老とか家老とか老中とかのような老のつく言葉が多々残されているように、江戸時代の人々は年を取ることを、現代人ほど忌み嫌いはしていなかったようです。貝原益軒の【養生訓】でも、真の楽しみは人生の後半にあると説いています。くしくも養老さんの苗字にも老という字が含まれています。楽しみというものは年代で既定してしまうものではないでしょうから、若いときよりも老いてからのほうが真の楽しみを味わえる…と一概に言い切ってしまえるものでもないとは思いますが、若い時だけのものだと言い切ることもまた偏った見方になるでしょう。その時々の、その時分に応じた幸せや楽しみの味わい方があるのだろうと、私には思えます。でももし、年を重ねるごとに、年を重ねることでしか体験できない豊かな楽しみというものがあるのだとしたら、それを感じ取れる人間になっていきたいとは切に願うところです。