敬愛する人が亡くなった。
親よりも大切な人が,もういない。
かつての最高の上司だったその方は,本にすがって生きていた私に「本よりも,面白い人がいた」と思わせてくれた初めての人だった。
本来なら30m以内には近づけないような雲の上のような人なのに,初めて私の存在を認めて,貴重な話を惜しみなく聞かせてくださった方だった。
この方にもう一度会うために,春からずっと力を振り絞って,一生懸命がんばってきてたのに…。
「夏には会いに行きますから,待っててください。」と伝えられないまま,旅立たれてしまった。
亡くなられた事がわかった直後から涙が溢れてきて止まらず,休憩時間中,泣き続けた後,無理やり涙を閉じ込めて仕事に戻った。
その人に恥じないように仕事はキッチリしないといけないと思ったから。
上の空になりそうな自分を必死で押し留めて,何事もなかったかのように仕事を終わらせた帰り道,師匠の所に駆け込み,大声で泣いた。
泣いて,泣いて。1人きりの時でも声を押し殺して泣く事しか出来なかった私が,声を上げ泣きわめいていた。
大切な人が亡くなることが,こんなにも悲しいなんて…
生きていてくださる。それだけで,よかったのに…。
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師匠は言ってくれた。
「よかったね。そんなに大切な人が,ちゃんといたんだね。」と。
「だから自分の大事な人は,大切にするの。次はもう会う事が出来ないかもしれないから。」
「最後に話すことが出来てよかったね。ご自分の病状を知っておられたと思うよ。だから,体調が悪いのに,電話してきてくれたんだと思う。あなたが連絡をしてきてくれて,嬉しかったから。」
「泣くだけ泣いたらいい,それは大切な涙だから。」
「死んだ人から学びなさい。その人はあなたの中で生き続けている。遺してもらったものが沢山あるでしょう。そんなに深く心を交わした相手との思い出を無駄にしてはいけない。」
最後に話をしたのは,この春だった。
どういう状況なのかもわからず,心ばかりの品物を送った時。品物が届くはずだった時刻きっかりに,電話は鳴った。
伝言が入っていた。あんなに留守電を入れるのを嫌っていた人だったのに…,その伝言の第一声を聞いて胸が詰まった。
いつもチャキチャキ喋る人だったのに,弱々しい声,ろれつが回ってない…!うろたえて,どうしたらいいのかわからず,電話が出来なかった私。
迷い迷って,夜になり,21時にもう一度電話がかかってきた時の,あの喜び!!
あの時かけて貰った言葉が遺言になった。
あの時かわした会話が,最後の宝物になった。
何を見ても,その方の思い出が,あっちこっちに残っている。
肉親にも貰えなかった「一番大切なもの」を沢山与えてくれた人が,遺してくれた,黄金の記憶。心と心が触れ合った,「本物のあたたかい思い出」を,いっぱい…いっぱいくださっていた…。
いつも人の気持ちを思いやって,和を大切にする,徳の高い人だったから,今のままの私では向こうに行っても会う事は出来ないだろう。
もう一度お会いできるように,少しでも近づけるように,これからは生きていきます