「ふるほんや」それとも「ふるぼんや」!?
「古本屋」は、誰もが「ふるほんや」と読むものと思っていたら、そうではない。
ボランティアで朗読の吹き込みをしている方から、問い合わせがあった。
「ふるほんや」でしょうか!、「ふるぼんや」でしょうか!?
◇
私自身は、ふるぼんや、と発音したことはない。しかし、どちらが正しいのでしょうか、
と問われて、はた、と口ごもってしまったのである。今まで考えてみたこともなかったが、
考えてみる必要がありそうだ。
◇
何しろ質問者が、こう言うのである。新本、あるいは新本店、新本屋は、「しんぽん」、
「しんぽんてん」または「しんぽんや」と言いますよね、「しんほん」と言うときもあるで
しょうが、「新本屋」「新本店」は、半濁音が普通じゃないでしょうか。
◇
新本店が半濁音なのは、本店支店のそれと紛らわしいからだろう。
と私は推測を述べた。
質問者が、今はやりの「新古本屋」がありますよね、あれはどうでしょう?と聞く。
◇
私が黙っていると、「しんぶるぼんや」と言う知人がいます。「中古」を「ちゅうぶる」
と読むのに引っかけているようです。
その人はそれが正しい読み方と信じていますと、と語った。
テレビやラジオでは、どのように読んでいますか?、と聞いた。新古本屋と言わず、
「新古書店(しんこしょてん)」と言っている、との返事だった。
「ふるほんや」か、「ふるぼんや」か。別に大した問題ではないが、私(出久根達郎)は
その古本屋だから気になるのである。
昔は、どう発音していたのか。
明治七年創刊の、読売新聞に当たってみた。なぜ読売新聞を開いたか、というと、
この おんなこども わ かい
此の新ぶん紙は女童をしへにとて為になる事柄を誰にでも分かるやうに書て」あり、
はなし したた
「文を談話のやうに認めて」あるからだ。漢語には、すべて、日常語の仮名が振ってある。
◇
たとえば、こんな具合である。ルビは、現代仮名に直した。
おまわり へいたいさん とりて おしこみ おおきず おやくにん おかみ おさばき ごほうび てんとうさま ほうきぼし おふれ ねんぐ
巡査。兵隊。警察吏。強盗。深疵。官員。政府。裁判。賞典。太陽。彗星。布告。租税。
皆、江戸時代の言葉である。
男女同権は、「なんにょどうけん」と読みが付いている。明治八年七月五日の記事。
「近頃しきりにこの語が、人の口にのぼるとある。」
なんにょどうけん、と言っていたのだろう。
◆日本の古書店
http://www.kosho.or.jp/servlet/top
◆東京古書組合
http://www.kosho.ne.jp/
《引用・参考・出典》
出久根 達郎 「セピア色の言葉辞典」 より
文藝春秋 文春文庫 税込価格¥660