へんくつゃ半睡の「とほほ」な生活!

 奇人・変人・居眠り迷人。医療関連を引退⇒
某所で隠遁準備中。性質が頑な、素直ではなく、
偏屈でひねくれています。

【読】杉浦日向子 隠居の日向ぼっこ@江戸を歩く

2008年10月20日 | 江戸を歩く

杉浦日向子 隠居の日向ぼっこ

新潮社 ¥380-(税別¥362-)

 

一話一編が8円弱!・・・心に響くぉのご紹介。

 

いくつ知っていますか!? 覚えておりますか!?

 

春 踏み台、浮世絵、すごろく、頭巾、鍵、手拭、
   はこぜん、きせる、屏風、畳、桶、矢立て、根付け。

 

夏 ふさようじ、ひごのかみ、はいちょう、へちま、軽石、
   耳掻き、かやり、蚊帳、釣忍、団扇、褌、杓子、お歯黒。

 

秋 黒髪、櫛、雑巾、湯屋、かわや、おやつ、
   熊手、丼、まめ、ねんねこ、おひつ。

 

冬 座布団、貧乏徳利、明かり、時の鐘、ちろり、赤チン、
   ゆたんぽ、火箸、炬燵、箱枕、はたき、もち・・・。

 

江戸から昭和の暮らしを彩った道具たち。
いまも伝わる暮らしの小物や、懐かしい想い出のまつわる、

いまはなき品々。

四季折々の風物である「もの」たちを、愛情こめて綴る。
人肌ぬくもりを感じさせる味わい深い文章です。

 

ちうくらいのほどよいしあわせ
 手にするなり、こんな本が読みたかったとつぶやき、

読み終えて本を閉じるなり、こんな本が読みたかったとため息が出た。

 いまどき「こんな本」は滅多にあるものではなく、
ねぇ、こんな本こんな本って、それ、どんな本なの?」と
せっつかれても、そう易々とは答えられない。いや、答えたくない。


読んでみりゃあ、わかるってもんよ」と読んだ後では言葉尻も変わってしまい、
まぁ、とりあえず目次だけでも眺めてごらんなさいな、と簡潔な目次を開いて、
いまいちど惚れ惚れとなる。目次だけでニヤついてくる。
 いいねぇ。いい言葉ばっかり並んでるねぇ。それだけで、もういいや、おしまい。
 
 --と、これでは何の解説にもならないので、野暮を承知で「どんな本」なのかと
お答えすれば、これぞこの著書の真骨頂、江戸の風物--それも特に「」に
こだわり、絵入りの随筆集ということになるだろうか。形式としては事典風であるが、
思いつくまま綴られた抜粋とでもいうか、いや、抜粋というより精枠というべきか。
とにかく、すこぶる粋な本であることに変わりはない。

 

簡潔な目次」に並ぶ項目は簡潔なだけでなく、どこかやわらかさとあたたかさを
纏っている。そこには懐かしさもあるだろう。この目次に並んだ言葉をひとつひとつ
目で追いながら、「知っている」を連発するか、それとも「知らない」を連発するかで
世代の新旧に敷居ができる。
ただし、「知っている」の中には、使っていた、見たことある、何かで読んだ・・・と、
微妙な温度差もあるはず。
 知っているつもりでも、実際に読んでみると「ああ、そういうことだったのか!」と、
自分の知ったかぶりを思い知らされる項目もある。いや、ほとんどその連続である。

 そういう意味で、この本は「知っている」を連発する知ったかぶりのための上質な
アンチョコ」にもなっている。

 

 

 ざっと見渡して、まずは「ちろり」の三文字に引っ掛かった。
ちろり」とは何ぞやと、ひもといてみれば『ほんのちょこっと』したことを指す」と
あり、転じて酒の燗をする道具の名であると説いてある。
いまの徳利と違って、銅や錫でつくられた金物の類である。
すぐさまちろりと温まるから」・・・なるほど。

 

 この一節と響き合う一行--いや、正確には二行--が「」の項の冒頭にある。
「たたみ鰯が好物で、さっと炙ったのをかじりながら、ありふれた本醸造の熱燗を、
大ぶりのぐい呑みでやっていると、ちうくらいのほどよいしあわせを感じる」


 この「うくらいのほどよいしあわせ」が「ちろり」で燗された酒の味となり、
呑むほどに、読むほどにじんわりと染みてくる。この本は、すべての項目に、この
ちうくらいのほどよいしあわせ」が染み込んでいる。ついでに、「しあわせ」と
いう甘い平仮名にケチをつけるようなヒネクレ者に向けて、著者はちろりと戒める
ような言葉をさりげなく配している。
たとえば、この「」の項の中でも「郷愁ではなく嗜好だと思う」という言葉が
鋭くきらりと光る。

 

杉浦 日向子(すぎうら ひなこ)1958年11月30日 - 2005年7月22日46歳で夭折
日本の漫画家、江戸風俗研究家。稲垣史生に時代考証を学ぶ。
NHK総合テレビ「コメディーお江戸でござる」では江戸の歴史、風習についての
解説コーナーを担当していた。
浮世絵を下地にした独特な画風に特徴があり、江戸の風俗を生き生きと
描くことに定評があった。
1993年に漫画家引退宣言をし、「隠居生活」をすると発表するも、
実際は当時「血液の免疫系の難病」を患っており、骨髄移植以外に
完治する方法はなく、体力的に無理が利かないのでマンガ家を引退する
ことを余儀なくされていたことが、死後明らかにされた。
その後は自らの生き甲斐である江戸風俗や浮世絵の研究家
として活動した。 

解説:吉田篤弘(作家)

杉浦日向子 隠居の日向ぼっこ 新潮社 ¥380-(税別¥362-)

 

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