さて『1、仮想粒子が対生成する場所をほとんどホライズン上とし、そこで仮想粒子が対生成する層の厚さを1としている。
しかし実際はホライズンから離れた場所では重力の強さが落ちる為に発生する仮想粒子がもつエネルギーは低下する。
しかしながら上記の寿命式ではその低下分が考慮されていない。』について話します。
と言いながら実はすでにその事については以下の記事で話し終わっています。
・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと・14・ホーキング放射のシミュレーション(2)
そこでの結論として従来方法ではEs=σ・Ts^4*4・Pi・Rs^2が単位時間当たりBHが放出する全放出エネルギーである、とされていました。
それに対して提案方法では補正係数0.10179を掛けたE=0.10179*Esが妥当であろう、という事になります。
こうして、BHの寿命は従来の約10倍にのびる事になった、とそういうお話になります。
そうしてこの話の要点は、といいますれば
『質量MのBHが単位時間に放射するエネルギーEsは従来はこのように書かれていました。
Es=σ・T^4*4・Pi・Rs^2
Rsは当該BHのホライズン半径、σがシュテファン=ボルツマン定数でありTは通常は熱力学温度ですが、ここにホーキング温度を代入します。
そして、σ・T^4の部分がStefan-Boltzmann の法則でありそれに放射体の表面積をかける事で全放出エネルギーEが求まる、そのように想定しています。
それに対して、ホライズン上空に多層に重なる仮想粒子放出層を想定するのが今回のやり方になります。
一番下の層は従来通りの記述になります。
そこから微小距離Δrだけ上に上がった放出層を考えます。
この層は上に上がった分だけ重力が弱まり、従ってその分ホーキング温度Tが下がる事になる、と言うのは前回の説明でした。
そうやってこうした放出層を何段にも積み重ねる事で、たとえばホライズン半径の2倍の地点にまで到達する事が可能です。』
という考え方にあります。
これは従来の放射エネルギーの考え方が「ホーキング放射はBHという黒体球体の表面(=ホライズン面)からの熱放射である」であるのに対して、提案している計算方法では「ホライズン面から上方に多層に重なっている球状のシェルを想定し、そのシェルごとに仮想粒子の発生を考える」というものになっています。(注1)
そうしてホライズンから遠ざかればそれだけ重力は弱くなりますからホーキング温度Tが下がり、結果的にその場所で発生する仮想粒子ペアのエネルギーも下がります。
それから、ホライズンから離れた事によって発生した仮想粒子が全てBHに吸収される、ということではなくなり、BHに到達できる仮想粒子の割合が減少します。
それらの事を考慮しつつホライズン上方に向かって重なっているシェルを足しこむ、実際は積分するのですがそれをホライズンからホライズン半径の3倍の所まで行った結果が修正係数として得られる、という話です。(注2)
そうやって得られた修正係数は0.10179と言う値になり、したがって従来想定よりもBHが単位時間に放射するエネルギーEsは10分の1に減少することになるのです。
それはつまり「従来計算のBHの寿命は以上の要因の修正を受け約10倍にのびる」という結論になります。
注1:従来方式の放射の考え方を「表面発光放射」ととらえるならば、ここで提案しているホーキング放射の在り方は「空間発光放射」という事になります。
そうしてこのような発光様式は例えばレーザーであるとかネオンサインであるとか、そういうタイプの発光様式に近いといえます。
しかしながらホーキング放射の場合は空間発光とはいえネオンサインの発光の様な等方的な発光ではなく「放射パターンは今までにない様な特徴的な指向性を示す事になる」と予測されます。
ちなみに「ホーキング放射が黒体表面からの放射ではなく、ホライズン上空の空間からの放射である」とする考え方は、たとえばSteven B. Giddingsさんも提唱しているものです。
・ホーキング放射とブラックホール・50・ホーキング放射、シュテファン・ボルツマンの法則、および統一
注2:ただし上記Giddingsさんの論文によれば「積分範囲はホライズンからホライズン上方にシュワルツシルト半径の約2.6倍の位置まででよい」としています。
そうしてその場合の修正係数は0.101733になります。
さて積分範囲を1から2.6とするか3とするかは趣味の問題でしょう。
いずれにせよ3ケタでの修正係数は0.102となります。
追伸:太陽が黒体として扱える理由
宇宙空間に存在する球体の黒体といえば太陽です。以下チャットGPT の説明から引用
『黒体とは、全ての波長の光を吸収する完全なる放射体のことで、ある温度において放射される光のスペクトル分布は、プランクの放射則によって与えられます。太陽の表面温度は約5,500℃であり、この温度において放射される光のスペクトル分布は、プランクの放射則によって与えられる黒体放射スペクトル分布に非常に近いため、太陽は黒体と見なせます。
太陽が放射するエネルギーの総量は、ステファン・ボルツマン定数、太陽の半径、太陽の表面温度によって与えられる計算式で求めることができます。具体的には、以下の式を用います。
太陽が放射するエネルギーの総量 = 4πR^2σT^4
ここで、
・Rは太陽の半径(約6.96×10^8 m)
・Tは太陽の表面温度(約5,500℃ ≈ 5,773 K)
・σはステファン・ボルツマン定数(5.670374419 × 10^-8 W/(m^2K^4))です。』
さてこうして通説では太陽の放射エネルギーの計算と同様にBHのホーキング放射エネルギーを計算している、という事が分かるのです。
しかしながら太陽はその中心まで中身が詰まった、その中身は基本的には表面よりも高温であって、表面から熱放射が出ても表面の温度はさがらない、表面から出る放射エネルギーに対して表面に内部から供給されるエネルギーのバランスが取れている状態にあります。(表面温度は飽和状態にある、と言えます)
他方でBHといえば「中身はからっぽ」で別にBHの中からエネルギーがBH表面に供給されている訳ではありません。
ホーキング放射のエネルギー源は仮想粒子がその場所の重力の強さに応じてその場所で計算されるホーキング温度に従って発生しているだけですから、その場所のホーキング温度がエネルギー源です。(とはいえ、もともとのエネルギー源はBHの質量そのものとなります。)
そうであれば「仮想粒子が対生成で発生している、その場所のホーキング温度とその温度に対応した仮想粒子が発生している空間の厚み=層の厚み」が放射エネルギー計算のポイントになります。
そう言う訳でBHのホーキング放射によるエネルギー放射総量を求めるには「太陽に適用したやり方」ではなく「内部がからっぽのBHに対応した、BH専用のやり方が必要になる」のでした。