2、仮想粒子の実粒子化
次に通説によるイラストでは「2つの対生成した仮想粒子はカーブを描く軌道を取り、そうして再び出会う事で対消滅を起こし消えてしまう」とされています。
そうして対消滅の際にはプラスのエネルギーを持った仮想粒子とマイナスのエネルギーを持った仮想粒子の衝突によってエネルギーがゼロになって後には何も残らない、とされます。
さてこの仮想粒子の対消滅の仕方は実粒子の対消滅の仕方とは随分と違っています。
実粒子の対消滅では粒子と反粒子の衝突によって2つの光子(=ガンマ線)が生成される、となっています。
これはつまり「粒子も反粒子もプラスのエネルギーを持っていて、そのエネルギーは対消滅でも保存されるから」であります。(もちろんこの場合、運動量も保存されます。)
さて話を通説が主張している「カーブする軌道を取る2つの仮想粒子」に戻します。
この場合、対生成した2つの仮想粒子の内の一つが運よく(?)BHに飛び込まない場合は、この2つの仮想粒子は再び出会う事ができて対消滅する、というのが通説のシナリオです。
そうして、それに反して運悪く(?)BHに片方が飛び込んでしまうともう一方の仮想粒子は対消滅する事ができずに、そのままBHから離れていく、とされています。
さて問題は「この時一体いつ、このBHから離れていく仮想粒子は実粒子化したのか?」という所にあります。
そうしてまた「仮想粒子が実粒子化するプロセスはどうなっているのか?」というのも問題です。
というのも、「仮想粒子のままではホーキング放射としての観測にかからないから」=「ホーキング放射として認識されないから」ですね。
そうしますとこの「離れていく仮想粒子はもう片方がBHに入り込んだ時点で実粒子化する事が必要となる」のです。
そうしてまた同様にBHに入り込んだ仮想粒子もBH内でマイナスのエネルギーを持った実粒子とならないといけない、そうしないとBHのエネルギーがその分だけ減少する事ができないからです。
「ああそれならば対生成した時点で2つの仮想粒子ではなくてプラスとマイナスのエネルギーを持った実粒子とすればよい」という意見が出てきそうです。
しかしながら残念な事に「マイナスのエネルギーを持った実粒子は存在しない」のです。(注1)
したがってどうしても対生成では仮想粒子がうまれる、としなくてはなりません。
そのうえでこの仮想粒子が実粒子化する、というプロセスがあってはじめて「ホーキング放射の使い物になる物理モデルとなる」訳です。
そうであればこの「仮想粒子の実粒子化というプロセス」については通説にある「仮想粒子はカーブする軌道をとって再会する」という物理モデルでも必要になるのです。
つまり通説にある「仮想粒子はカーブする軌道をとって再会する」という物理モデルはホーキング放射のプロセスを一見、うまく説明できている様にみえるのですが、実はその説明には穴がある、(=説明不十分な部分がある)という事になるのです。
それは「BHに片方が入り込めば残された方が自然に、自動的にホーキング放射になる」と主張している部分です。
しかしながらこの部分の表現には「仮想粒子が実粒子化する」という重要なプロセスが「見えなくされている、隠されている」と言えます。
それに対して当方が主張しているモデルでは「対生成の時に実粒子化に必要なエネルギーはすでに真空から与えられている」としています。(注2)
それならば何故その様な粒子を仮想粒子と呼ぶのか?
最初から実粒子とすれば良いのでは、と言われそうです。
しかしながら真空が実粒子化に必要なエネルギーは貸し出したのですが、そのエネルギーは所定の時間がたてば真空によって回収されてしまう、そうなるとその粒子は消えてしまう事になります。
従ってそれらの粒子は「仮想粒子と呼ばれる事になる」のです。(注3)
さてそうであれば当方のモデルにおいては「仮想粒子の実粒子化」というのは
・「真空が仮想粒子に貸し出したエネルギーを回収しないと決めた時点」
=「仮想粒子の片方がBH内に入り込んだ時点」
=「仮想粒子に貸し出した分のエネルギーを真空がBHから回収した時点」
となります。
さてこうして通説に於いても当方が主張するモデルに於いても「仮想粒子の実粒子化はBHに対生成した仮想粒子の片方が飛び込んだ時である」という事になるのでした。
しかしながらこの「仮想粒子の実粒子化のプロセス」というのは未だに「謎に満ちたプロセスである」と言えそうです。
注1:マイナスエネルギーを持った実粒子はBHの外側の宇宙では存在しません。
そうして「通説の考え方をとる」ならば「BHの内部空間ではマイナスのエネルギーを持った実粒子が安定して存在しうる」という事を認める必要があります。
注2:エネルギー収支の計算上はそのようにしてロジックを組み立てていますが、実はそのようなエネルギーの貸し出しも仮想的なものであり、実際のエネルギーのやり取りは仮想粒子の実粒子化の際に一挙に行われる、というシナリオも考えられます。
量子力学の観測問題に見られるように「最終的につじつまが合っていればOK」と言うのが量子力学計算の特徴のひとつです。
注3:真空から実粒子化に必要なエネルギーをすでに与えられている、と説明しましたが、そうなるとこの仮想粒子は実粒子と見分けがつかない=観測できてしまうのでは、という疑問がわきます。
確かに話の上ではその様にみえますが、実際はこの仮想粒子は観測にはかからない、観測できない、と言うのが事実です。(=実粒子化したあとは仮想粒子は自由粒子として観測にかかります。)
しかしながらそこにBHのホライズンがあるとその仮想粒子が観測にかかる様になる、それがホーキング放射である、という事になります。
当方が主張するホーキング放射のモデルとしては「そのようになっている」と説明する事になります。
仮想粒子の片方がホライズンを越えてBHの内部空間に入った。
その時点でその仮想粒子と、もう一方の仮想粒子が実粒子化します。
それはつまり「BHによって仮想粒子が観測された」という事なのです。
観測が行われるとエンタングルがそこで終わる、という事は「よく知られた事実」であります。
従って「今まではエンタングルしていたこの2つの仮想粒子のエンタングルが切れた」という事になります。
そうしてここの部分が「仮想粒子のBHによる観測問題」とでもいう様な「とても大事な状況」=「まだ十分に理解できていない状況が隠されている」という事になります。
追記:2023.4.2:エンタングルの切れるタイミング(仮想粒子が実粒子化するタイミング)
ホーキングの論文以降、そのタイミングは「ホライズンを仮想粒子の片方が超えた時である」とされています。
しかしながら実はBH内に飛び込んだ仮想粒子がBHの中心にある特異点に衝突したタイミングである可能性が残ります。
ホライズンそのものは「物理的な実体は考えにくい」と言うのが一般相対論からの観点です。
他方でBHの中心にある特異点は「明らかに物理的な実体がある」と言えます。
さてそのように考えても良い、とするならば「ホーキング放射と言う現象は相当にロバストなものである」という事になります。
但しその場合はホーキングが提示したような「BHは黒体放射をする」とか、エントロピー式の係数は4分の1とかいう「きれいな関係はなくなる」とは思いますが。
しかしながら当方のスタンスとすれば「それが無くなったからと言って、だからどうした」というものであります。