さてそれで、通常言われているブラックホールの寿命式に対して「いや、その式で示された寿命よりも実際のBHの寿命は延びる」と当方が主張している根拠を述べます。
それでBHの寿命と言うのはつまるところ「BHがホーキング放射でどれだけの率でエネルギーを放出するのか?」という事で決まってきます。
そうしてホーキングによって示された寿命式は以下の様になります。
ブラックホールが蒸発するまでの時間 t は
t = 5120*πG^2/(ℏC^4)* M0^3
となりt = 0 のときのブラックホールの質量M0の三乗に比例する.(ここではプランク定数 はℏ、光速は C,重力定数は G、)(注1)
しかしながら当方が見る所、この寿命式はホーキング放射でBHが放出する単位時間当たりのエネルギーを大きく見積もりすぎていると言えます。
それで「この寿命式が考慮していない」と当方が主張する要因(ファクター)は以下の4つです。
1、仮想粒子が対生成する場所をほとんどホライズン上とし、そこで仮想粒子が対生成する層の厚さを1としている。
しかし実際はホライズンから離れた場所では重力の強さが落ちる為に発生する仮想粒子がもつエネルギーは低下する。
しかしながら上記の寿命式ではその低下分が考慮されていない。
2、BHのホライズン上での重力の強さから計算される典型的なエネルギーをもつ仮想粒子(=光)の波長はホライズン直径の14倍になっている。
つまりホライズン上で発生した仮想光子は自分の波長よりも小さなBHに吸収されなくてはならない。
つまり「発生した仮想光子は100%、BHに吸収される事はない」=「ホーキング放射はその分、出力が低下する」のである。
そうしてその吸収確率はBHによるレイリー散乱の確率に似たものと推定できる。
3、通説の寿命式ではホライズン上のホーキング温度で仮想粒子の対生成がおきる、という前提で計算されている。
しかしながら実際は仮想粒子が対生成する、BHに一番近い場所はホライズンからプランク長だけ上空に離れた場所と想定するのが妥当である。
この差分はBHのホライズンがプランク長に比較して十分に大きい場合はほとんど無視できるが、BHのホライズン直径がプランクレベルまで減少すると無視できない効果をもつ。
それはつまり「ホライズンからプランク長だけ離れた場所の重力の強さはホライズン上の重力の強さよりも弱い」=「ホーキング温度がホライズン上よりも低い」=「発生する仮想粒子のエネルギーレベルが下がる」=「ホーキング放射エネルギーが下がる」=「BHの寿命が延びる」のである。
4、通説の寿命式は「BHは静止していて動かない」という前提で計算されている。
しかしながら実際はBHはホーキング放射を出す事で動き回るのである。
そうなると「動いているBHと発生した仮想粒子の衝突~吸収」というプロセスでBHが仮想粒子を取り込み、ホーキング放射をだすことになる。
その場合BHは運動量とエネルギーの保存則を満たしながらホーキング放射を出さなくてはならない。
そうして、通説の寿命式はその事を考慮していない。
それを考慮すると、プランクスケールまで縮小したBHが出せるホーキング放射のエネルギーに相対論による制限がかかることになる。
以上4つの項目がそれぞれ独立にBHのホーキング放射の単位時間あたりに出すエネルギーを制約する事になる。
つまりは「その分、上記寿命式よりもBHの寿命は延びる」という事になるのです。
さてこの4つの項目についてページを改めながら以下、個別に説明をする事と致します。
ちなみに1,2、の制約条件はBHがホーキング放射を出す時は常にその制約をうける、つまりはBHの大小にかかわらずBHのライフタイムのどこでもその制約下にあります。
他方で3,4、の制約条件はBHがプランクスケール近傍にまで縮小した時に効果を表す事になります。
これは逆に言いますと「プランクスケールまで小さくなるまでのBHには3,4、が与える事になる制約はほとんど無視できる」という事になりますので、そこまでのBHの挙動は制約条件1、2、を考慮すれば良い事になります。
そうであれば「プランクスケールまで小さくなるまでのBHの寿命については、通常の寿命式に制約条件1,2から導出される補正係数をかければ計算できる」と言う事になります。
注1:通説による寿命式の導出詳細については「Hawking 輻射とブラックホールの蒸発」山内さんを参照願います。