さて「BHが物質を飲み込んでBHのエネルギーがそのぶん増大した。つぎにBHがホーキング放射を出す事で最終的に消滅した。そのプロセスでエネルギー保存則が破れているのか?」ということについて「いままで検討してきたホーキング放射の物理モデルと相対論を考慮した場合はどのような答えになるのか」について話を進めましょう。
「その2・ ホーキング放射のメカニズム」で示した議論にそって話を進めます。
その場合に話の始まりはこうでした。
『真空が仮想粒子ペアを生み出す前の系の合計エネルギー
・真空 ・・・ゼロ
・BH ・・・Ebh(=BHが前から持っているエネルギー)
・仮想粒子ペア ・・・存在しない=ぜろ
以上合計=ゼロ+Ebh+ゼロ=Ebh』
『真空が仮想粒子ペアを生み出す前の系の合計運動量
・真空 ・・・ゼロ
・BH ・・・Pbh(=BHが前から持っている運動量)
・仮想粒子ペア ・・・存在しない=ゼロ
以上合計=ゼロ+Pbh+ゼロ=Pbh』
これ以降でホーキング放射が始まるのですが、BHがそのまえに例えば椅子を飲み込んだ、そうしてその事でBHのエネルギーと運動量が増えた、という状況が付け加わる事になります。
それで実際、BHに椅子を飲み込ませる際に、こう着円盤が出来ないように、BHの中心めがけて投げ入れます。
こう着円盤が出来るとそれによってBHに角運動量がもたらされ、話がとても複雑になりますので、それを避ける為に「BHの中心めがけて投げ入れる」のです。(注1)
さて質量m1の椅子がBHのホライズンをこえてBHの中心めがけて落ちていく時の運動量をP1とします。(=椅子がホライズンを超える時に、その時に持っていた運動量の値がP1です。)
ちなみにこの場合の座標系の取り方は当然「仮想粒子ペアが生じた点を原点とする慣性系を選ぶ」のです。
そうしますとBHのエネルギーと運動量は「投げ入れられた椅子の分」増加する事になります。
BHに追加される事になる相対論的エネルギー(=椅子がBHに持ち込む分)
=sqrt(P1^2*C^2+m1^2*C^4)
=E1
但しここでCは光速を表し、P1は運動量ベクトルP1の大きさ(=絶対値)を表します。(注2)
こうしてBHのエネルギーは
Ebh->Ebh+E1 ・・・①式
となります。
次にBHに追加される事になる運動量はP1でした。
従ってBHの運動量は
Pbh->Pbh+P1 ・・・②式
となります。
但しここでPbhとP1はそれぞれがベクトルですからPbh+P1はベクトル合成となり
Pbh+P1はその合成されたベクトルを示します。
さてこうして新たに椅子が投げ込まれたBHのエネルギーと運動量が計算できましたのでそれをあらためてEbhとPbhとします。
Ebh=①式
Pbh=②式
その様におきかえますと、それ以降の議論はまったく「その2・ ホーキング放射のメカニズム」で示した議論と同じに扱える事になります。
つまり「ホーキング放射を何回繰り返しても系のエネルギーと運動量は保存されている」という事になるのです。
その結果は「最終的にホーキング放射でBHが消滅しても、あるいはホーキング放射が途中でとまっても、いずれにしても系のエネルギーと運動量は保存されている」という事になります。
つまりは「情報パラドックスがいう様な情報の消失がBHで起きていても、エネルギー保存則は破れていない」というのが「いままで検討してきたホーキング放射の物理モデルと相対論を考慮した場合の答え」となります。
さてそうなりますと「情報パラドックスは大変だ」と言っている方々は「一体何を問題にして騒いでいるのかな?」という事になってしまうのです。
注1:こう着円盤について:ChatGPTとの会話
Q:こう着円盤 何?
ChatGPT『「こう着円盤」は、ブラックホールを研究する際の数学的モデルの1つで、ブラックホールに落下する物質の流れを理解するために用いられます。こう着円盤は、ブラックホールの周りを回転する円盤状の物質の流れを表し、その物質がブラックホールに落下する際にどのような現象が起こるかを分析することができます。
こう着円盤の研究は、ブラックホールの周りの重力場がどのように物質の流れを支配するかを理解する上で重要な役割を果たしています。』
Q:こう着円盤はブラックホールに角運動量をもたらす?
ChatGPT『こう着円盤はブラックホールに角運動量をもたらすことができます。こう着円盤は、円盤内部での角速度が外部よりも速いため、円盤の質量がブラックホールに吸収される際に角運動量をブラックホールに伝えます。
また、こう着円盤は強い重力場の中で回転するため、アインシュタインの一般相対性理論に基づいて角運動量がブラックホールにもたらされると考えられています。』
注2:相対論的エネルギー
ういき 静止エネルギー: https://archive.md/cVn2L :によれば
『特殊相対性理論によれば、運動する物体のエネルギーは次の式で表される。
E=sqrt(m^2*C^4+P^2*C^2)
ここで、E はエネルギー、m は質量、Pは運動量、C は光速である。』
追伸:BHの毛は3本
角運動量、電荷、質量がその三つで、それ以外の情報はBHは持たない、と言うのが「BHの毛は3本定理」です。
椅子をBHに投げ込んだ場合はBHの電荷の増加分はゼロで、質量は増加します。(=たいていの椅子は電気的には中性です。)
ただしこの時BH質量の増加分は椅子が持っている静止質量よりも大きくなります。
それは椅子がBHに入る時に持ってた運動エネルギーもBHの質量増加に寄与するからですね。
そうして角運動量の増加分は上述したように「椅子の投げ込み方」によってさまざまな値をとります。
それから実はBHに椅子を投げ入れるとBHの運動量は増加します。
しかしながら従来「BHの毛は3本」と言われていたので、この時に「BHの運動量が増加する」=「BHは運動量を持つ」という「当たり前のことが見逃されてきた」と言えそうです。