宇宙論、ブラックホール、ダークマター、ホーキング放射、相対論

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ホーキング放射とブラックホール・46-2・「ブラックホールの無毛定理」の観測的検証

2021-02-28 18:06:49 | 日記

「ブラックホールノーヘア定理」関連の話題をひとつ

「ブラックホールの無毛定理」の観測的検証に成功

『大阪教育大学・天文学研究室の松本桂准教授を含む、14 か国の研究者からなる国際研究グループは、地球から約35 億光年の距離に位置する活動銀河核「OJ 287」の継続的な観測から、この銀河の中心部に存在する約180 億太陽質量の超巨大ブラックホールにおいて、ブラックホールの無毛定理が成立していることを観測的に検証することに成功しました。(2020 年 4 月 30 日 記事)

・・・一般相対性理論の基礎方程式によって記述されるブラックホールであれば、その特徴は、質量、自転、電荷の 3 つのみで決まり、ブラックホールの個性はそれら以外では区別できないことが示されています。これは「ブラックホールの無毛定理」として知られています。逆に言えば、ブラックホールの候補とされる天体において、ブラックホールの無毛定理が成立していることが示されれば、一般相対性理論の正しさが検証されることになります。しかし、この定理を実際に検証するためには、極めて強大な重力場の存在が必要とされ、現実の宇宙に存在する天体で実証された例はこれまで存在しませんでした。・・・

研究成果の詳細については、別添資料をご覧ください。』という事で、以下の資料に続きます。↓

スピッツァー望遠鏡がブラックホールダンスの正確なタイミングを明らかにする

『2つの巨大なブラックホールの動きを決定することははるかに複雑です。科学者は、小さな物体に目立った影響を与えないかもしれない要因を説明しなければなりません。その中で最も重要なのは重力波と呼ばれるものです。アインシュタインの一般相対性理論は、重力を物体の質量による空間のゆがみとして説明しています。オブジェクトが空間を移動すると、歪みが波に変わります。アインシュタインは1916年に重力波の存在を予測しましたが、それらは2015年までレーザー干渉計重力波観測所(LIGO)によって直接観測されませんでした。

オブジェクトの質量が大きいほど、オブジェクトが生成する重力波は大きく、よりエネルギッシュになります。OJ 287システムでは、科学者は重力波が非常に大きいため、システムから十分なエネルギーを運び去って、小さなブラックホールの軌道を測定可能に変更できると予想しています。したがって、フレアのタイミングが変わります。

OJ 287の以前の研究では重力波が説明されていますが、2018年モデルはこれまでで最も詳細です。LIGOの重力波の検出から収集された情報を組み込むことにより、フレアが発生すると予想されるウィンドウをわずか1日半に洗練します。

フレアの予測をわずか4時間にさらに洗練するために、科学者たちはより大きなブラックホールの物理的特性について詳細に折り畳みました。具体的には、新しいモデルには、ブラックホールの「無毛」定理と呼ばれるものが組み込まれています。

スティーブンホーキングを含む物理学者のグループによって1960年代に発表されたこの定理は、ブラックホールの「表面」の性質について予測を行います。ブラックホールには真の表面がありませんが、科学者はブラックホールの周りに境界があり、それを超えると何も(光さえも)逃げることができないことを知っています。事象の地平線と呼ばれる外縁がでこぼこしたり不規則だったりする可能性があると考えるアイデアもありますが、「表面」にはそのような特徴はなく、髪もありません(定理の名前は冗談でした)。

言い換えれば、ブラックホールをその回転軸に沿って中央で切り落とすと、表面は対称になります。(地球の回転軸は、北極と南極とほぼ完全に一致しています。惑星をその軸に沿って半分にカットし、2つの半分を比較すると、海や山などの特徴によっていくつかが作成されますが、私たちの惑星はほぼ対称であることがわかります。半分の間の小さな変化。)

対称性を見つける

1970年代に、カリフォルニア工科大学のキップソーン名誉教授は、このシナリオ(巨大なブラックホールを周回する衛星)がブラックホールの表面が滑らかであるかでこぼこであるかを明らかにする可能性があることを説明しました。新しいモデルは、このような精度で小さなブラックホールの軌道を正しく予測することにより、ブラックホール脱毛定理をサポートします。つまり、これらの信じられないほど奇妙な宇宙物体の基本的な理解は正しいということです。言い換えれば、OJ 287システムは、ブラックホールの表面が回転軸に沿って対称であるという考えをサポートしています。

では、巨大なブラックホールの表面の滑らかさは、小さなブラックホールの軌道のタイミングにどのように影響しますか?その軌道は主に大きなブラックホールの質量によって決定されます。それがより大きくなるか、その重さのいくらかを落とすならば、それはより小さなブラックホールの軌道のサイズを変えるでしょう。しかし、質量分布も重要です。大きなブラックホールの片側にある大きな膨らみは、ブラックホールが対称である場合とは異なる方法でその周りの空間を歪めます。それは、それがその仲間を周回するときに小さいブラックホールの経路を変更し、その特定の軌道上のディスクとのブラックホールの衝突のタイミングを測定可能に変更します。

トゥルク大学の天体物理学者であるマウリ・ヴァルトネン氏は、「ブラックホール科学者にとって、ブラックホール脱毛定理を証明または反証することは重要です。それがなければ、ホーキングなどが想定したブラックホールが存在するとはまったく信じられません」と述べています。フィンランドと論文の共著者。』

↑ こうして巨視的なレベルでは「ブラックホールの無毛定理」の観測的検証はうまくできた模様です。

追伸:こういうページもあります。↓

Spitzer Telescope Reveals the Precise Timing of a Black Hole Dance "Spitzer望遠鏡はブラックホールダンスの正確なタイミングを明らかにする." 2020.4.28のJPLメルマガ

あるいはこういう話もあります。↓

No hair theorems for positive Λ  プラスの宇宙定数(を持つ宇宙に対する)「ブラックホールの無毛定理」:つまり「我々が暮らす宇宙での無毛定理の話」です。

『概要
すべての既知のブラックホール無毛定理を、正の宇宙定数Λが与えられた時空間に拡張します。(訳注:そうして、それはできました。)

無毛予想は、重力崩壊が静止した最終状態に達し、パラメータの数が少ないことを特徴としていると述べています。
ブラックホール無毛定理[1、2、3]と呼ばれる、厳密に証明されたこの部分は、質量、角運動量、および長距離ゲージ場に対応する電荷によって特徴付けられる静止ブラックホールの一意性を扱います。・・・』ー>その47で部分訳を載せます。

以上、ご参考までに。

・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク

https://archive.fo/LR2Zr

 


ホーキング放射とブラックホール・46-1・ホーキング温度はどの場所で定義されているのか?

2021-02-27 13:51:54 | 日記

状況をまとめておこう。ポイントは「ホーキング温度はどの場所で定義されているのか?」という事である。

そうして話の筋道は「ホーキング温度からBHのエントロピーが算出されている」という事になっているが、それは正しいのか?という所にある。

ホーキング温度はホーキング放射が起こっている場所の温度である。そうしてその場所はBHのホライズン上ではなく、いくらホライズンに近いとはいえBHの外側の領域なのである。

そうであればホーキング温度というのはBHの温度ではなくて、BHを取り巻いている真空の温度なのである。そうして又ホーキング放射もその場所からでてくるのであるから、この主張は妥当なものである。

もともとホーキング温度そのものがBHの存在によってその場所から飛び出してくる粒子のエネルギー分布を数えたところから始まっている。

そこから出てくる粒子のエネルギー分布が黒体輻射の放射エネルギー分布ー>プランク分布に等しい形をしている、というところから、ホーキング放射を記述している式の、プランク分布の式で温度に相当している部分を「ホーキング温度」としたのである。

ホーキング温度Th=T =κ/2π  :κはブラックホールの表面重力:πは円周率

κ=1/4M であるので,T =1/(8πM) となる.MはBHの質量

今まで1として扱ってきたプランク定数 (h~) と光速 c,重力定数 Gを復活させると
T =(h~)c^3/(8πkBMG)
となる.(kB はボルツマン定数):( (h~)はプランク定数hを2πで割ったもの)

詳細は http://astro-wakate.sakura.ne.jp/ss2013/web/syuroku/grcosmo_24a.pdf

しかし人々はThを「BHの温度だ」としてあたかもBHが温度を持つ黒体であるかのように理解した。

そうして黒体の熱力学からの類推でBHのエントロピーSを

 S{BH}=A*kB/(4*Lp^2) :Aは事象の地平線の表面積であり、kBボルツマン定数、Lpはプランク長である、とした。

その式はまるでBHのホライズンがエントロピーSを持つかのような格好をしている。

詳細は ブラックホールの熱力学 参照。

そうしてそこからこんな話も展開される事になった。

ブラックホール防火壁仮説I:プロローグ

ブラックホール防火壁仮説Ⅱ:量子情報理論的なブラックホールの年齢 (ペイジ時間の考え方)

あるいは 超弦理論はブラックホールの謎を解けるか?  と言うような『「エントロピー」は微視的状態の縮退度として導出できるはずである。最近、D-brane と呼ばれる非摂動的物体(ソリトン)を使うことにより、弦理論でこのエントロピーの微視的な解釈に成功した。エントロピーを数係数まで正しく微視的に導出できたのは、史上初めてである。』という話にもつながる。(注1)

より具体的な数式運用としては、たとえば 弦理論から見たホーキング 輻射 のようなものもある。

だがしかし現状は『1995年にアンドリュー・ストロミンジャー (Andrew Strominger) とカムラン・ヴァッファ (Cumrun Vafa) は、Dブレーンを基にした方法を使い、弦理論において超対称性を持つ臨界ブラックホールのベッケンシュタイン・ホーキング・エントロピーを計算した[8]ことによってこの状況は変化した。その後、他の臨界ブラックホールや近臨界ブラックホール(英語版) (near-extremal black hole) の多くのクラスに対して同様の計算が行われ、結果はいつもベッケンシュタイン=ホーキングの公式に一致した。しかし、臨界ブラックホールからは一番遠いと思われるシュバルツシルドブラックホール (Schwarzschild black hole) に対しては、そのマクロステートとミクロステートの関係について、弦理論の観点からの評価が期待されている。様々な研究が進行中であるが、解明はされていない。』のである。

これはつまり『いわゆる「ブラックホールノーヘア定理」[7] は、ブラックホールが唯一のマイクロステートしか持っていないことを示唆しているように思える。』ということであり「BHのエントロピーはゼロである」と主張する「ブラックホールノーヘア定理」と「BHがエントロピーを持つ」という主張は真っ向からぶつかっているのである。

以上の引用部分の詳細は ブラックホールの熱力学 を参照。

さてそれで議論は最初に戻るのであるが、BHを黒体とみなし、その表面であるホライズンの温度をTh(ホーキング温度)とし、従ってホライズンからホーキング放射:BHによって生成された素粒子が黒体輻射のエネルギー分布をもって飛び出してくる、という理解の仕方が正当なものであるという立場から出てくるものである。

しかしながら実状は「ホーキング放射はホライズンの少し上の、BHには属していない、通常の真空から放射される」のであって、その場所の温度を示してホーキング温度と呼ぶのであり、そうであればホライズンのホーキング温度はゼロなのである。

それゆえにまたホライズンのエントロピーはゼロであって、従ってBHのエントロピーはゼロという事になり「ブラックホールノーヘア定理」は厳密に成立している、とそういう事になります。

注1:上記論文の中で興味深い論文に言及がある。『・・・この点で最近興味深い研究がなされている [21]。Strominger は超対称性にも弦理論にもよらずに、量子重力理論が存在するという仮定だけを使って、ブラックホール・エントロピーを係数まで含めて正しく導出した。この場合調べられたブラックホールは、宇宙項のある三次元時空でのブラックホールである。ブラックホール・エントロピーの導出は、いかなる量子重力理論も満たすべき条件だからこそ、このようなことが可能なのであろう。』ーー>その48に部分訳掲載

論文はこちら Black Hole Entropy from Near–Horizon Microstates
Andrew Strominger 1998/1/22

追伸:関連して「ホーキング放射はどこから発生しますか?」という話を・その49で行います。

追伸その2:ブラックホール物理と熱力学 エントロピーに関連した参考文献です。

・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク

https://archive.fo/18HqX  https://archive.fo/gBBOa

https://archive.fo/A3CfB