宇宙論、ブラックホール、ダークマター、ホーキング放射、相対論

ブラックホール、ダークマター、ホーキング放射、相対論 etc etc

ダークマター・43-3・ハッブル定数の食い違いについて(3)

2021-03-14 13:01:35 | 日記

さて前のページの結論はこうでした。『ダークエネルギーを考慮してもそれを考慮しない場合の宇宙年齢、それはプランクの場合は138億年でありその数値に変更はない、とするならば、なおかつ宇宙の大きさを24.5%増やす為にはハッブル定数は現状のプランクレポート推定値よりも概算で20%ほどは増やす必要がある、という結論に至るのでした。』そうして注記でも述べましたがプランクレポートのハッブル定数の推定値は少なくとも上方に修正する必要がある、という事でした。

しかしながら上記結論は「宇宙の最初期の状態も物質とダークエネルギーの2成分からなるフリードマン方程式で記述できる」という前提に立つものです。しかしながら実状はといえば、もちろん宇宙の最初期は輻射エネルギー100%であり、その後は輻射と物質からなる2成分のフリードマン方程式に従うのでした。

そうであればこの検討の旅もここで終わるのではなくて、ビッグバンのスタート時までさかのぼる必要があります。

「輻射-物質拮抗時期」と「宇宙の晴れ上がりの時点」での各成分が持っていたエネルギー密度の割合は以下の様なものでした。(42-1・輻射-物質拮抗時期 よりの引用)

『「輻射-物質拮抗時期」
宇宙誕生から7.4万年後 温度8860K (0.88eV)
観測可能な宇宙の半径 1422万光年
(1422万光年先の場所の後退速度は光速の132倍)(注2)
物質密度 陽子3.86*10^10個/m^3
(ダークマター1.25に対し通常物質0.25の割合
ダークエネルギー成分はこの時も陽子3.5個/m^3相当で物質密度に対して無視できる程度の値)
放射のエネルギー密度 陽子3.86*10^10個/m^3
臨界密度 陽子7.72*10^10個/m^3

「宇宙の晴れ上がり」
宇宙誕生から38万年後 温度3000K (0.3eV)
観測可能な宇宙の半径 4200万光年
(4200万光年先の場所の後退速度は光速の63倍)(注2)
物質密度 陽子1.5*10^9個/m^3
(ダークマター1.25に対し通常物質0.25の割合
ダークエネルギー成分はこの時も陽子3.5個/m^3相当で物質密度に対して無視できる程度の値)
放射のエネルギー密度 陽子5.1*10^8個/m^3
臨界密度 陽子2.0*10^9個/m^3 』

それで上記数値を参照するならば「宇宙の晴れ上がり時期」では75%が物質、放射が25%、ダークエネルギーは無視可能となります。そうして付け加えるならば、従来はこの時には物質100%である、として物質100%のフリードマン方程式で扱ってきたのでした。

そうしてまた、物質30%ダークエネルギー70%が現時点での宇宙を表す、と言う理由でその様にパラメータを代入したフリードマン方程式から宇宙の晴れ上がり時期を推定した場合も、晴れ上がり時点でのダークエネルギーはほぼゼロとなり、従って実質上は晴れ上がり時点、およびそれ以前の宇宙の挙動については物質100%として解いたフリードマン方程式の結果と変わる事はないのでした。

しかしながら実状は、といえば「晴れ上がりをふくめてそれ以前の宇宙の状況を表す」としたならば輻射25%物質75%のパラメータ設定で宇宙の晴れ上がりから前の状況を解く必要があります。

そうして、その宇宙と比較検討されるべき宇宙は物質100%として解かれたものになります。それで物質100%の宇宙については ・43-1 ですでに解いてありました。(・43-1・ハッブル定数の食い違いについて

物質100%の宇宙

このグラフのt=0の点が今度は「宇宙の晴れ上がり時点」となります。そうしてこの時刻はこれまでの検討結果よりプランクデータを使った場合はビッグバンから47.7万年後となるのでした。(「・42-3・輻射-物質拮抗時期と宇宙の晴れ上がり時期」から引用)

次は輻射25%物質75%のパラメータ設定で宇宙の晴れ上がりから前の状況を解く事になります。

初期条件(詳細については「42-1・輻射-物質拮抗時期 」参照)
Heq=+1、Ωm:eq=0.75、ΩΛ:eq=0、Ωrad:eq=0.25、a(eq)=1
Ωk:eq=(1-Ωm:eq-ΩΛ:eq-Ωrad:eq)=(1-0.75-0-0.25)=0

それで解くべき式は
『x’=(0.25/x^2+0.75/x)^0.5,x(0)=1』
計算範囲は-0.8から0.2まで、刻み幅は0.005でいいでしょう。

物質75%放射25%の宇宙 

ビッグバンが始まった所がグラフからー0.59あたりである事が読み取れます。

さて物質100%の場合はビッグバンスタートはー0.667でそこから宇宙の晴れ上がりまでは47.7万年かかるのでした。(実際はダークエネルギーを考慮した物質とダークエネルギーの2成分のフリードマン方程式を解いて時間を求めているのですが、宇宙の晴れ上がり時点ではダークエネルギーはほぼゼロで無視できるため、それより前の状況は物質100%でのフリードマン方程式の解と挙動が同じになります。)

しかしながら物質75%放射25%の宇宙ではビッグバンスタートからt=0.59で宇宙の晴れ上がりまで到達します。そうであればその時の時刻は42.2万年と計算できます。

さてプランクではもともと宇宙の晴れ上がりを38.3万年としてきました。それが実は42.2万年ですから10.2%程後ろに伸びた事になります。

宇宙の晴れ上がり時刻の伸びと宇宙の大きさについて今まで行ってきた議論を振り返れば、宇宙の大きさは10%ほど大きくなる事になり、したがってまたハッブル定数もプランク公表値の66.88ではなく73.7程の値となるのでした。

別解の追記:厳密解による方法 輻射+物質モデル  (5.32)式の積分表現にパラメータを代入してウルフラムで計算させる。

Ωm,0=0.75,   Ωr.0=0.25を代入し a=0~1で積分する。

入力文「0から1の範囲で1/(sqrt(0.75/x+0.25/x^2))を積分」

・実行アドレス 

答えはt=0.592593  ≒0.59<--グラフ読み取り値

 

結論
プランクのハッブル定数の推定値は10%程持ち上げる事が妥当である。

そうすると73.7程の値となり、SH0ESの推定値74.03と一致する事になる。(注1)

注1:日経サイエンス2021/4月号 「ハッブル定数 食い違う観測値」から「標準光源としてセファイド変光星とIa型超新星を使った場合のハッブル定数の推定値を出しているチームがSH0ES」

 

追伸(3/25):上記では一応「結論」としましたが、ここで展開している方法は宇宙のはれ上がり時点でそれより前は輻射ー物質の2成分のフリードマン方程式に従い、それ以降は物質ーダークエネルギーの2成分のフリードマン方程式に宇宙は従うものとして解いた結果でした。

しかしながら実際は、といえば輻射ー物質ーダークエネルギーの3成分のフリードマン方程式に宇宙は従うのですから、そこにはまだ誤差が存在しそうです。あるいは言い方を変えますと「宇宙のはれ上がり時点で2つのフリードマン方程式を接続させる」というのは「どの時点で2つの式を接続したらよいのか」という任意性が残っている方法である、と言えます。

そういうわけで、我々はまだ最終的な結論に到達はしていない模様です。

 

・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク

 

https://archive.fo/RtLFF  https://archive.fo/w5thl

 

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ホーキング放射とブラックホール・52-2・ホーキング放射はどこから発生しますか?(3)

2021-03-10 13:46:23 | 日記

・その14での結論 では『従来方法ではEs=σ・Ts^4*4・Pi・Rs^2が単位時間当たりBHが放出する全放出エネルギーである、とされていました。
提案方法では補正係数0.10179を掛けたE=0.10179*Esが妥当であろう、という事になります。

こうして、BHの寿命は従来の約10倍にのびる事になった、とそういうお話であります。』という事でした。

これはこれで確かにそうなるのですが、従来方法では1とされている補正係数(補正をしないのに補正係数というのも何ですが、、、)の状態と言うものはどういうものであるのか、という事があまりはっきりと示せませんでした。

その状態はただ単に「BHを黒体とみなした場合にその黒体の表面から宇宙空間に放出されるであろうホーキング放射の全エネルギーを計算するとしたら、シュテファン=ボルツマン則に従ってその式で計算できる」という事でしかありません。

しかしながら、いままで検討してきたように「ホーキング放射は厚みを持った空間から素粒子が飛び出す」という「黒体の表面から放射がおきる状態」とはまるで異なる放射メカニズム、放射様式なのであります。

それをただ単に「黒体表面からの放射」としてとらえてBHの寿命計算をしていたのが従来方法でした。->http://astro-wakate.sakura.ne.jp/ss2013/web/syuroku/grcosmo_24a.pdf

それに対して当方の計算ではホライズン半径からその3倍の位置までの空間放射を考えればよい、として補正係数0.10179を算出しました。

またGiddingsさんの検討では「Ra=3*sqrt(3)/2*シュワルツシルト半径=2.5981*シュワルツシルト半径」つまりX=2.5981まで層を積み重ねればよい、として、つまりは積分範囲1(ホライズン半径)からその2.5981倍までで良いとし、補正係数0.101733 という値を得ました。

それでこの2者の補正係数の値はほぼ同じであって、ホライズンからどこまでの上空空間までのホーキング放射を有効なものとして考えるのか、という所に違いがあるだけです。

さてそれで話を戻して「ホーキング放射を空間放射である、とし、さらにその全放射エネルギーを式Es=σ・Ts^4*4・Pi・Rs^2で計算する」という事はどういう状況を想定して計算を行っているのか、という事を確認してみましょう。

・その14 で導出した積分対象の式はこうでした。↓

Es*(1/X^6)*(1-sqrt(X^2-1)/X)

この式でXはホライズン径で1となる様に規格化したパラメータです。そのように規格化されたパラメータXで示される位置Xにある層が放出する全エネルギーをこの式は表しています。但し、BHの中心から距離が離れるにしたがってBHからの重力がよわくなり、つまりはホーキング温度がさがり、ホーキング放射エネルギーもそれに従って下がる、という事を考慮しています。

それに対してBHのホライズンからどれだけ距離が離れてもホーキング温度はホライズンでのホーキング温度のままである、と想定した場合はパラメータXで示される位置Xにある層が放出する全エネルギーを現す式は以下の様になります。

Es*4*pi*x^2*(1-sqrt(x^2-1)/x)

4*pi*x^2は距離xにある層が作る球の表面積であり、(1-sqrt(x^2-1)/x)はその位置からどれだけの仮想粒子がホライズンの中に飛び込めるか;それはつまりホライズンの中に飛び込めた仮想粒子と対になって生成した仮想粒子が最終的にはホーキング放射として観測される、と言う状況を表しています。

さてそれで、求めるべきは 4*pi*x^2*(1-sqrt(x^2-1)/x)の式をホライズンの位置からスタートさせてその上空のどこまで積分したら1と言う値になるのか、という事になります。

そうしてそれは ウルフラムによれば 1から1.10187551の範囲でよい、という事になります。

つまりは『従来方法でEs=σ・Ts^4*4・Pi・Rs^2が単位時間当たりBHが放出する全放出エネルギーである』として寿命計算をしていたのは、空間放射という考え方の世界では『ホライズンでのホーキング温度のままでその上空方向に距離が離れてもホーキング温度は変わらずにホーキング放射を行うことが出来る、そういう層をホライズンからその1.1倍の所まで積み重ねてホーキング放射の全エネルギーを計算している事に相当する』という事を示しています。

しかしながらもちろん現実にはホライズンから離れれば相応のホーキング温度しか得られず、つまりはホーキング放射のエネルギーは順次減少していく、と言うのが正解となります。そうであれば補正係数は1のままでは過大であり補正係数0.1017をかける事が必要である、という事になります。

そうして空間放射するエリアをどこまで考えるのかによって小数点以下第5位の数字がGiddingsさんの検討と当方の検討結果では異なってきますが、補正係数0.1017とした場合は双方が同意できる値であり、また有効数字4ケタというのも十分な桁数であると思われます。

結論

従来BHを黒体として扱い、その表面から放出される全エネルギーをシュテファン=ボルツマン則に従ってEs=σ・Ts^4*4・Pi・Rs^2で算出し、その値からBHが蒸発するまでの時間:寿命を求めていた。

しかしこの方法では単位時間当たりにBHから放出される全エネルギーの値が過大に計算される事になる。これを実際の状況に合致させるためには補正係数0.1017をかける必要がある。

それはつまり、従来方法で計算されたBHの寿命は約10倍に伸びる、という事である。

追伸(3/25):上記結論については通常のホーキング放射での寿命式はホーキング放射される素粒子の種別を問わず、また光の放射についてはその波長サイズとBHの大きさの関係を無視して計算しています。

しかしながら実際は放射される素粒子の種別と光放射の場合では波長サイズとBHの大きさの関係は無視できず、これらの要素を加味する事でBHの寿命は上記結論よりもさらに延びる事になるのは確実であると思われます。

 

・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク

https://archive.fo/WQ0bP  https://archive.fo/OVfiT

 

 

 

 

 

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ホーキング放射とブラックホール・52-1・ホーキング放射はどこから発生しますか?(2)

2021-03-09 12:38:02 | 日記

さてそれで ・50・ホーキング放射、シュテファン・ボルツマンの法則、および統一 によればSteven B. Giddingsさんは「ホーキング放射は、ブラックホールの地平線の小さな領域からではなく、シュワルツシルトブラックホールの地平線の外側のRに匹敵するrの範囲(大気と呼ばれることもあります)から発生する」と主張しています。

それは具体的には「シュワルツシルト半径Rsから始まって(但しホライズンそのもの:その場所は含まずに)Ra=3*sqrt(3)/2*シュワルツシルト半径=2.5981*シュワルツシルト半径つまりシュワルツシルト半径の約2.6倍の位置までの空間である」としています。

さてこの議論はどこかで聞いたことがありました。ダークマター・ホーキングさんが考えたこと・13~16・ホーキング放射のシミュレーション(1~4)で行っていた議論と重なります。

Giddingsさんもシュテファン=ボルツマン則を出発点として考える事で上記の「Ra=3*sqrt(3)/2*シュワルツシルト半径」を導き出しました。

そうして当方の議論ではその値は「シュワルツシルト半径の3倍まで取れば十分である」と言うように結論を出した部分に相当します。この部分、詳細は以下を参照願います。

・14・ホーキング放射のシミュレーション(2) 

そこから以下の数値を持ってきます。

積分範囲1から2では   0.10124
積分範囲1から3では   0.10179
積分範囲1から無限では  0.10183
積分は発散ぜず、ホライズンからホライズン半径の2倍、X=3まで層を積み重ねれば十分である事が分かります。

Giddingsさんの検討では「Ra=3*sqrt(3)/2*シュワルツシルト半径=2.5981*シュワルツシルト半径」つまりX=2.5981まで層を積み重ねればよい、としています。

ここでWolfram|Alphaさんの出番です。<--リンク
「微積分と解析 」を選んで「定積分」に行きましょう。
クリックすると何やら出てきます。
積分範囲と式(1/X^6)(1-sqrt(X^2-1)/X)を入力(コピペ)しましょう。
少々苦労するやもしれませんが、頑張ってみて下さい。

積分範囲1から2.5981で   0.101733 を得ます。

この値は無限まで積分した場合の99.905%に相当し、Giddingsさんは「これでよし」とされたものと思われます。

当方の検討では次のステップとして「エネルギーと存在時間の不確定性関係を考慮すると、、、」と続きますが、Giddingsさんの検討では一応ここで終了となっています。

まあそういう訳で、「Giddingsさんの主張と当方の主張は一致していたという事が確認できた」という事になります。(注1)

注1:Giddingsさんの論文を真面目に理解するには引用文献まで含めての読み込みが必要な様であります。そうであれば、どなたかその様にして解読され論文の簡略な説明をしていただける事を期待しています。

・・・とまあそうなのではありますが「どうやら全く異なるアプローチの仕方で同一の回答にたどり着いた」と、そういう事の様であります。

追記:「ダークマター・ホーキングさんが考えたこと・13~16・ホーキング放射のシミュレーション(1~4)」には以下の目次から入れます。

・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク

目次一覧です。

https://archive.fo/vYW8z

 

 

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ダークマター・43-2・ハッブル定数の食い違いについて(2)

2021-03-07 22:20:44 | 日記

さて前のページではプランクでのCMB解読でもWMAPでのCMB解読でもその最初の手順として物質100%の宇宙を仮定して宇宙の晴れ上がり時刻を決定している事を確認しました。

しかしながらもちろん現実の我々が暮らす宇宙にはダークエネルギーが満ちており、その値はプランクの解析では67.9%、WMAPの解析では71%であるとされている。(注1)したがって当然の事として「CMB解読の最初の手順でもダークエネルギーを含んだ宇宙を想定して解析を始めるのが妥当である」となります。

さてそうなると、たとえばプランクの例では宇宙の晴れ上がりを38.3万年としていたのを47.7万年と24.5%ほど時間を後ろにずらす事が必要になります。それでこの話のポイントは、その影響がCMBの解読にどのように影響してくるのか、最終的には「ハッブル定数の推定にどのように影響するのか」という事になります。それで話は次のステップの事となります。

・4.宇宙論パラメータの決定 を参照すれば

『2. この時期までにゆらぎの振動が伝わる距離rを計算する
a. 空間的な重力的密度のゆらぎは、その時期の宇宙の媒質中を音波として伝わる
b. この音波振動が、CMB温度ゆらぎスペクトルの山や谷をつくる
c. 主として放射からなる媒質の場合、音速は光速の1/(3^(1/2))
d. これらを総合すると、距離は(現在の宇宙での値に換算して)r=147Mpc(注2)

「この時期までに」というのは「ビッグバンの始まりから宇宙の晴れ上がりまでの間に」ということであり「宇宙のスタート時から光と陽子、電子が入り混じった密度の高いプラズマの中を密度揺らぎの振動(音波)が伝わっていく距離を求めましょう」という事になります。そしてその「基準となる距離r」は音速と時間の積で決まり、音速は光速Cをルート3で割った値になると言っています。(注3)そうしてもちろん時間は宇宙の晴れ上がりまでの時間、プランクの場合は物質100%の宇宙モデルを使えば38.3万年、そうしてダークエネルギー67.9%の宇宙モデルを使えば47.4万年という事になります。

さてここではWMAPで考えていますのでその数値としては・4.宇宙論パラメータの決定 より37.2万年を採用します。その時間で揺らぎは147Mpcまで広がるのでした。その大きさを現在の地球の位置(まあもっとも具体的にはWMAP衛星やプランク衛星が観測するのですが、、、)から観測した場合の視角Θがポイントになります。

WMAPの例ではその視角度は0.82度であったと・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果, には書かれてあります。その視角Θを出すのに衛星が観測したCMBパターンのパワースペクトル解析結果が使われる、という事であり、WMAPではパワースペクトルの最初のピークの位置がl=220であり、その角度が0.82度相当であったとされています。

さてプランクの解析でも状況は同じであって、まずは「基準となる距離r」を算出します。次にそれを現在の地球の位置から見た時の視角の大きさΘをCMBのパワースペクトル解析結果から持ってきます。あとは宇宙がほぼ平坦である、という事をつかって「地球からその基準となる距離r」を見た時に、CMBのパワースペクトル解析結果で得られた視角Θになるためには、「CMBと地球との間の距離」つまり「宇宙の大きさ」がどれほどであるのかを計算する、という手順となります。

そのあたりの事は ・4.宇宙論パラメータの決定 では

『5.rの値が、遠方のものさしの目盛りの役割をする
a. CMB温度地図の宇宙時刻(宇宙の晴れ上がり)から現在までの距離は、d=r/θ~14Gpc』と言うように書かれています。

さて、以上みてきました様にこの話のポイントは「そこまでの距離が不明ではあるが見ているものの実際の大きさrはわかっていて、またそれを見た時の視角Θも分かるので、そこまでの距離は計算出来る」という所にあります。そしてこの場合に「基準となる距離rは地球上の物理の知識からビッグバンから宇宙の晴れ上がりまでの経過時間がわかれば計算可能である」とし、そしてまた「視角ΘはCMBパターンをパワースペクトル解析すれば分かる」という事になっています。

その結果は「以上の2つの情報を合わせる事で現在の宇宙の大きさがわかる」そして妥当な宇宙モデルを想定し、そのフリードマン方程式を解く事でハッブル定数が決定できる、という事になります。

以上の様な手順でCMBパターン解析することによりハッブル定数の推定にまでたどり着くのですが、この場合に致命的に重要な事は「ビッグバンから宇宙の晴れ上がりまでの経過時間である」という事が分かります。

さてそれで話は振り出しに戻りますが「物質100%の宇宙を想定した場合の経過時間」と「ダークエネルギー67.9%の宇宙モデル(=プランクデータ使用)を使った場合の経過時間」を比較すれば後者では宇宙の晴れ上がりのタイミングは24.5%ほど後ろにずれる、ということでありました。つまりは「基準となる距離r」の値が24.5%増える事になり、しかしながらそれを見た時の視角Θの値は同じであり変化がないのですから「ダークエネルギーを考慮した場合は宇宙の大きさはそれを考慮しない場合に比較して24.5%程大きくする必要がある」という事になります。(つまり24.5%ほど遠い所から見ないと視角Θは同じ値にならない、ということです。)

それでダークエネルギーを考慮してもそれを考慮しない場合の宇宙年齢、それはプランクの場合は138億年でありその数値に変更はない、とするならば、なおかつ宇宙の大きさを24.5%増やす為にはハッブル定数は現状のプランクレポート推定値よりも概算で20%ほどは増やす必要がある、という事になるのでした。(注4)

但し上記結論はここまでの検討結果の一応のまとめであって、以下後半部分は「43-3・ハッブル定数の食い違いについて」で行います。

 

注1:ここではWMAPでの値は・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果, を参照している。プランクデータはプランク衛星が最後に公表した2018年版の「プランク ベストフィット データ」 を参照。

注2:但し「距離は(現在の宇宙での値に換算して)r=230Mpc」と言うのが・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果, での主張であり、この数字は ・4.宇宙論パラメータの決定 での数字とは異なっています。

注3:たとえば ・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果, の記述を参照願います。あるいは ・7 宇宙の運命 8ページにも同様の説明があります。

注4:しかしながら単にプランクの解析結果であるハッブル定数の値を24.5%増やせば良いのか、それ以外の宇宙論パラメータとの整合性はそれで取れるのか、と言うような細部の確認は当然必要になってきます。しかしながら現状報告されているプランクの推定値

ハッブル定数(km s -1 Mpc -1) H_o      66.88±0.92

を上方修正する必要がある事はほぼ間違いの無い事であると思われます。

参考追記1:WMAP初年度の解析結果とプランクレガシーデータの比較

・基準となる距離r 230Mpc      144.5Mpc

・それを見る距離l 13.7Gpc     (13.88Gpc)

・距離r/見る距離l(0.016788)   0.010408

・視角Θ       0.82度      (0.596度) 0.0104097rad
(パワースペクトル解析による)

・宇宙年齢     13.4Gyr     13.83Gyr

・ハッブル定数   72          66.88
(km s -1 Mpc -1)

但し( )内数値は・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果, と・プランクレガシーデータ の公表数値からの換算値および推定値。

参考追記2:以下 ・WMAP 9年間の結果 より引用

・宇宙年齢     13.74Gyr     

・ハッブル定数   70.0          
(km s -1 Mpc -1)

 

・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク

https://archive.fo/2Ehdp

 

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ダークマター・43-1・ハッブル定数の食い違いについて(1)

2021-03-07 14:03:52 | 日記

日経サイエンス4月号にそのいきさつが書かれています。それによればこの食い違いによって「笑えない様な研究者間の言い争い」にまで発展しそうな勢いであります。

さてCMBを使ったハッブル定数の推定はそれ以外の宇宙論パラメータの決定と同時に行われてきました。そのやり方の詳細についてはWMAPについての解析報告ではありますがたとえば

・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果,  

あるいはより簡略化された形では

・4.宇宙論パラメータの決定

と言うようなものがあります。そうしてここでは一応「4.宇宙論パラメータの決定」をベースにして話を進めたいと思います。とはいえ最初に当方の結論を提示しておきましょう。

『CMBの解読にあたってまず最初に、宇宙の晴れ上がり時期を物質100%を前提としたフリードマン方程式を使ってWMAPでは37.2万年、プランクでは38.3万年ほどに設定しているが、その決め方に問題がある。より正しくは物質30%ダークエネルギー70%程のフリードマン方程式を使うべきであり、たとえばプランクではそれを使う事で晴れ上がりのタイミングは24.5%ほど後ろにのびて、47.7万年となる。(注1)

これによってハッブル定数の推定値もより大きな値に変更する事が必要となる。』というものです。

さてこのCMB解読の出だし部分、「4.宇宙論パラメータの決定」によれば以下の様に書かれてあります。

『1. 宇宙晴れ上がりの時期zdecを推定する
a. 理論モデルを用いて観測されているCMB温度地図の宇宙時刻(宇宙が中性化・晴れ上がった時)を計算
b. これは、赤方偏移パラメータにしてzdec=1089±1
c. 宇宙の大きさが現在の1/(1+zdec)~1/1089 の時期に対応。(宇宙モデルを仮定して)時刻に換算すればtdec=37.2±1.4 万年』

物質100%のフリードマン方程式の解は スケール因子のふるまい の中にある平坦モデルの  (C.4.58)式になります。ここでHoは現時点でのハッブル定数となりますが、宇宙の大きさから宇宙年齢を推定する場合はHo=1と規格化して扱います。

さて「赤方偏移パラメータにしてzdec=1089±1」ですので宇宙は晴れ上がりの時には現時点よりも1/1090倍の大きさであった、という事になります。それはまた現時点で宇宙空間を満たしているCMBの温度2.73Kの1090倍の温度が晴れ上がり時点での温度であった、という事でもあります。

ここで物質100%の時の宇宙の膨張の仕方と物質30%ダークエネルギー70%の時の宇宙の広がり方を見ておきましょう。

物質100%の宇宙

t=0(現時点)でx=1(規格化された今の宇宙の大きさ)を示し、t=-2/3の所が宇宙のスタート、ビッグバンの始まりを示しています。そしてこのページで示されている厳密解の式のビッグバンの位置をt=0にずらしますと前述した平坦モデルの  (C.4.58)式になります。したがって (C.4.58)式ではt=2/3の位置が現時点を表すことになります。

物質30%ダークエネルギー70%の宇宙 <--一般的に言われている宇宙モデル

物質32%ダークエネルギー68%の宇宙 <--プランクのデータを反映した場合

いずれのグラフでも青色の数値解と示されたカーブが宇宙の成長を示しています。そしてこのグラフでもt=0(現時点)でx=1(規格化された今の宇宙の大きさ)を示し、プランクのデータを反映した場合の宇宙ではグラフにカーソルをあわせてX=0の点を読み取るとt=-0.945あたりがこの宇宙のスタート、ビッグバンの始まりである事が分かります。そしてこのグラフのビッグバンの点をt=0にずらしますと平坦モデルの  (C.4.57)式になります。そしてその場合には  t=0.946の位置が現時点を表すことになります。こうしてウルフラムの数値解もそれなりの精度をもって(C.4.57)式の厳密解と一致している事が分かります。(注1)

そうして「2種類の宇宙の成長曲線の違い」が宇宙の晴れ上がり時刻を決める時に差を生む原因となっています。

さてこの厳密解を用いて宇宙の晴れ上がりの時刻を推定するのですが、上記2つの場合のいずれにせよ宇宙の現時点での年齢を「与えられたもの」として入力してやらないと晴れ上がり時刻は推定できないのです。それでWMAPの上記の例では『6. 現在の宇宙年齢・・・ c. t0=137±2 億年』としています。

これを用いて

『1. 宇宙晴れ上がりの時期zdecを推定する・・・c. 宇宙の大きさが現在の1/(1+zdec)~1/1089 の時期に対応。(宇宙モデルを仮定して)時刻に換算すればtdec=37.2±1.4 万年』を確認して見ます。ちなみにここで仮定している宇宙モデルは物質100%のものです。

宇宙の大きさが現在は1であったものがその大きさが1/1090倍の時刻 t を厳密解を使って求めます。

実行アドレス

答えは t=1/(1653*sqrt(1090))=0.0000183237

t=2/3 が137億年でしたから(「・4.宇宙論パラメータの決定」では宇宙年齢は137億年となっています。)

tdec=137億年/(2/3)*0.0000183237=37.7万年 となります。「4.宇宙論パラメータの決定」ではこの数字は「tdec=37.2±1.4 万年」としていますが、まあ誤差範囲ということにしておきます。

というわけで、WMAPでのCMB解読の第一歩では「物質100%の宇宙モデルが使われている」という事が分かるのでした。

そうしてまた2018年プランク最終データリリース(レガシーデータ)を使って同様の事を行いますと

実行アドレス

答えは t=2/(3273*sqrt(1091))=0.000018450

t=2/3 が138.3億年でしたから(プランク レガシーデータより)

tdec=138.3億年/(2/3)*0.000018450=38.3万年 となります。

ESA - Planck reveals an almost perfect Universe 「プランクはほぼ完璧な宇宙を明らかにします」によれば『この画像は、プランクからの最初の15.5か月のデータに基づいており、宇宙で最も古い光のミッション初の全天画像であり、わずか38万年前に空に刻印されています。

その時、若い宇宙は約2700℃で相互作用する陽子、電子、光子の熱くて濃いスープで満たされていました。陽子と電子が結合して水素原子を形成すると、光は解放されました。宇宙が拡大するにつれて、この光は今日、絶対零度よりちょうど2.7度高い温度に相当するマイクロ波波長まで引き伸ばされています。・・・』とのことであり、38.3万年とほぼ同じ、つまり「プランクの解析でもCMB解読の第一歩では物質100%の宇宙モデルが使われている」という事が分かるのでした。

 

注1:(C.4.57)式の厳密解での計算結果(t=0.946)、および47.7万年の導出詳細については ・42-3・輻射-物質拮抗時期と宇宙の晴れ上がり時期 を参照願います。

・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク

 

https://archive.fo/2njB9

 

 

 

 

 

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