MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

Mozart の♭の響き ⑩ 深まる謎

2009-05-20 00:01:27 | 私の室内楽仲間たち

05/20 私の音楽仲間 (61) ~ Mozart の♭の響き

             ⑩ 深まる謎




          私の室内楽仲間たち (41)




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




          関連記事  Mozart の♭の響き

                   メヌエット?
                四重奏から交響曲へ
              Mozart の短調のメヌエット
              ハイドンの短調のメヌエット
                 アレグロ マギレット
                    ミラノ土産
                   素材の倉庫
                  ## → ♭♭♭
                3つの♭、3つの音符
                    深まる謎





 Mozart の変ロ長調 (KV159)、変ホ長調の弦楽四重奏曲
(KV160) を巡る今回の旅も、そろそろ終わりに近づきました。



 親しい仲間と室内楽を楽しんだ、午後のひととき。 この日
は前半にシュポアの弦楽6重奏曲、後半に Mozart の二曲の
四重奏曲。 予定の曲目はすべて消化し終わりました。



 しかし、まだ時間が少しあります。 そこでリクエストの
あったのが、弦楽四重奏曲第11番変ホ長調 KV 171
でした。

 と言っても、例によって恥ずかしながら、私はこの曲を演奏
したことがありません。 これでは「紺屋の白袴」どころか、
「楽隊屋の赤恥」です。

 実は譜面を覗いたことも、聴いたことも…。 またしても
"抜き打ちオーディション" (笑) になってしまいました。






 全体は、以下の各楽章から成っています。



  第Ⅰ楽章 変ホ長調
     Adagio 4/4 ~ Allegro assai 3/4 ~ Adagio 4/4

  第Ⅱ楽章 変ホ長調
     Menuetto 3/4

  第Ⅲ楽章 ハ短調
     Andante 4/4

  第Ⅳ楽章 変ホ長調
     Allegro assai 3/8




 演奏したのはⅠ、Ⅲ楽章だけですが、何とも神秘的な思い
に囚われながら弾いたのを覚えています。

 私にとっては、同じ変ホ長調でも、『魔笛』より不思議な
世界。 17歳の Mozart が作った。 ああ…。

 また一つ、謎が増えたようです。




 1773年3月にミラノから戻り、交響曲第26番などを作ると、
Mozart は夏をヴィーンで過ごします。 そこで生まれたのが、
この変ホ長調を含む6曲の四重奏曲でした。

 それらは、

   第8番   ヘ長調 KV168、
     9番   イ長調 KV169、
    10番   ハ長調 KV170、
    11番 変ホ長調 KV171、
    12番 変ロ長調 KV172、
    13番   ニ短調 KV173

の各曲です。 すべてメヌエットを含む4楽章からなっており、
『ウィーン四重奏曲集』と呼ばれることもあります。




 詳細は、下記の優れたサイトをご覧ください。



   アマデオ弦楽四重奏団 から K171の楽しみ



   譜例の詳細




 今回のシリーズでは、Mozart の曲にたくさん登場してもらい
ました。 作曲順に整理してみると、



(1) ディヴェルティメント ニ長調 KV136 (125a)
             (楽章) (ミラノ) (1772年、16歳)

(2) 弦楽四重奏曲第6番変ロ長調 KV159
             (楽章) (ミラノ) (以下 1773年、17歳)

(3) 弦楽四重奏曲第7番変ホ長調 KV160
             (楽章) (ミラノ)

(4) 交響曲第26番変ホ長調 KV184 (161a)
             (楽章) (ザルツブルク)

(5) 弦楽四重奏曲第11番変ホ長調 KV171
             (楽章) (ヴィーン)

(6) 交響曲第25番ト短調 KV183 (173dB)
             (楽章) (ザルツブルク)




 そこでは、ジャンルを越えた関連もいくつか見られました。
今回ご一緒に見てきたものを、以下にまとめてみました。



   (1) と (3) の関連

     ⑧  『## → ♭♭♭』




   (2) と (6) の関連

     ①  『メヌエット?』

     ②  『四重奏から交響曲へ』

     ③  『Mozart の短調のメヌエット』

     ④  『ハイドンの短調のメヌエット』

     ⑤  『アレグロ マギレット』

     ⑥  『ミラノ土産』

     ⑦  『素材の倉庫』




   (3) と (4) の関連

     ⑨  『3つの♭、3つの音符』




 最後に、今回演奏でご一緒したメンバーの、

Violin の.さん、Viola の .さん、チェロの.さん、

ありがとうございました。



 "3人の童子" (『魔笛』の登場人物) さんたち、次回は、
一体どんな旅に私を連れ出してくれるのでしょう!?




 ところで今しがた入った連絡では、.さんが

「ご病気加療に入られます」とのこと…。



 心配です。 お祈りいただければ幸いです。




Mozart の♭の響き ⑨ 3つの♭、3つの音符

2009-05-19 00:01:28 | 私の室内楽仲間たち

05/19 私の音楽仲間 (60) ~ Mozart の♭の響き

         ⑨ 3つの♭、3つの音符




          私の室内楽仲間たち (40)




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




          関連記事  Mozart の♭の響き

                   メヌエット?
                四重奏から交響曲へ
              Mozart の短調のメヌエット
              ハイドンの短調のメヌエット
                 アレグロ マギレット
                    ミラノ土産
                   素材の倉庫
                  ## → ♭♭♭
                3つの♭、3つの音符
                    深まる謎




 前回は、有名な『ディヴェルティメント ニ長調 KV136 (125a)』
(1772年作曲) と、よく似た始まり方をする弦楽四重奏曲を見て
きました。 それは、弦楽四重奏曲第7番変ホ長調ミラノ四重奏曲
第6番)
KV160 (159a) の第Ⅰ楽章でした。



 同じ曲の第Ⅲ楽章 ("94" をクリックしてください) との類似を感じさせる
曲があります。

 それは、交響曲第26番変ホ長調 KV184 (KV3: 166a
/ KV6: 161a) の、第Ⅰ楽章冒頭です。

 ともに変ホ長調、2拍子系で、(Molto) Presto と記されています。




   譜例

     第Ⅰ楽章冒頭

     第Ⅱ楽章冒頭 ("23" をクリックしてください)

     第Ⅲ楽章冒頭 ("26" をクリック)




 よく見ると、各楽章の最初に登場するテーマたちは、リズム
的に関連しているのがわかります。 すべて、「最初の小節の、
(最後の) 3つの音符 (+ 次の音符)」のことで、音程は同じ高さ
のままです。

  (第Ⅰ楽章では全オーケストラに、Ⅱ・Ⅲ楽章では第1ヴァイオリンに
現れる音形です。)




 このうちⅡ、Ⅲ楽章のリズムは、のちに Beethoven、Brahms
が盛んに用いることになり、"運命の動機"、Brahms の "運命
の動機" などと呼ばれることがあります。

 Beethoven の第5交響曲、Brahms の第1交響曲など、ハ短調
の曲を連想してしまいます。 調号は同じ "♭♭♭" です。 この
Mozart の曲と同様に。




   音源




 この交響曲は、Mozart が故郷へ戻って間もない、1773年3月
~4月頃に作曲され、3楽章から成っています。 1年足らずの
間に作られた、『ザルツブルク交響曲』と呼ばれる8曲の中の
一つです。

① 『第26番変ホ長調』、② 『第27番ト長調』、
③ 『第22番ハ長調』、④ 『第23番ニ長調』、そして時期を空け、

⑤ 『第24番変ロ長調』、⑥ 『第25番ト短調』、⑦ 『第29番イ長調』、
⑧ 『第30番ニ長調』の中で、一番最初に作られたことは、これまで
にも見てきました。



 『ミラノ四重奏曲』の最後を飾る曲と、『ザルツブルク交響曲』の
皮切りとなった曲。 最後と最初。 作曲時期も2か月前後と、
近いようです。




 ①~⑤の交響曲はすべて3楽章で書かれており、メヌエットが
無いことも、これまでに見てきました。 演奏時間は総じて短く、
5曲とも全体が切れ目無しに演奏されるように書かれています。

 したがって全体を一つの序曲と見ることも可能で、器楽的な
面と、オペラのアリアのように歌謡的な面の両方を併せ持って
います。 「交響曲の起源がオペラの序曲にある」ことを思い
起こさせます。



 事実、初期の歌劇、『ポントの王ミトリダーテ』KV87(74a)
(1770年)、『アルバのアスカーニョ 』KV111 (1771年) は、
作曲、初演を巡って、ミラノ旅行と深い関係があります。

 『アルバのアスカーニョ』序曲 KV111a は、"交響曲ニ長調"
KV120 (番号無し) と同一の曲です。

 また、このたびの第3回イタリア旅行も、『ルーチョ・シッラ
KV135 (1772年) を作曲、初演するためのものでした。




 三回のイタリア旅行は、15~17歳にかけての Mozart が、
当地風の歌劇や序曲に親しむ、貴重な機会となりました。




 (続く)



Mozart の♭の響き ⑧ ## → ♭♭♭

2009-05-18 00:00:35 | 私の室内楽仲間たち
05/18 私の音楽仲間 (59) ~ Mozart の♭の響き

             ⑧ ## → ♭♭♭




          私の室内楽仲間たち (39)




   この集いは、すでに何度かお読みいただいているグループです。

         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




          関連記事  Mozart の♭の響き

                   メヌエット?
                四重奏から交響曲へ
              Mozart の短調のメヌエット
              ハイドンの短調のメヌエット
                 アレグロ マギレット
                    ミラノ土産
                   素材の倉庫
                  ## → ♭♭♭
                3つの♭、3つの音符
                    深まる謎




 前回まで、Mozart の17歳の年の二つの作品を、ご一緒に見て
きました。 そこでは、テーマの間に密接な関連がありました。

 それらは弦楽四重奏曲変ロ長調 KV159 (1~2月、ミラノ)の
第Ⅱ楽章 "Allegro" と、交響曲第25番ト短調 KV183 (173dB)
(9~10月、ザルツブルク) の全楽章でした。




 上記の2曲では、弦楽四重奏曲の一つの楽章に見られた様々
な素材が、のちに交響曲の全楽章を形作ることになりました。
言わば、大かがりな編成に "発展" したわけですが、その "逆"
の形
が見られる場合もあります。



 弦楽四重奏曲第7番変ホ長調 (ミラノ四重奏曲第6番)KV 160
(159a) は、前作 (変ロ長調 KV159) と同様、やはり3楽章から成る
曲です。 そして、その第Ⅰ楽章冒頭をちょっとお聞きになる
だけで、「あれ?」と思われる方も多いことでしょう。

  音源



 そう、有名な『ディヴェルティメント ニ長調 KV136 (125a)』、
第Ⅰ楽章冒頭
(1772年作曲) と、まるで同じように始まるのです。

  音源ページ




 ご覧いただく譜例 (上) は、"原曲" となったディヴェルティメント
の冒頭4小節です。





 下の譜例はあとから出来た四重奏曲で、このテーマ部分が
2小節分に凝縮されているのが解ります。





 各譜例の、前半2小節 (上) と1小節 (下) を比べてみると、第一
ヴァイオリンだけでなく、第二ヴァイオリン、ヴィオラの伴奏音形まで
そっくりです。 速度標語はどちらも "Allegro" です。




 ディヴェルティメントは弦楽器、管楽器、ときには打楽器も含む、
色々な形の編成で書かれます。 この "KV136" は弦だけのため
のものですが、弦楽四重奏よりはむしろ、コントラバスを加えた
弦楽合奏で演奏されることが多いようです。

 「ディヴェルティメントが四重奏曲に "なった"」という、この
成り行きから見ると、「一つのテーマが若干形を変え、編成
小さな四重奏で転用された」ことになります。

 このような例は Mozart に限りません。 作曲家によっては、
歌劇の作曲が間に合わず、自分の他の作品を序曲として
持ってきて、公演に間に合わせた例さえ、幾つもあります。



 しかし、この "ディヴェルティメントのテーマ" では、そのような
"間に合わせ" の姿勢は、一切感じられません。 テーマが似て
いると言っても、二つの曲はまったく別のものです。




 ディヴェルティメントは "嬉遊曲" とも呼ばれるとおり、明るく
楽しい曲で、もともとは貴族の食事や宴会の場に演奏された、
娯楽音楽です。

 それでは、「これが四重奏曲になると、暗い、深刻な曲に
なったのか」と言うと、決してそのようなことはありません。
感情表現の振幅は確かに広くなりましたが、しいて言えば、
「"調性" が変ホ長調に変わったことによって、雰囲気が
落ち着いた」ということでしょうか。



 ニ長調が変ホ長調になると、なぜ "明るさ" が "落ち着き"
に変わるのか、これはまた別の機会に譲りますが、一つには
"弦楽器の開放弦" が、「全体の響きにどの程度関与するか」
という問題があります。




 いずれにせよ、""、""、""、""、"変ロ" と、順番に
各長調で作られてきた作品群は、この "変ホ長調" で一旦
完結し、6曲の『ミラノ四重奏曲』が出来上がりました。

 また同時に、Mozart の「♭の響きの探求」も、ここで一区切り
付くことになります。



 さらにこの四重奏曲では、また別の楽章が、交響曲への
"橋渡し" となる例が見られます。




 (続く)




滑舌 カツレツ … (8) 何でも屋さん

2009-05-16 01:48:07 | その他の音楽記事

05/16  滑舌 カツレツ … (8) ~ 何でも屋さん




          これまでの 『その他の音楽記事』




 このシリーズは、これまでに下記の7回分があります。

  (1) 早口言葉 ①

  (2) ニュース原稿

  (3) 早口言葉 ②

  (4) 熊蜂と飛ぶ

  (5) 熊バーチュも飛ぶ

  (6) トロンブーンも飛ぶ

  (7) 女王蜂も飛ぶ

  (8) 何でも屋さん





 やあ、ボク、まるだよ、ワン!

 みんな、元気? いつも読んでくれて、ありがとうね?




 あのね、今日はもう、ハチは出てこないよ。 熊蜂や、
女王蜂や、本当に色んなの、いたよね。 刺されるの、
ボクも嫌だしさ。 もう大丈夫だよ。

 今日のはね、楽器じゃなくてね、歌なんだ。 口をね、
ものすごく速く動かして歌うんだよ? 一緒に聴いてね?



 音楽はね、『セヴィリャの理髪師』っていう、オペラだよ。




 じゃあまず、序曲から行こうね。 ジャジャーーン!

  King's Singers - Barber of Seville Overture




 今度はね、『町の何でも屋のお通りだ!』っていう歌だよ。
フィガロが歌うんだ。



 イタリア語の早口言葉だけど、英語だと、こんなこと、
歌ってるらしいよ。

  英訳歌詞




 音源



  Roberto Servile



  Gino Quilico



  THOMAS HAMPSON



  廖昌永 Liao Chang-rong



  Tae-Joong Yang ( ??? )



  Dmitri Hvorostosky



  Hermann Prey



  Nyle Wolfe



  Tito Gobbi




 次はイタリア語の歌詞だけど、また maru のやつがこしらえた、
いい加減な日本語が付いてるよ。

 こんなにたくさん喋るの、歌いながらだったら、すっごく難しい
だろうな…!




Largo al factotum della città.
          私は町の何でも屋、フィガロ様の お通りだい。

Presto a bottega che l'alba è già.
          夜も はや明けて ご出勤。

Ah, che bel vivere, che bel piacere
          暮しは一流、楽しさ一杯

per un barbiere di qualità!
          利発な理髪師に ピッタリさ!



Ah, bravo Figaro!
          フィガロ 上出来

Bravo, bravissimo!
          最高でっせ!

Fortunatissimo per verità!
          運に魅入られ!




Pronto a far tutto,
          何でもござれ

la notte e il giorno
          昼夜いとわず

sempre d'intorno in giro sta.
          仕事を続け、

Miglior cuccagna per un barbiere,
          床屋にゃ 最高の境遇で、

vita più nobile, no, non si da.
          こんな優雅な生活無いよ。



Rasori e pettini
           (くし) に 剃刀 (かみそり)

lancette e forbici,
          針、 鋏、

al mio comando
          何でも俺の

tutto qui sta.
          意のままよ。



V'è la risorsa,
          ほれ、この道具で

poi, del mestiere
          お相手するだ、

colla donnetta... col cavaliere...
          ご婦人方に 紳士連



Ah, che bel vivere, che bel piacere
          暮しは一流、楽しさ一杯

per un barbiere di qualità!
          利発な理髪師に ピッタリさ!




Tutti mi chiedono, tutti mi vogliono,
          引く手あまたの 人気者

donne, ragazzi, vecchi, fanciulle:
          奥さん、若いの、爺さん、姐ちゃん、



Qua la parrucca... Presto la barba...
           (かつら) 欲しいぞ。 ほら髭 頼む。

Qua la sanguigna... Presto il biglietto...
          頬紅はまだ? 手紙出せ!

Qua la parrucca, presto la barba,
          鬘はまだか? 髭、急げ!

Presto il biglietto, ehi!
          手紙はどうした……、えい、もうたまらん。



Figaro! Figaro! Figaro!, ecc.
          フィガロ。 フィガちゃん。 フィガロはどこだ!

Ahimè, che furia!
          押しかけ 喚 (わめ)

Ahimè, che folla!
          この群衆。

Uno alla volta, per carità!
          お一人ずつねと 言っとるじゃろが!




Ehi, Figaro! Son qua.
          フィガロはどこに? ほれ、ここだ。

Figaro qua, Figaro là,
          ここにも、そこにも、

Figaro su, Figaro giù,
          あっちにも。



Pronto prontissimo son come il fulmine:
          電光石火の早業で

sono il factotum della città.
          私は町の何でも屋




Ah, bravo Figaro!
          フィガロ 上出来

Bravo, bravissimo;
          最高でっせ、
 
a te fortuna non mancherà.
          決してご損はさせないよ。




 拙訳を転載される際は、必ず事前にご連絡ください。




      関連記事   『セヴィリャの理髪師』

        ① 序曲
        ② 『空は微笑み』
        ③ 『何でも屋のお通りだい』
        ④ 『我が才智と心は』





 (続く)



Mozart の♭の響き ⑦ 素材の倉庫

2009-05-14 01:04:51 | 私の室内楽仲間たち

05/14 私の音楽仲間 (58) ~ Mozart の♭の響き

             ⑦ 素材の倉庫




          私の室内楽仲間たち (38)




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




          関連記事  Mozart の♭の響き

                   メヌエット?
                四重奏から交響曲へ
              Mozart の短調のメヌエット
              ハイドンの短調のメヌエット
                 アレグロ マギレット
                    ミラノ土産
                   素材の倉庫
                  ## → ♭♭♭
                3つの♭、3つの音符
                    深まる謎




 Mozart の弦楽四重奏曲第2番変ロ長調 KV159 の第Ⅱ楽章
"Allegro" と、交響曲第25番ト短調 KV183 (173dB) の間には、
明らかにテーマ的な関連が見られます。 ともに1773年に作曲
され、それぞれ1~2月頃 (ミラノ)、9~10月頃 (ザルツブルク)
の作品です。

 その関連がたとえ "無意識の産物" だとしても、両者の調性
(ト短調) が共通しているのを見ると、その成立にも何らかの
関係があると考えるのが自然です。 ここではそのモティーフ
の、ごく一部を見てみましょう。




 以下は弦楽四重奏曲 KV159 の中間楽章、"Allegro" の冒頭
部分の譜例で、これまでにも何度かご覧いただきました。
譜面詳細 73をクリックしてください。



 ここでは、四つのモティーフの形にご注目ください。



 ① 降下する4度音程 (最初の小節、Vn.Ⅰ)。

 ② 三つ (またはそれ以上の数) の音符が形作る、音程の凸凹
(2、4小節目)。 (1) チェロ  (2) Vn.Ⅰ  (3) Vn.Ⅱ、Viola

 ③ 下降、上向する三つの音符の音階 (9、13小節目など)。

 ④ 下降、上向する四つ (または八つ) の16分音符の音階
(25、73小節目など)。








 次は交響曲第25番の、楽章ごとの譜例です。



 第Ⅰ楽章冒頭では、開始とともに四重奏曲 "Allegro" の、
の4度音程が、そしてすぐにの16分音符が見られます。



 第Ⅱ楽章 ("96" をクリック) です。 の三つの音符の音階が
聞かれます。 (実はすでに第Ⅰ楽章の31小節、81小節などにも登場して
います。)




 第Ⅲ楽章 ("98" をクリック) は、まずの4度音程で始まります。
1、3小節目には、の凸凹音程が明確に現れます (第Ⅰ楽章
にも登場しています)


 11小節目にはの "三つの音符" が、控えめに聞かれます。

 Trio ("99" をクリック) は、メヌエット主部では聞かれなかった
の音階たちの独壇場です。




 第Ⅳ楽章 ("100" をクリック) も、の4度音程で始まります。

 2小節目にはが、10小節目にはも現れます。

 の16分音符は、8分音符となって26小節目以下で荒々しく
駆け回ります。




 ミラノで生まれた弦楽四重奏曲の "Allegro" は、ザルツブルク
では交響曲第25番として開花しました。 それも、単にメヌエット
楽章に生まれ変わったのではなく、交響曲全体にモティーフを
提供した、いわば "モティーフの倉庫" であったと言えます。




 曲の開始が "メヌエット" を思わせるものでありながら、伝統的
な形式を敢えて避け、単に "Allegro" と記した Mozart。 それは
一体どうしてなのでしょうか。

 青年期を迎えようとする、シュトゥルム・ウント・ドラング
時期にあって、長調の楽章の間に、本来は短調のメヌエットを
配置したかったのかもしれません。 しかし尊敬する先輩の
ハイドンでさえ、交響曲ではこのような試みは行っていません
でした (④ ハイドンの短調のメヌエット)

 そこで作曲したのが、極めてメヌエット的でありながら、形式は
メヌエットを避けているゆえに、誰もそうは呼ぶことが出来ない
"Allegro" だったのもしれません。



 あるいは、故郷に帰ってから本格的な交響曲に取り掛かる
ための、ほんの "メモ帳代わり" に作ったのが、この "Allegro"
だったのでしょうか。 すべては推測の域を出ません。




 この両曲に見られたテーマ的関連は、弦楽四重奏曲側が
下地となっていました。

 ところが、目的地が弦楽四重奏曲であった場合も、また
見られるようなのです。 それも、このすぐ後の作品で。




 (続く)